花沢健吾

若者に絶大な人気を誇る「花沢健吾」が登場!
代表作である「ボーイズ・オン・ザ・ラン」が映画化され、一躍人気漫画家に。
今春、大泉洋主演で映画化される、大ヒット連載中の作品「アイアムアヒーロー」の現場に密着した。そこで発見したのは、締め切りに苦しみながらも、絶対に妥協を許さず、ギリギリまで細部にこだわる漫画家魂だった。鬼気迫る漫画への情熱に迫る。

密着した作品

漫画家のペン先

密着撮影することによってとらえた 「漫画が生まれる瞬間」

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人物の細部をリアルに描く(番組未公開)

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罪を告白する表情 人物の感情と向き合う

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生きる屍・ZQNを描く(番組未公開)

花沢健吾×浦沢直樹

髪の毛のミリペンは、何ミリを使っているんですか。(浦沢)
これは0.05ミリですね。(花沢)
これが本当に、マジック(魔法)のように髪の毛になるよね。(浦沢)
この毛の作業は、結構好きですね。こうやって髪の毛を描き込むだけでも、表情がつけられるんで。(花沢)
変わるよねえ。(浦沢)

かなりリアルな描き込みだよね。こういうふうに、リアルリアルに人間を描かないと、ゾンビになったときに「ウワーッ」というふうにならない、ということかなと。ここまで人間の造形をきっちりするのは。(浦沢)
とりあえず、日常を描きたかったんですね。そこから始まって、それが崩れていく。そこで、「大きな嘘」が始まっていくんで。(花沢)
徹底的に日常の風景を描いて、入っていかないと、日常の壊れっぷりというのは表現できない。(浦沢)
そうですね。(花沢)

(主人公の英雄を)どっちかというと、モブキャラだと思っているぐらいなんで。モブキャラが、たまたまこの漫画では、ちょっとスポットライトを浴びているぐらいの感じ。(花沢)
漫画の基本ルールとして、「背景の中でキャラクターが浮き上がるかどうか」みたいなのを……(浦沢)
もう逆に、(背景に)なじませたいと思っていますね。(花沢)
青木ヶ原の樹海があんなにうしろにあったら、見づらいはずなんだけどっていう。これは逆に、「(わざと)やっているんじゃないかな」と思っていたんですよ。(浦沢)
浮き出ているということは、「主役感」を出すために、ライトを当てたり。そうすると、僕にとってのリアリティーが減っていっちゃう。見えないんだったら、見えないでいい。そっちの方が、僕にとってのリアリティーなんですよね。(花沢)

「気持ち悪い」とか「不気味」とか、突き詰めていくと、手癖で描いた段階で気持ち悪くなくなっちゃう。(浦沢)
単純に怪獣にしちゃうと、やっぱり怖くなくなっちゃうんですよね。なんていうか、「怪獣」ぽくなっちゃうのがすごく嫌で。(花沢)
作為がね。(浦沢)
はい、自分が入ってきちゃうんですよね、ちょっと油断すると。それをなるべくなしで、いかにも自然によってできた、というものにしていきたい。(花沢)

これぐらい(深夜2時)から、ようやく筆がのってくるんですよね。追い詰められて。(花沢)
あ、そうなんだね。ここからなんだ。(浦沢)
ここから楽しくなってくるんですよね。頭がなんか、開いたような状態になるというか。ここからアイデアが出てきたりとかする。(花沢)
やっぱりそのへん、ちょっとどうかしているね。(浦沢)

やっぱり、自由だと思うんですよね。あらゆる自由な手法があっていい。だからこそ漫画なので。(花沢)
できあがった作品が、「どういうムードで、どういうふうに思われるか」ということであって、そこにおける手法はなんでもいいじゃない、というのはありますよね。(浦沢)
そうですね。(漫画家が)少しずつ、いろんな自分のなかの自由を持ってきて、それで漫画がどんどん発展して、面白くなってきているので。(花沢)

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読む漫勉

漫画家同士が語り合うことで飛び出した言葉の数々。本編で入りきらなかった未公開部分を、お楽しみください。

浦沢花沢さんって、怖がりなの? 花沢もう僕は、怖がりでこの作品を描いた感じですね。 浦沢鈴木英雄君と一緒なんだ。 花沢はい、もうまったく。同じようなことをしていたんで。寝る前に、教科書を並べて結界を張ったり。 浦沢中川いさみさんの本とかも。 花沢そうそう、もう一番怖くないんですよ。 浦沢中川いさみさんに守られて、生きていたわけね。 花沢そうなんですよ。吉田戦車さんだと、ちょっと怖いんですよ。 浦沢うん、わかるわかる。中川いさみさんは、魔物と遠いよね、なんか。 花沢そうなんですよ。 浦沢吉田戦車さんは、魔物をちょっと呼びそうだもん。 花沢そうなんですよ。怖さをちょっとだけ感じるんですよね。

浦沢本来、この(ヒロインの)眉毛は、漫画界での女の子の眉毛としては、かなりご法度だよね。 花沢濃いですね。僕は濃いのが好きなんで。でも、ようやく最近、太眉が、はやってきているんで、ようやく「来たな」って。 浦沢(ヒロインは)大変な逃亡・脱出生活をしているから、剃っている暇はないからね。 花沢はい、そうなんです。当然そうならざるを得ないので、それはもう。 浦沢ぼうぼうですよね。 花沢そうですよ。体毛だらけになっちゃいますよ。もう、うれしい限りです。 浦沢花沢さんの作品を見ていると、フェティシズムの表明はすごいなという感じがします。自分の好きなタイプをグッと出しているふうに見える。 花沢興味のないものは描けないっていうか。浦沢先生は、そこらへんが結構ドライな感じに思うんですが。 浦沢どうなんでしょうね。興味がないふうに見せかけているんじゃないですか。だから、僕のほうが逆に悪辣なのかもしれないですけどね。

花沢本当に「リアル」は突き詰めれば、いくらでもいけちゃうんで、そこのさじ加減がいまだによくわかっていないですよね。 浦沢やっぱり描けば描くほど、自然と線は多くなっていっちゃう。 花沢どっちにしろ、足しても引いても、あまり振り過ぎちゃうと、読み手が拒絶してしまう可能性もある。そこをずっと探りながらやっているという感じで。まだちょっと答えが見えていないですね。 浦沢それは結構永遠に悩むところでしょうね。着地点というか、答えは別にないから、原稿がここで完成だよという、その判断自体が今現在のオリジナリティじゃないですか。漫画家というのは、絵描きであり監督でもあるから、ディレクターとしてここがOKという判断でしょうね。だから、それこそ日々変わりますよね、きっとね。

浦沢ハードな世界観で、ずっと描いているじゃないですか。僕もハードな漫画を描いたことがありますけど、やっぱり自分の実生活と作品がリンクしちゃう、気分がリンクしちゃうというか。花沢さんの『アイアムアヒーロー』を見ていると、それを心配しちゃう。「日常生活、ちゃんと正気を保てているのか」って。 花沢逆に僕の場合は、自分の側にキャラが寄っちゃっているんです。だから、主人公が活躍しづらい。僕自身がヘタレなんで、「僕だったらゾンビが来たら逃げるだろうな」と思っちゃうと、基本的にキャラクターも逃げちゃうんですよ。そうすると、本当に物語が進んでいかないというジレンマもあって、やっぱり主人公にヒーロー感がないっていう。 浦沢でも、そういう話じゃないですか。その望みを込めた『アイアムアヒーロー』というタイトルじゃないですか。 花沢最終的にはそうなっていくのかなとは思うんですけど、動いてくれないんですよね、あまりにも。 浦沢俺だから(笑)。

花沢あんまり、漫画の敷居を上げたくないなと、思うんです。 浦沢こうじゃなきゃダメだ、というのではなくて。 花沢ごく一部の技術のある人しか描けないものではなくて、やり方はどうあれ、何かしら自分でも作れるものであってほしいなと。そこから先は、当然才能の違いとかで絶望したり、苦しんだりするんですけど、そこの敷居を、もうちょっと広げておいてもいいんじゃないかなって。 浦沢この番組のおかげで、無理につけペンのGペンとか、使わなくてもいいんだっていうのが、勇気になっているらしいですよ。「漫画の描き方」みたいな本に書いてあるルールみたいなものを、あの大御所の人たちが、ことごとく無視しているので。 花沢でもだからこそ、オリジナリティというか、新しいものが生まれていく。描けるいろんなツールがあって、描きたいっていう意思があるんだったら、描いたほうが全然いい。 浦沢鉛筆で描いて、それを例えばコピー取って、ちょっと濃いめにしてやれば、もう原稿になっちゃったりするわけだしね。今まであった漫画の描き方っていうのは、無視しちゃっていいんだろうなと思いますよね。それよりも、できあがって漫画という形態になったときに、どういう読み物になっているのか、ということのほうが重要かも知れないから。

花沢読者がすごく成熟していて、読解力が高い。だから変則的なことをやっても、単純におもしろければ、すんなりとそれに慣れてくれる。そこはあんまり不安がらずに、とりあえず自分のをやってみて、受け入れられるどうか試してみるっていう感じですかね。 浦沢こんな角度、こんなテンポ、こういうリズムで見せられたのは、初めて。そういうものが提示されると、それはそれで新鮮ですもんね。「今まで見たことのないテンポでものを語るよ、この人」っていうね。だから、今ある漫画の定型のかたちにそんなに合わせなくても。「なんだこれ?」っていうものが出てきたら、おもしろい話ですよね。 花沢そうですね。そこに「おもしろい」という感覚がわきおこってくる。そっちのほうを大切にしたほうがいいと思うんですよね。違和感のほうを。

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※手書きはすべて 浦沢直樹・自筆

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