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太田 中学生たちの熱き選挙戦 参院選の裏で国政に名乗り!? 

  • 2022年08月05日

「全ての世代に幸福を輝きを」
「子どもたちに良い環境を」

そんな訴えをしたのは、太田市の私立学校の中学生たちです。訴えの場は「国政選挙」を想定して学校で行われた「模擬選挙」。
参議院選挙の裏で、15の“議席”を巡り90人が争った、1か月ほどの熱い“選挙戦”でした。

(前橋放送局記者 中藤貴常/2022年7月取材)

生徒たちが“立候補”

収録したのは「政見放送」。

廊下にあるのは「選挙ポスター」。
太田市の私立の小・中・高一貫校「ぐんま国際アカデミー」の中等部の生徒たちが行った「模擬選挙」の選挙活動です。

教壇に立つ今井先生

企画した社会科担当の今井信一先生は、投票の仕方だけを教えるこれまでの選挙教育に疑問を感じていました。

ぐんま国際アカデミー 今井信一 教諭
「従来の模擬選挙は“自分事”にならないというのが大きな課題だと考えています。用意された授業の選択肢の中で投票をすることにとどまってしまい、それが本当に自分の生活を変えるのかとか、そういったことまで考えが至らない」

選挙区選び 政党結成 比例代表も

選挙を「自分ごと」として捉えてもらいたい。
今井先生は参議院選挙に合わせて、生徒たちが「立候補」することで、政策を「訴える側」の目線でも考えてもらう授業を企画しました。

立候補は、3年生の90人全員。
有権者は、中等部と高等部の全生徒と教職員、それに保護者たちでした。生徒たちはそれぞれの戦略や問題意識をもって選挙に取り組みました。

今井先生が特にこだわった「設定」は、本番の選挙さながらでした。

舞台は“みかん県”と“りんご県”という架空の2つの県です。それぞれに定員が異なる3つの選挙区があり、生徒はどこに立候補するか選びます。
そして、政策などの方向性が近い生徒どうしで“政党”も結成します。

当選者の決め方も本格的です。
当選者15人のうち、まず小選挙区で10人を決めます。そして、比例代表として政党にも投票してもらい、ドント方式で残る5人を決める仕組みです。

倍率6倍の「狭き門」。

生徒たちは、自分の顔写真を使った“選挙ポスター”に、政策を分かりやすくまとめた“政策ポスター”さらには“政見放送”も収録して、選挙活動を始めました。

大島候補の訴え:インパクトのある政策づくり

「全ての世代に幸福を輝きを 大島果子」
大島さんは、幅広い年代をターゲットに政策を打ち出しました。

大島さんの政策
①学業改革   :学校の休み 週2日→3日
②働き方改革  :時間外労働時間 月45時間→20時間に
③定年退職金制度:それぞれの状況に応じ、退職金の“最低額”設定

製作時間はおよそ6時間

特に力を入れたのは“選挙ポスター”です。

グラフも効果的に使用

視覚的に注目を集めるデザインで、ほかの立候補者との差別化を図りました。

大島果子さん
「インパクトがあるほうがいいかなと思って、太陽を少しイメージしました。作るのは両方で6時間くらいはかかったかな。1つ目は学生を対象に、2つ目は中年の方、3つ目は高齢者を対象に作りました」

寺田候補の訴え:身近な問題を政策に反映

「子どもたちに良い環境を 寺田梨乃」
対照的に、寺田梨乃さんは、ターゲットとなる世代を絞る選択をしました。子どもと、その保護者に関わる政策を強調しました。

寺田さんの政策
①幼稚園、保育園の増設・充実
②小・中・高共通の放課後利用施設の設置
③児童相談所をより気軽に相談できる機関に

寺田さんが工夫したのは“政見放送”でした。

パソコンの編集ソフトを使用

「一発撮り」の生徒が多い中で編集ソフトを使って分かりやすくテロップをつけました。

テロップも入れました

寺田梨乃さん
「有権者が生徒や、保護者たちだったので、子どもや子育て世代をターゲットにした政策にしようと考えました。また、自分で問題意識を持っていたことが子どもの世代の問題だったのでこの政策にしました。参議院選挙で使われている政見放送をYouTubeなどで見て、編集のしかたがすごく見やすいなと思い参考にしました」

投票日 きたる

ポスターや政見放送で比較

投票は、選挙ポスターやQRコードから見ることができる政見放送を参考に、オンラインで行われました。立候補だけでなく、投票も行うことで、政策を比較する力も身につけます。三者面談に来た保護者や教師も投票に参加しました。

QRコードから政見放送を視聴
教師

「子供が3人いるんですけど小さい子供に意識があるので、そこの政策を重視しているところにまず目がいった」

女子生徒

「みんな、すごくよい政策を考えていてとてもよかった。1つに絞るのがとても大変でした」

“当選者”になれたのか!?

参議院選挙の投開票日の翌日、学校でも当選者決定の日です。
今井先生は自作のプレゼンテーションソフトを使って、テレビの開票速報さながらの臨場感で当選者を発表していきました。

果たして結果は…。

大島さん。

そして、寺田さん、ともに当選を果たしました。

およそ1か月にわたった模擬選挙。政策を考え、訴える経験を通して、選挙を「自分ごと」として考える意識が芽生えていました。

2人の「当選の弁」は???

大島果子さん
「当選しないと思っていたのですごくうれしいです。参院選の番組などの内容も(見ていて)わかりやすくなったし、立候補者の大変さも伝わってきて、今までと違う見方ができたと思いました」

寺田梨乃さん
「やってみて一番思ったのが、立候補する人が問題だと思っていることを政策に組み込んでいるんだなと。これからは見たことのない問題を、政策を掲げている人たちにも注目してみたいなと思います」

ぐんま国際アカデミー 今井信一教諭
「ポスターや政見放送は、かなりクオリティが高くて驚きました。自分で実際に政策などを考えることで、国民のニーズがどういうところにあるかまで考えられるので、生徒が政治についてより深く考えられたと思う。3年後には有権者になるが、単純に投票するだけでなくて本当にその政策でいいのか、ということまでチェックをすることができるような大人に育ってほしい」

若者投票率アップへ どうつなげれば?

これまでにない「模擬選挙」の授業に取り組んだ生徒たち。今井先生が話したように3年後には「有権者」になる人たちです。

ただ、若者の投票率は芳しくないのが現状です。

今回の参議院選挙(速報値)
全年代  52.05%
10代  34.49%(前回比3P余↑)

このような現状を受けて、全国のおよそ95%の学校で主権者教育が行われていますが(文部科学省・令和2年公表)、その多くは公職選挙法や選挙システムだけを学ぶものだということで、実際の投票行動にはなかなかつながっていないのです。

最後は当選者が万歳

太田市の生徒たちが今回の授業をきっかけに、どんな行動変容を見せるのか、そして、未来の議員が生まれるのか。答えが出るのはまだ先のことですが、生き生きと「選挙活動」に取り組んだその姿を取材した私は、数年後の彼らの成長が今から楽しみです。

  • 中藤貴常

    前橋放送局 記者

    中藤貴常

    警察・司法を担当後、現在は両毛広域支局で行政・スポーツなどを幅広く取材

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