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群馬県宣伝部長 ぐんまちゃん戦略は 山本知事に問う【全文掲載】

  • 2022年06月24日

こんにちは、ぐんまちゃんだよ!群馬県のマスコットで群馬県宣伝部長だよ!みんなに群馬の魅力を知ってもらうために頑張っているから応援してね!

これは、ぐんまちゃんのSNSのプロフィール。
8年前に「ゆるキャラグランプリ」を獲得して以降も、県内外で高い人気を誇り、その勢いは止まらない。折に触れて「目立たない」と言われる群馬県において、その存在感は“異質”と言っても過言ではない。

なぜ、そんなに人気があるのか、なぜ、多額の予算をぐんまちゃんに投じるのか、そして、今後の戦略は?
ぐんまちゃんの“上司”である、県のトップ、山本一太知事を直撃、30分間のインタビューで聞いた。

(前橋放送局記者 山枡慧/2022年6月取材)

“キラーコンテンツ”ぐんまちゃん

ーーー山本知事は、ぐんまちゃんを「群馬県最大のキラーコンテンツ」と称してきましたが、改めてどういう位置づけなのか聞かせて下さい。

ゆるキャラグランプリで1位を取ったときは「くまモン」と「ふなっしー」が番外だったんですけども、何度か挑戦して、ゆるキャラグランプリを取り、県民の間ではかなり知られているし、非常に子供に愛されるキャラクターだし、そもそも群馬県内ではかなり知名度がありました。ただ、ここから先にもうちょっとぐんまちゃんのブランド価値を高めるとか、さらに全国的な知名度を上げる点では、もう1歩踏み込まなきゃいけないと思って、自治体としては初めてとなる本格アニメ制作をして放送しました。「ぐんまちゃんは何か?」と問われたら、群馬県にはいろんなキラーコンテンツがありますけども、なんと言っても温泉、全国一の温泉王国であることとか、農畜産物ですね。農業大国なので、キャベツのほか、夏秋なすやほうれんそうは生産高が全国トップですし、プラスアルファで雄大な自然がありますが、それに加えてキラーコンテンツを挙げるとしたら「ぐんまちゃん」が来るんじゃないかと。多くの県民に“癒やし”と“希望”を与える、そういうマスコットだと思ってます。

ぐんまちゃん
1983年、群馬県で開かれた国体=国民体育大会をきっかけに誕生。それ以来、姿形を変えながら、2012年に県の“宣伝部長”に。2014年には「ゆるキャラグランプリ」獲得。去年はアニメ放送も行われた。現在、NHK前橋放送局の「ほっとぐんま630」火曜日のお天気コーナー「ほっとウェザー」に新村美里気象キャスターと出演中

“ちびブレーク”の予感

ーーー全国的に見ると、ぐんまちゃんはどういう立ち位置にあると見ていますか?

全国のいわゆる「ゆるキャラ」、マスコットキャラクターのうち、知名度で言うと4番目ぐらいだと思うんですよね。1番が「くまモン」、2番が「ふなっしー」、3番が「ひこにゃん」、4番が「ぐんまちゃん」みたいな感じだと思うんですよね。でも、47都道府県にキャラクターがある中で言うと、4位というのは大健闘だと思うし、好感度でも多分そのぐらいまで行っていて、特にアニメ放送によって好感度は4~5%も上がっているということを考えると「ちびブレーク寸前」、ブレークの予感っていうのをものすごく感じています。ご存じだと思いますが、本郷みつるさんという「クレヨンしんちゃん」の監督を務めている本当に一流の監督を迎え、なおかつ、声優も群馬県出身の方が多いんですけど、5本の指に入る3人の声優を引っ張ってきて、音楽も「シティーハンター」を手がけた一流の方なので、アニメの制作陣は本当に一流の方々に来ていただき、第1シーズンを放送させていただきました。テレビ神奈川を中心に、群馬テレビも含まれますけれども、関東でいわゆる独立局のコンソーシアムのような形で組んでもらって、関西2局、配信では20局以上で放送させていただきました。群馬県として推定した視聴率は1.7%ありました。2%近いというのは、結構すごいことですよね。なおかつNHKの前橋放送局でも再放送をしてもらいました。NHKがコンテンツとしての価値を認めて再放送してくれてたことはすごいことだと思います。だから、ぐんまちゃんの今の立ち位置としては、群馬県民にとってのシンボルというところからもうちょっと飛び出して、国民的アイドルにはまだ至ってないけれど、群馬県のアイドルから全国的なアイドルへの脱皮を図っているところだということで、「ちびブレーク」寸前の予感みたいなものを感じています。第1シーズンが好評だったこともあり、県議会に(続編制作の)予算を認めていただきました。第1シーズンは年度をまたいだ予算を全部合わせると4億円ぐらいで作ってるんですけど、今回も同じぐらいの予算を確保できたので、シーズン2をこれから作り、どうなるかわかりませんが、来年4月ぐらいまでには放送できるんじゃないかということで、さらにおもしろい、シュールでインパクトのあるものをつくっていただこうと思っています。

コンテンツは磨き続けてこそ

ーーー知事就任以来、どういう戦略を描いてぐんまちゃんを育ててきたのでしょうか?

キラーコンテンツになり得る非常に貴重な存在でありながら、1歩広がりがないというところがありました。県の中では知られていても、全国的なキャラクターじゃないわけですよね。これをもっとコンテンツとして磨くことによって、群馬県のブランド化に貢献できるだろうと。だからいくつかキラーコンテンツの卵を探していた時に見つかったコンテンツなんですよね。これをもうちょっと先まで展開させるためには、新しいやり方を考えなきゃいけないってことで、宇佐美友章メディア戦略アドバイザーと相談して「アニメ化をやってみよう」と。ただアニメ化といっても、ほかの都道府県のキャラクターもアニメになっていると思いますが、いかにも自治体が作るアニメじゃないですか。そうじゃなくて本格的なアニメにしたいと。だからメディア戦略アドバイザーも「ぜひやりたい」と言っていたので「GOを出すためには、相当一流の人を集めてきてくれ。それであればGOを出しましょう」と言ったところ、宇佐美アドバイザーが本当に思い描いた通りの一流の方々を集めて来てくれたので、ぐんまちゃんのアニメを発信することができたと思います。富岡製糸場もそうなんですけど、コンテンツというのは磨き続けないとダメなんですよ。世界遺産というブランドにそのまま甘えてたら、どんどん入場者も少なくなっちゃってるじゃないですか。だからそこからもう1歩踏み込む努力をしないと、実はブレークしない。そういう存在ですね。

批判にどう向き合ってきたのか

ーーーぐんまちゃんを含めて、群馬県はコンテンツ制作に力を入れていますが、行政がコンテンツ制作を担っているのは、どういう狙いがあるのでしょうか?

県庁の32階に動画放送スタジオを作りましたが、これは県知事選挙のときの私の公約の1つだったんです。最初はスタジオを作ったことに対し「3億円もかけて」とか「県庁職員で回せない」など批判もされましたが、今はほとんど文句を言われません。我々が掲げた目標は全部クリアしていますし、県庁職員もだんだん研ぎ澄まされてきて、今や温泉CMなど視聴回数が100万回を超えるコンテンツも出てきました。基本的にどの自治体も動画を出していますが、今やテレビもインターネットに押されています。例えば都道府県が動画を発信する際は、ものすごいお金かかっていて、ちょっとした動画を作るのも20~30万円かかるんですね。でも、群馬県の場合は、職員の労力はありますが、ほとんど数万円で出来ているわけです。まずは動画放送スタジオを作って、群馬県庁としてのメディアを持たなきゃいけないと思ったんですけども、時代の流れとしては正しかったと思います。行政だから視聴率だけじゃないところもあるし、すごく大事なお知らせはそんな視聴数を稼げなくてもやらなければいけない。ただ、視聴率だけじゃないとはいえ、どうやって多くの視聴者に届けるかというマインドセットに変えていこうと。人事交流も広げていて、いわゆるエンタメ系にも職員を派遣しようと思ってるし、Netflixとも交渉してますが、やっぱり少し時間をかけても県庁にクリエイティブ集団を作りたい。これは無敵だと思いますね。ほかの都道府県では出来ないじゃないですか。県庁の中にコンテンツを作れる集団を作りたい。これは群馬県の将来を考えていく上で言うと、10年、20年後を見ても大きな力になると思います。

ーーー今年度の予算には「ぐんまちゃん」のブランド化戦略として4億円以上が計上されています。ゆるキャラブームは沈静化しているようにも見えますが、意義は何でしょう?

よく「ゆるキャラブームが終わっている」みたいなことを言う方もいますが、ぐんまちゃんって「ゆるキャラ」でしょうか。ゆるキャラの定義にもよるので、マスコットキャラクターと言った方がいいと思いますが、ゆるキャラブームが今あるかどうかは別として、例えば熊本県の「くまモン」の経済効果は6000億とか7000億じゃないですか。ぐんまちゃんは1000億近い効果を生むポテンシャルがあるんですよ、いろんな商品化をすることによって。それは「くまモン」も証明しているじゃないですか。観光資源にもなるわけだから。そういう意味でマスコットキャラクターというのは、ブームがどうかは別に、戦略的に見たときに十分活用できるという面があると思うんですよね。マーケティングの天才と呼ばれる方と対談した際に、「子どもにほうれんそうジュースを飲ませようとしても、ほうれんそうを食べない子どもはジュースにしても飲まないけど、オレンジをミックスしておいしくしたら自然と飲むようになる。それがマーケティングの極意だ」と聞いて「そうだ」と思ったんですよ。例えば、県産いちご「やよいひめ」のブランド化を図るために成分を調べるなどしていますが、「本当においしくて、ビタミンも含まれていて健康にいいんですよ」というアプローチもあれば、ぐんまちゃんアニメの中には「ヤヨイヒメ」というキャラクターが出てきますが、ぐんまちゃんが本当にブレークすれば子どもたちの頭の中には自然と「やよいひめ」が刷り込まれるわけですよ。これが本当のマーケティングだと思うんですね。ぐんまちゃんのアニメの世界は、群馬県とは違う世界ということになっていますが、そこに富岡製糸場や温泉が出てくる、「やよいひめ」やこんにゃくをイメージしたラッパーのキャラクターが出てくることで、子どもたちの中に刷り込まれていく。最大の強みは名前が「ぐんまちゃん」ですから。第1シーズンは2%近い視聴率がありましたが、世帯で言えば5割以上カバーしています。ここでちゃんとブレークすると、アニメの中でいろんなことが自然に子どもたちの心に入っていくので、そういう意味から言うと、今の時代に合ったマーケティングであり、メディア戦略だと思います。

“巨額予算”は未来への投資

ーーー県議会では「予算の使い方の優先順位が違うのではないか」という指摘もありましたが、4億余りを投じる効果があると?

もちろん。これは未来への投資としては必ずリターンがあるという風に思っています。こういう、群馬しかないキャラクターを生かして、コンテンツとして練り上げるということをやらなきゃいけない。予算のプライオリティー(優先順位)と言いますが、相当な予算の部分は新型コロナウイルス対策に充てているわけです。ただ、守るだけでは人間ダメじゃないですか。とにかく新型コロナ対策に全力をあげ、新型コロナの脅威から県民の命と健康、暮らしを守るということはもちろんですが、加えて未来への投資がなければ人間は希望を持てないじゃないですか。だからワクワクするようなところにもお金を付けたという、その代表がぐんまちゃんなんです。県議会の全会派からいろんな意見が出ましたけど、私が知る限り共産党もそんなに反対していなかったですよ、ぐんまちゃんについては。私の感覚では、ぐんまちゃんのアニメ化については、そんな猛烈な反対というのは無かったと思うんですね。ぐんまちゃん関連の4億円の予算も圧倒的な賛成で可決してくれたということを考えると、県議会もその価値をちゃんと認めてくれたのかなと思っています。

ーーーアニメ制作には、山本知事も直接、意見を述べることがあるのでしょうか?

基本的に本郷みつる監督を始め、制作者の方々が決めることなんですけれども、私は群馬県の背景とか、群馬県が今、目指しているものとか、群馬県の未来ビジョンとか、そういうお話をさせていただいています。そうした情報を踏まえて物事を制作しているのは一流の制作陣たちですが、私はアニメ研究家なので(笑)。マンガについても(自民党副総裁の)麻生太郎さんが詳しいと言われていますが、私の方が詳しいですから。ここで自慢してもしかたないことですが、アニメ・コンテンツを研究してきた立場からいろんな意見を言うことはありますが、基本的には群馬県が目指している方向とか、群馬県の大きな流れについて少し知事として感じていることをお話をしているという、参考情報みたいな感じですね。

他者否定しない共生の世界

イラスト:群馬県提供

ーーー続編はどのようなコンセプトになるのでしょうか?シーズン1の"シュールさ"は維持されるのでしょうか?

これは本郷監督が決めることですが、そこに流れている哲学は、はっきりしているわけです。群馬県は多文化共生の社会を目指していますが、ぐんまちゃんってムーミンみたいな世界だから。いろんな生き物がいて、それぞれの個性を発揮して共生していると。こういう世界観みたいなものは多分ずっと引き継がれるんじゃないかなと。これも本郷監督が決めることですが。それからぐんまちゃんは1つ1つのセリフも深いんですよ。他者を否定しないじゃないですか。ボーッとしているようだけど、いろんな価値を否定せず、何か物事をポジティブに捉えるところとかね。あとは当たり前なんですけれども、みんなが平和に共生していくという世界観みたいなものは、ぐんまちゃんを作る上で相当時間をかけて県庁内でも議論し、それが制作者の方々にも共有されているんじゃないですかね。でも、さらにシュールになると思いますよ、シーズン2だから。シーズン2もNHK前橋放送局が「また放送したい」と思えるようなものを我々は作りたいですね。

ーーーアニメの中に流れている価値観を子どもたちに伝えていきたいと?

そうです。これは群馬県の新総合計画のビジョンとバッチリ一致していると思います。いろんな価値を持った人が生きられる社会がいい社会で、そこにやっぱりイノベーションが生まれてくると思うんですよね。1話、1話を見返してみましたけども、それぞれテーマが結構深いですよ。今回のアニメはまだ「ちびブレーク」だけど、それでも何とか県議会からもう1作作ってもいいと合格点をいただいた理由は、世界観をちゃんと練り上げたからだと思います。ただ単に「何か群馬の名物を紹介しよう」みたいなものではなくて、ぐんまちゃんワールドはどういう風にしていくのか、それぞれのキャラクターはどういう人たちなのか、そこに流れている、ぐんまちゃんっていうアニメで伝えようとしている世界観を徹底的に練り上げたから、ある程度今、受け入れられているんだと思います。ただ、まだこれは序ノ口なので、とにかくちゃんとブレークさせたいですね。

ーーー経済効果の算出については、どうなっていますか?

今、一生懸命やっていると思いますが、「くまモン」や「ふなっしー」のレベルには全然届いていません。ただ、思ったよりもグッズの売り上げなども含めるといい感じかなと。でも、まだまだ。逆に言うと、そこが少ないというのは伸びしろが無限大だと思うので。ぐんまちゃんの知名度が上がれば当然、観光にも影響があるし、キャラクターグッズの販売も伸びるし、農畜産物なども、ぐんまちゃんのブランドがあることによってメリットがいっぱいあるので、「くまモン」のような相乗効果を狙っていきたいです。「くまモン」は高い、高い目標だけど、やっぱり「くまモン」とはまた違う独自の世界観をつくり上げたいですね。

宣伝部長からの昇格は?

ーーーぐんまちゃんは、来年の秋にはナンバープレートにも起用されます。現在の「宣伝部長」という肩書きから昇格させる考えはあるんでしょうか?

そうですね。それはこれからの流れだと思います。でも、宣伝部長っていい感じかなと思うんで。「くまモン」は営業部長室がありますが、そこの世界観は本郷監督にお任せしたいなと思います(笑)。

心の元気を広げたい

ーーー山本知事は「県民幸福度の向上」という大きなテーマを掲げています。そこに、ぐんまちゃんはどう位置づけられるのでしょうか?

ぐんまちゃんというブランドを群馬県は持っています。群馬県民に愛されているキャラクターが全国展開して、全国的にも有名になる。そのことは群馬県民の誇りの醸成につながっていくと思いますよね。だって、熊本出身の国務大臣のところに行ったら、写真撮影の時に必ず「くまモン」を抱くんですよ。それだけ愛されてるじゃないですか。しかも全国的にも圧倒的に人気のあるキャラクターだというのは、熊本県民の誇りですよね。ぐんまちゃんもそういう存在になるんじゃないかと。県民幸福度は初めて県民に意識調査を行い約7割の人が「幸せを感じている」と回答しました。一方で、群馬県に誇りを感じるかという面で見た場合、ぐんまちゃんがブレークすれば、さらに上がっていき、経済効果ではない「心の元気」にもつながっていくんじゃないかと思いますね。

  • 山枡慧

    前橋放送局記者

    山枡慧

    2009年入局。青森局、政治部を経て、2021年11月から前橋局。現在、県政担当のほか多文化共生をテーマに取材中

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