髙橋ツトム

ハードボイルドでありながら、スタイリッシュな作風で絶大な人気を誇る「髙橋ツトム(51)」が登場。
高校中退後、一時は就職するも、漫画を志し、87年に、初めて描いた作品が、出版社の賞を受賞。89年、漫画家デビューを果たす。その後、ドラマ化映画化された「スカイハイ」シリーズで一躍人気漫画家となる。今回は、人間の心の闇と、生き方を問う、青春逃走物語「残響」の執筆現場に密着。全ての作業を一人で行い、そこから生み出される自由な手法と衝動を掻き立てられるような絵の熱量の正体に迫る!

密着した作品

漫画家のペン先

密着撮影することによってとらえた 「漫画が生まれる瞬間」

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主人公・智 鬼気迫る表情を描く

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銃を撃つ 迫力を演出する(番組未公開)

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撃たれる男 瞬間の激しさを描く(番組未公開)

髙橋ツトム×浦沢直樹

(筆ペンとボールペンで描く)
Gペンってかすれないんですよ、強弱は出るけど。俺、かすれたいんですよ。「まぐれ」「どうかすれるか、わかんない」というふうに描いているのが好きなので。(髙橋)
全部きれいな線で出ちゃうと、結局最初に鉛筆で描いた線がいちばんいいじゃないですか。(浦沢)
そうそう。(きれいな線になると)面白くなくなっちゃう。(髙橋)

(薄墨による トーン作業を見ながら)
原稿に薄墨を塗っていると、実線までトーンになっちゃう。薄墨をスキャンして、レイヤーで重ねるっていうその発想、シンプルなようでいて、案外みんな気がついていない。全国の漫画を描いている人たち、すごくこれ試すと思いますよ、きっと。いいんですか、バレちゃって。(浦沢)
これは誰でもできるんですよ、結局。(髙橋)
みんなやると思うな。日本の漫画界、変わるかもしれませんよ。(浦沢)
ひとりで描きたいんだったら、こういうことをしたほうが速い。速いんですよ、墨入れるだけだし。10枚だったら30分ぐらい。(髙橋)

髙橋さんに、こんなことを言っていいのかアレなんですけど、うまくなり続けていますよね。もう、どんどん伸びている。(浦沢)
自分で絵がうまいと思ったことが、1回もなくて。(髙橋)
「ここだ」という着地が、まだ見えていない感じがある。(浦沢)
見えていないかもしれないですね。だからこんなことをやっちゃうのかもしれない。たぶんこの旅はずっと続くんだろうなと思っています。(髙橋)

髙橋さんの絵って、ホワイトがザザッてラフに入っているじゃない。あれ、かっこいいね。(浦沢)
これ、空気を描いていますよね。気持ちは。(髙橋)
これが有ると無いとでは、全然違うんだよね。(浦沢)
階層があると思うんですよ。たぶん、一番手前の空気のことなんだと。そう思ってやっているような気がしますね。(髙橋)

「純度100%」な髙橋ツトム作品だなって。そこにやっぱり、憧れがありますよね。(浦沢)
たかが「いたずら描き」だから、基本は。(髙橋)
もともと、僕らは子どものころに、いたずら描き、落描きで「楽しい」と思っていた。あの気持ちを、本当に消したくないですよね。(浦沢)
そうそう、そうですよ。今、描いていて楽しいですもん。(髙橋)

今、持っているところで、最高のものを出したいですもんね。プロになれるやつって、そのときのことを先送りにしないやつなんですよ。「1年後になったらもっとよくなるかな」なんて思っていると、そんなことないんだよね。
すぐ描け。持ち越さないで。今描けることは、今の力しかないんだから。(髙橋)

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読む漫勉

漫画家同士が語り合うことで飛び出した言葉の数々。本編で入りきらなかった未公開部分を、お楽しみください。

髙橋日本の漫画の絵柄というか、画面って、絶対にドットなんですよ。 浦沢ドットですね。 髙橋このドットがなくなると、急に嫌な感じになるんですよね。落ち着かない感じに。 浦沢アメコミの感じになる。『バットマン』みたいな。 髙橋いくらうまい絵を描かれても、ドットが乗っていないと「漫画じゃねえな」という印象になる。だから、ドットをどう扱うかが大事。 浦沢昔は、網かけを指定でやっていたようです。石ノ森章太郎先生の『サイボーグ009』の原稿とか見ると、青鉛筆で指定が入っているだけなんですよね。 髙橋「印刷所でドットを載せて」ということですか。 浦沢そうです。「網 何パーセント」っていうやつですよ。 髙橋その時代のドットが、やっぱりずっと残っているんですよね。

(修正を繰り返す部分を見ながら) 浦沢絵なんてガチで描こうとしたら、大変なことだらけなんで。「どうごまかすか」を考えることがデザインにつながる。いわゆるスーパーリアリズムみたいな絵にガチで飛び込んでいったら、全部やらなきゃいけなくて大変なことになる。 髙橋「写真撮りゃいいじゃん」みたいな。 浦沢そうそう。それを手描きの絵にするには、「どうラクしようか」を考えろって、アシスタントにもよく言っています。そこからデザインが生まれるって。 髙橋これは完全に「ラクしよう」ですね。ただ、構図を選ぶというジャッジをしているんで。 浦沢絵を描く作業ってそれですよね。ある場所に座って風景画を描くときも、何を描こうかっていうチョイスですもんね。

髙橋俺、画面なんかは、確実に『蜘蛛巣城』(黒澤明監督の日本映画/1957年公開)に近づけたいだけなんですよ。 浦沢ああ、『蜘蛛巣城』なんですか。 髙橋あそこら辺の黒澤明の画に近づけたいんです。スモークの感じとか。 浦沢いいところ目指してますね。 髙橋あの時代のモノクロの日本映画の感じをとらえたいなと。それはあまりポップじゃないことなんですけど、「関係ねえや」って、「それが好きなんだから」って。あの時代の日本映画って白黒しかなかったわけだから、めちゃくちゃ気を遣ったはずなんですよね、ライティングとか。 浦沢日本漫画も、モノクロ文化なんですよね。

髙橋(日本の漫画家は)白と黒しか渡されていないんで。結局、それをどう配置するか。 浦沢ハーフトーン(明部と暗部の中間の階調)に頼り過ぎるのは、やっぱりダメなんですよね。 髙橋だから最初に白黒で描けるようになってないと。俺がすごく勉強したのは、坂口尚さん。めちゃくちゃうまいんですよ、白と黒の位置が。 浦沢木陰の影の落ち方とかね。もう、ホント憧れた。 髙橋本当にうまい人は、トーン貼らなくても大丈夫なんですよ。

浦沢髙橋さんの、この、ヨロって歩く感じ。バランス崩しながら歩いている感じ。特にこの作品の主人公たちは、寄る辺ない感じで歩いてる。 髙橋やっぱり立ち姿とか気にします。 浦沢大友克洋さんの『さよならにっぽん』のラストで、見送っているアメリカ人が普通にボーっと立っている絵があるんですよ。漫画でそんな立ち方をしている人を、それまで見たことがなかった。 髙橋うん、なるほど。 浦沢片足重心で、スッと、ただ立っている。衝撃的で、何回も自分で練習しました。「普通に立っている人」が描きたいって。 髙橋普通に立っているのって難しいですよね。でも、立っているんだから、どこかで調和はしているんですよね。 浦沢そう。どこかにバランスの中心がないと、立っていられないので。 髙橋そうなんですよね。もしかしたら、背骨が見えているのかもしれないですね。

浦沢楽しんで描いている絵じゃないと、読むほうも楽しめない。僕も「ここはあんまり描きたくないな。でも、どうしても通過点として描かなきゃいけない」っていうシーンは、どうやったら自分が面白がれるかを考えます。 髙橋うん、俺もそうです。構図をなんとかしてみるとか、カメラを変なところに置いてみるとか。なにか、「不確かなもの」になるようにやっている。 浦沢(髙橋さんの作画を)見ていると、「しまった!」と、やり直しでホワイトをかけるパターンがほとんどないですよね。修正がない。効果のホワイトはあるけど。 髙橋ああ、そうですね。俺、ホワイト入れないですね。 浦沢それはもう、「トラブルを全部受け入れるぞ」ってくらいの姿勢でやっているんでしょうね。

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※手書きはすべて 浦沢直樹・自筆

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