ページの本文へ

ぐんまWEBリポート

  1. NHK前橋
  2. ぐんまWEBリポート
  3. 前橋 コロナ後遺症に苦しむ中学生が語る“忘れないで”切実な思い

前橋 コロナ後遺症に苦しむ中学生が語る“忘れないで”切実な思い

  • 2023年11月20日

「きのう話したことでさえ忘れてしまう」
「体が痛くて動くことができない」
「いつ治るのかわからなくて、怖い…」
これらはすべて記者に寄せられた、新型コロナの後遺症患者たちの声です。

新型コロナの感染症法上の位置づけが、5類に移行してから半年。
“当たり前の日常”が戻りつつあるように感じられますが、今でも後遺症で以前の日常が奪われ続けている人たちがいます。
1年以上にわたって後遺症に苦しむ15歳の中学生とその家族が「今も苦しんでいる人がいることを忘れないでほしい」と取材に応じてくれました。

(前橋放送局記者 丹羽由香/2023年10月取材)

“戻りつつある日常”一方で“続く後遺症の苦しみ”

 新型コロナの後遺症の治療を行う、前橋市内のクリニックです。5類に移行してからも、連日、多くの患者が訪れています。

この50代の女性もそのひとり。けん怠感や頭痛、めまいなどに悩まされています。さらに、女性を苦しめたのが、周囲の“無理解”です。後遺症を職場に理解してもらえず、4年間続けてきたパートを辞めるしかなかったといいます。

50代の女性患者
「仕事中に倒れるのではないかというくらい、めまいが頻繁に起きていて。『そんな状態だったらもう辞めれば?』と言われたり、だんだん無視されるようになって。どんどん自分が追い詰められていって、精神的にもきつかった」

車いすでの生活になった中学3年生とその家族は

後遺症で1年以上、苦しんでいる家族もいます。中学3年生の大倉晴樹さん(15)と母親の枝里子さんです。

腕や足を動かすと痛みが出るという晴樹さん。外出には車いすが欠かせなくなりました。
 

中学3年生 大倉晴樹さん
「支えがないと歩けないので車いすを使うしかない。後遺症がつらくて、自分で思うように動けなくて苦しいけれど向き合っていかないといけない」

母親 大倉枝里子さん
「今まで学校を休んだことのない息子が初めて学校を休むことになった。『なんでうちだけが』となりました」

手すりを支えに階段をのぼる晴樹さん

晴樹さんが感染したのは、去年9月。発熱やせきなどがありましたが、症状は軽かったといいます。

しかし、自宅での療養が終わり、テニス部の練習に復帰した日、後遺症とみられる症状が出ました。

中学3年生 大倉晴樹さん
「いつも通り練習して帰ったが、帰っている時に足がすごく痛くなって」

思うように動くことが困難になった晴樹さん。大好きだった部活はできなくなり、3年生最後の大会は車いすで応援に行ったといいます。

「ラケットは握れなくて。もっとやりたかったな」

“今も後遺症で苦しむ人がいることを忘れないで”

さらに、大きな不安となっているのが学校での勉強の遅れです。来年、高校受験を控える晴樹さん。理学療法士になる夢に向かって勉強していますが、痛みだけでなく、疲労感などの症状もあり、毎日、学校に通って授業を受けることは難しくなっているのです。

そんな晴樹さんのために、中学校がことし1月から始めたのが授業のオンライン配信です。自宅にいながら同級生たちと授業を受けることが可能になりました。休み時間には友達と談笑する姿も。ただ、設備の関係で理科の実験や音楽といった移動教室の科目は配信できず、すべての授業は受けられていません。

中学3年生 大倉晴樹さん
「今はコロナが落ち着いてきているがまだあるということを、後遺症がまだ日常にあることを知ってほしいと思います」

息子のことを少しでも支えたいと、後遺症の治療方法など情報を集める母親の枝里子さん。患者やその家族がいまだに苦しんでいる一方、後遺症に対する社会の関心が薄れてきているのではないかと危機感を抱いています。

母親 大倉枝里子さん
「家族で一家心中しようかというくらい追い詰められていた時期もありました。本当に先が見えないのでどうしたらいいのか。後遺症が残っている人がいることを忘れないでほしいです」

日々の生活に深刻な影響を及ぼすこともある後遺症。現場の医師は、医療機関だけで患者やその家族を支えることには限界があり、国や自治体がより積極的に後遺症の問題に取り組む必要があると指摘します。

錦戸崇医師
「患者や家族の困っている声をまとめる、吸い上げるところがないので作ってもらえるとありがたい。社会全体で支援の体制を作っていかないと、後遺症になった人だけが苦しむ、家族だけが苦しむ病気になってしまう。後遺症患者は社会全体で支えるべきものだと思う」

記者が後遺症をめぐる取材を始めてから、患者の皆さんがいつも訴えたのは“周囲の理解の必要性”です。晴樹さんは学校生活を車いすで過ごしていますが、先生や同級生が後遺症について理解し、サポートしてくれることが大きな力になっていると話していました。
一方、仕事を辞めるしかなかった50代の女性は、職場に理解されなかったことから精神的にも苦しみ、後遺症が治ったとしても社会復帰するのは怖いと話していました。

日々の生活の中で、できることは何があるのか。
“コロナ禍はまだ終わっていない”ということを忘れずに、家族や会社、学校など、社会全体で後遺症を理解しようとすることが、その一歩につながるのではないかと感じます。

  • 丹羽由香

    前橋放送局 記者

    丹羽由香

    2017年入局。
    福井局から前橋局に異動し現在、遊軍担当。
    前任地から医療と福祉分野を中心に幅広く取材

ページトップに戻る