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前橋“タイガーマスク”が新支援 原点はもらえなかったランドセル

  • 2023年08月23日

匿名で施設などに寄付やランドセルを贈る、“タイガーマスク運動”を覚えていますか?13年前にきっかけを作った男性は、今も子どもたちへの支援を続けています。

活動の原点は、ランドセルをもらえなかった自身の体験です。「親のいない子どもにはサンタさんは来ない・・・」当時、7歳だった男性がクリスマスの朝に感じた、言い切れない、さみしさ。同じような思いをする、子どもを1人でも少なくするためにー。

記録的な物価高が暮らしに深刻な影響を与える中、男性が新たに乗り出した支援、そして熱い思いを取材しました。

(前橋放送局 記者 丹羽由香/2023年5月取材)

サンタさんが“くれなかったランドセル”

13年前、前橋市内の児童相談所に届けられた10個のランドセル。

送り主は「伊達直人」。孤児として施設で育ったあと、覆面レスラーとして活躍し、匿名で施設に寄付やプレゼントを贈る、漫画「タイガーマスク」の主人公を名乗っていました。

このランドセルをきっかけに、文房具や寄付など、さまざまな物を匿名で贈る活動は、タイガーマスク運動として全国に広がり、社会現象になりました。

運動のきっかけとなった「伊達直人」の正体、河村正剛さん(50)です。3歳のときに母親を亡くし、親戚のもとで育ったという河村さん。活動の原点は、7歳の時の自身の体験にありました。

河村正剛さん
「僕が小学校に上がった時に、育ての親からランドセルを買ってもらえなかった。それで小学1年生のクリスマスに、サンタさんに手紙を書いて枕元に置いたんです。ランドセルをくださいって」

しかし、クリスマスの朝、河村さんが目にしたのは欲しかったランドセルではなく、そのまま枕元に残された手紙でした。

河村正剛さん
「親のいない子にはサンタさんは来ないんだと気がついた。僕が子どもの頃になかなか支えてくれる人がいなかった。だからこそ、僕は大人になったら支える側になろうと思った」

あの時に感じた言い切れない、さみしさ。同じような思いをする、子どもを1人でも少なくするために。笑顔を増やすためにー。河村さんは、自身の境遇を重ね、子どもたちのヒーローだった、タイガーマスクになることを決めました。

1回かぎりでなく、継続して生活を支えたい

クリスマスにランドセルを贈ったあとも、子どもたちを支えたいと継続して施設や子どもへの支援に関わってきた、河村さん。記録的な物価高が暮らしに深刻な影響を与える中、いま、新たな活動をスタートさせています。

高崎市内のパン屋を訪れる河村さん

この日、河村さんが訪れたのは、パン屋です。ずらっと並ぶこれらのパンは、廃棄される予定のものです。まだ食べられるのに廃棄されるパンを、経済的に困っているひとり親の家庭に届ける活動をことし3月から始めています。

廃棄される予定のパン

ランドセルのように1回かぎりではなく、日々の生活の継続的な支援が必要だと考えたからです。

河村正剛さん
「物価が高騰する中、困窮者に追い打ちをかけている実態がある。だったらなんとかして、こういった食の支援につなげられないかと」

食品ロスを減らしながら、それを困っている人の生活に役立てる、まさに一石二鳥の取り組みにするのが狙いです。

パン販売店 山本信一代表取締役
「せっかくおいしく作ったものを捨ててしまうと非常に残念に思うので、地域の役に立てるということは非常にうれしい」

こうしたパンの届け先の1つが、施設などで育った若者のサポートを行う法人です。

後日、受け取りに来たのは30代のシングルマザーです。保育園と小学校に通う、2人の子どもがいます。

毎月の食費を2万円ほどに抑えているものの、物価高が生活を直撃。こうした中での食料の支援は、家計の大きな助けになっているといいます。

2人の子どもがいる 30代のシングルマザー
「物価が年々上がっていくにつれて、色々と不安もあったりするが、支援してもらって本当に皆さんには心から感謝しています。パンを子どもたちはすごく喜んでいて、ありがたいです」

“タイガーマスク”はつなぐ存在

しかし、食料の支援には課題もあります。それが十分な量の食料が確保できるかどうかです。

河村正剛さん
「もっともっと多くの人たちを支えるとなると、それなりの食料が必要となってくるので、そのためには多くの企業や団体の協力も必要なんです」

そこで、河村さんが始めているのが、無料で食料を提供してくれる企業探しです。河村さんが訪れたのは前橋市の製麺メーカー。毎月およそ4トンを食品ロスが生じていました。

河村さんは協力してくれる企業を1つでも多く見つけ、支援の輪を広げていくことで継続性のある取り組みにつなげていきたいと考えています。

河村正剛さん
「僕の役割は“タイガーマスク”として、みんなをつなぐことだと思う。僕の活動を知った人たちが、これだったらうちはこの業界には支援できるよとか、いろいろなところに波及していって、もっともっと、いろいろな人たちを地域で支えるような形づくりにつながればと思っています」

  • 丹羽由香

    前橋放送局 記者

    丹羽由香

    2017年入局。
    福井局から前橋局に異動し現在、遊軍担当。
    前任地から医療的ケア児など医療・福祉分野を中心に幅広く取材

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