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群馬の伝統産業「養蚕業」が衰退 新たな担い手は?

  • 2023年06月30日

群馬県はかつて「養蚕業」が盛んで、長く日本の絹産業をけん引してきました。しかし、海外からの安い生糸の輸入や養蚕農家の高齢化で、近年、繭の生産量は激減していて、「養蚕業」は大きな危機に直面しています。担い手をどう確保し、伝統の産業を継承していくのか、県内の養蚕業の現場の今を取材しました。
                     (前橋放送局 記者 田村華子/2023年6月取材)

生産量全国一の「繭」が危機

「繭と生糸は日本一」
こう上毛かるたでもうたわれてきた群馬県の養蚕業。

「映像提供:大日本蚕糸会」

明治時代には日本で最初の官営の製糸場、富岡製糸場が建設されました。養蚕業は、群馬県の主力産業となり、繭の生産量は昭和29年から一度も抜かれることなく全国1位を維持しています。

ところが現在は…。

群馬県の「繭の生産量」のグラフです。

昭和43年度には2万7000トンを超えましたが、その後は大幅に減少。ついに昨年度は18点9トンあまりと、初めて20トンを切る事態に。ピーク時の1400分の1ほどになっています。

さらに、養蚕農家の数も激減。昭和40年度には7万3000戸でしたが、昨年度はわずか62戸になりました。その要因となっているのは海外からの安い生糸の輸入や担い手の高齢化などです。

県蚕糸園芸課 齊藤昭紀地域特産主監
「担い手の高齢化が進んでいる状況です。群馬県としては、なくさないように伝統産業としてしっかり振興を図っていきたい」

苦境の中 新たな担い手も

苦境が続く養蚕業界ですが、新たに就農し、伝統の産業を引き継ぐ動きも出ています。

静岡県出身の浅井広大さん(34)です。
7年前、群馬県に移住し、富岡市では4年前から養蚕をしています。

養蚕農家 浅井広大さん
「道具や桑畑、場所とかもすごい融通してくれて、使わない道具も蔵の中から引っ張り出してくれたりとか。お世話してくれる方がたくさんいてくれたのもすごい大きな後押しになりました」

現在、浅井さんは年間で800キロから900キロほどの繭を生産しています。

目指しているのは、海外産に負けない高品質の繭を生産し、もっと多くの人に絹製品の魅力を感じてもらうことです。

浅井さん

「将来、子供が例えば成人式を迎えたときに、中国産の着物じゃなくて日本産の着物をちょっと着てみようかなという感覚になったり、これからいろいろな絹製品を展開していく中で興味を持って手に取ってもらえたら」

次世代へ養蚕業を継承するには

さらに、浅井さんが力を入れているのは、養蚕業を次の世代に継承していくことです。

担い手となる人や関心を持つ人を増やそうとSNSなどで仕事の様子や魅力などを発信。

興味を持つ人に仕事の体験や見学を行ってきました。

浅井さん

「養蚕を新規で始めて、生活しているのをアピールすることで、自分もできると思ってもらいたい。そのハードルを少し下げて、みんなに養蚕業に入ってもらいやすくする狙いはありますね」

取材した日も、浅井さんの作業場には関心を持つ学生の姿がありました。養蚕について卒業論文を執筆している大学生を受け入れ、浅井さんが学生に繭の選別方法を教えていました。

大学4年生 小林香凜さん
「養蚕はやっぱり文化的な価値もあるし、産業的にも価値があるものだと思っているから、富岡からなくなってしまうのはすごく悲しい」

養蚕農家 浅井広大さん
「衰退しつつあるような産業に目を向けてくれたこともうれしい。若い人が一緒にいるだけで刺激にもなるし、後につないでいこうという気持ちになります」

養蚕農家 浅井広大さん
「群馬県は、養蚕の研究にしても、農家の技術にしても、まだまだ持っているものはあるので、それを集結して養蚕業界をもっともっと盛り上げていきたい」

伝統産業を失わないために

養蚕業の振興に向けては県も取り組みを急いでいます。

群馬県蚕糸振興計画

県が3年前に策定した計画では昨年度、18トン余りだった繭の生産量を再来年度(2025年度)までに倍以上の50トンに増やすことを目標に掲げています。そのため県では、高品質の県オリジナルの品種の開発や、県産の生糸を使った製品のブランド化を支援するなどして、養蚕業の振興を図ることにしています。

計画の目標を達成し、そして再び養蚕業が活気を取り戻すことができるのか。
群馬の伝統産業、養蚕業は厳しい状況が続いています。

  • 田村華子

    前橋放送局記者

    田村華子

    2021年入局。県政担当。視聴者に"身近な"話題を"わかりやすく"発信していきます。

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