清水玲子

シーズン4の第1回は、昨年、映画化され大きな話題となった「秘密 -トップ・シークレット-」の女性漫画家「清水玲子(54)」が登場。1983年、「三叉路物語」でデビュー。2002年「輝夜姫」で第47回小学館漫画賞受賞。99年から連載がスタートした「秘密」で、2011年第15回文化庁メディア芸術祭優秀賞を受賞するなど、いま熱い注目を集めている。少女漫画でありながら、最先端の科学技術を盛り込んだSF世界を、繊細なタッチで描き熱狂的なファンを獲得している。

密着した作品

漫画家のペン先

密着撮影することによってとらえた 「漫画が生まれる瞬間」

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ミクロの修正 美しく描く

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鉛筆だけで仕上げる「脳内映像」

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デッサンのこだわり 表裏に描く

清水玲子×浦沢直樹

口の輪郭の歪みは、ちょっと大きいですね。(清水)
本当に何ミクロンのずれで。(浦沢)
違いますよね、口の開き方が。(清水)
清水さんの場合は、(修正の)あまりの微妙さに……(浦沢)
でもやっぱりそれで、(微妙に修正する意味は)大きいと思いますけどね。(清水)
そうですよね。「素敵」って思ったりすることって、本当の微妙なところですよね。ミクロの世界ですな。(浦沢)

結構、裏表ガチャガチャ描くんですよ。デッサンの狂いを直すために。しつこいくらい描きますね。どうしても気に入った絵が、一発では描けないですね。 だから、同じ絵をもう5回ぐらい(ネーム、表からの下描き、裏からの下描き、表からの下描き修正、ペン入れ)、描いてるんですよ。 時間かかっても、やっぱりしつこいぐらい下描きを描かないと。(清水)
こういうのが一番、絵を志す人たちの脳に直撃するんですよ。(浦沢)

(仕事が少なかった20代前半、ビデオに録画した歌舞伎を一時停止し、それを模写していた)
ビデオの「一時停止」が解除されるまでの1~2分で、(そのポーズの模写を)描きあげられるか、みたいな感じでやっていたんですよ。(清水)
(模写を見ながら)いやちょっと感動した、これ。すごい。(浦沢)
うまく描けないじゃないですか、下手なうちって。気持ちが悪いので、「何でうまくなれないんだ」って、結局こういうことを繰り返す。(清水)
「うまくなりたい」っていう気持ちが、これ(模写)をさせるんだよね。「欲望」なんだよね。「欲望」が描かせている感じがするんだよね。これはもう、みんな見習え。(浦沢)

(清水さんの絵は)かなり間引いた線だと思うんですよ。これだけ画力のある人だったら、もっと線を入れたくなる。すごくうまい人は、線が過多になってくる可能性、結構あるじゃないですか。(浦沢)
そういう意味では「漫画絵」が好きだから、「このくらいが一番好きかな」ってラインがあるのかもしれないですね。(清水)
やっぱり絵の風通しがいいですね。漫画ってそこのあんばいが実はとても重要で、その風通しの良さで、読者の数がずいぶん変わってくるんじゃないかな。(浦沢)
描き込みが多いと難しそうで、それだけで絵が重い。話が重くなればなるほど、ずっと重いと、読んでいるほうもきついだろうと思うので。(清水)
「ハードな話だから、このぐらい軽さを持っていないと」というところも、センスが表れるのかもしれない。(浦沢)

女性の場合、「そこをぶっちゃけるの?」っていう感じで、躊躇なく、(重いテーマを)ぶっ込んでいく感じがあるんですよね。(浦沢)
女性のほうが、多少「生命」というか、そういうものに対して近いところにいるから、ドーンって描けるのかもしれない。(清水)
ハードな話に、ちゃんとあの、ときめいた少女漫画を残す。それが、唯一無二のオリジナリティーのある世界を作り上げてるのかなって感じもしますよね。(浦沢)

本当に、「絵を描くのが好きだ」というのが、伝わってきますよね。面倒くさがっていない、絵を描く作業に対して。最近、思うんですよ。僕らは何でこんなずっと描いているのかって。「うまくなりたい」だけなんですよね。(浦沢)
そうなんですよ。うまい人の絵を見ると、「ああなりたい」って思っちゃうんですよ。(清水)
そう。「ああなりたい」。それに、「頭に浮かんだことを、全部描けるようになりたい」っていう、そういうことでもあるんだよね、きっとね。(浦沢)

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読む漫勉

漫画家同士が語り合うことで飛び出した言葉の数々。本編で入りきらなかった未公開部分を、お楽しみください。

清水本当にうらやましいんですけれど、浦沢先生みたいに、いっぱいおじさんが描けるといいなって。どうやってあんなにバリエーションを考えているんだろうと。やっぱり、おじさんの顔が好きじゃないと、描けないんですかね。 浦沢きっとね、きれいな顔を描くのと、もしかすると論理が一緒で、描きたい欲求というのかな。このラインが描きたい、このお腹の出っ張りが描きたい、その感じが自分の中に湧いてくれば、もうめっけもんなんですよね。すべてが「描きたい」っていう欲求が上がってくるか、ということで。 清水そうそう。だから最近、ちょっと固太り系のおじさん、ぽっちゃり系の運動していなさそうなおっちゃんとか、描きわけられたらいいなと思いながら、描いているんです。

清水ここまで下描きしないで、一気にペン入れすることもできるんでしょうけれど、そうするともうホワイトの嵐になっちゃうので、きっと。「どれが正解なんだ」っていう汚い原稿になっちゃう。やっぱりそれも悲しいので。 浦沢僕なんかは、割りと「エイヤッ」で、このぐらいの下描きで行っちゃうタイプですけど、不思議なもんで、ペン入れをした瞬間に正解がわかるんですね。鉛筆でやっていても、「うーん、まだわかんない。もういいや、ペン入れ行こう!」ってギュッと行った瞬間に、「あ、違う」ってわかるんですよね。なんであの下描きの段階で、わからないのかな。 清水わからないですね、確かに。たまに、どうしてもわからなくて、印刷された状態を見て「しまった!」と思うときもあります。 浦沢そうそう、ありますね。 清水「ああ、なんでこんな絵で出しちゃったんだろう。悩んでいたのがわかった」って。 浦沢だから僕は、決めゴマは割と、一晩置くんですよ。で、翌日見ると、いい悪いがわかる。

清水少女漫画の爆発期にどっぷり漬かって、中2、中3のみんなが受験勉強をし出す頃に、漫画を描き始めちゃった。コマを割って。親からめちゃめちゃ怒られて、捨てられちゃったりとか。 浦沢捨てられちゃうんですか。 清水捨てられちゃいましたね、見つかってね。受験勉強しているふりして、下で描いていて、1回バレて。「こんなのやっている場合か!」みたいな感じ。 浦沢大事なことですよね。親が学費を払ってまで「勉強してこい」っていうようなことになっちゃったじゃないですか、漫画が。 清水うん。違いますよね。 浦沢やっぱり僕らの頃は、本当に破り捨てられるっていうね。

清水月産、それこそ300~400枚描いてこそ、プロだみたいな時代もあったというか。今は、そうでもないっぽいんですけど。 浦沢やっぱり、描けば描くほど、うまくなりますからね。 清水ある程度、そうですね。20代ぐらいまでは、ちょっとそのくらい無茶してもいいのかな。 浦沢無茶して描かないと身に付かないことってありますよね。 清水「ああ、もうこんないい加減な原稿を出すのは嫌だ」という経験をちょっとしないと。 浦沢頭の中に、割と高い理想がないとだめですけどね。ある理想に向けて、そういう力を身に付けるには、相当無理して身に付けさせないと。

清水手は、顔と同じくらい好きなパーツなので。手は気持ちいいですね、うまく描けると。本当にあらゆる角度があって、向きによって表情があるので。 浦沢いい形で描けたときの喜びがあるんですよね。 清水ありますね。難しいですけれど、紙を持っている手、コップを持っている手、持つ物によって、角度によって、いろんな形が変わるので。それがきちんと描けると、とても気持ちがいい。自分が単純に気持ちいいのね。

浦沢「うまい」っていうのは、いろんな種類のうまさがあるんだけど、非常に高度なところをにらんだうまさというか、目指すところがすごく高いうまさが感じられますよね。 清水(目標は)あと10年描くことですかね。あと10年ぐらいのうちに、今、『秘密』で描いたのを、超えられるようなのを残せたらいいなって感じですかね。

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※手書きはすべて 浦沢直樹・自筆

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