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渋川 新たな子ども食堂 白血病で亡くなった4歳の息子のために

  • 2022年05月26日

「あのときはさみしかった」

娘の声にハッとした男性がこの春、渋川市の小児専門病院の近くで新たな「子ども食堂」を始めました。病気の子どもの看病に両親がかかりっきりになっている時に“きょうだい”を預かり楽しく過ごしてもらおうというのが狙いです。

2年半前、5歳を目前にして病気で亡くなった息子との闘病生活の経験がもとになっていました。

(前橋放送局記者 丹羽由香/2022年3月取材)

“息子の分身”と共に 子ども食堂

子ども食堂を立ち上げた、青木佑太さん(38)です。
渋川市にある群馬県立小児医療センター近くの公民館の一室で開きました。初日、青木さんが、かばんいっぱいに持ってきた物があります。
ウルトラマンのフィギュアです。

エプロンの胸ポケットにもウルトラマン。

亡くなった息子が、大好きでよく遊んでいたものでした。

青木一馬くん

息子の一馬くんは3歳のときに急性リンパ性白血病を発症し、小児医療センターに入院。
およそ1年にわたって闘病生活を続けましたが、2019年10月、4歳8か月あまりで亡くなりました。

今でも月命日には新しいフィギュアを買っているという青木さん。仏壇の周りには数え切れないほどのウルトラマンが並んでいます。その中で、一馬くんの写真の一番近くに置かれたものがありました。子ども食堂で青木さんがエプロンのポケットに入れていた、一馬くんが一番好きだったフィギュアです。

青木佑太さん
「ガイアV2が一番好きだったんです。“ウルトラマンカズマ”ってあだ名で呼んでいたくらいで、一馬の分身のように思っていて、勝負ごとのときにはいつも持っています」

“きょうだい”も支えたい

青木さんが子ども食堂を始めようと考えたきっかけの1つが、娘のひと言でした。
一馬くんの2歳下の妹、優里南ちゃんです。去年、妹が生まれてお姉ちゃんになりました。その妹に青木さん夫妻がかかりきりになっているとき、こう口にしたといいます。

(右)優里南ちゃん

「前は一馬で、今は妹ばっかりだよね」

一馬くんの闘病生活中、1歳だった優里南ちゃんは、感染対策のため病院に一緒に連れて行けませんでした。青木さんは優里南ちゃんの言葉にハッとしたといいます。祖父母に預けきりになることが多く一緒に過ごす時間が少なかったことに気づかされたからです。

青木佑太さん
「生活の中心は一馬の入院で、昼間は妻、夜は私が泊まって交代で付き添っていました。優里南のことは一切、どうしていたのかなって。今になって思うと優里南には負担をかけていました」

闘病生活でつらかったのは自分たちだけではなく、優里南ちゃんも同じだったと感じた青木さんは、どうしたら病気の子どものきょうだいの負担を減らせるのか考えました。

そのとき思い出したのが、一馬くんの治療から半年が経ったころ、東京の病院に転院したときのことでした。病院には、入院している子どものきょうだいの預かり活動をしている、NPO法人「こどものちから」の存在がありました。そこに通っているとき、優里南ちゃんは楽しそうに遊び、表情も明るくなっていました。

青木佑太さん
「一馬に夫婦で会えるし、優里南も楽しんで待っていられるのでとてもいい。面会のとき一緒に連れていくのは諦めていたので本当に助かりました」

預かりの場は夫婦にとっても大きな支えとなりました。優里南ちゃんが遊んでいる間に、医師と今後の治療方針を相談するなど、一馬くんと夫婦そろって向き合うことができました。きょうだいを預かってもらうことが闘病中の家族を支えることにつながるのだと実感しました。

群馬にも“きょうだい”の居場所つくりを

群馬でも、こうした場所を作りたいと考えた青木さん。しかし、なかなか思い通りにはいきませんでした。

最初に考えたのは、病院の待合室で預かること。これは、新型コロナウイルスの感染対策で病院に入れる人が限定されていたため実現できませんでした。

次に考えたのが自宅で託児所を開設すること。これは保育士の資格がなくて断念せざるをえませんでした。

そうした中で、たどり着いたのが「子ども食堂」。

開設するのに資格は必要なく、場所も公民館でできるからです。昼食を提供できれば、利用する親も子どもの食事を心配せずに、安心して預けられるのではないかと考えたからです。闘病中の家庭は、経済的な負担が大変なことをみずから経験していたことから、利用料を無料にすることもめざしました。公民館のレンタル料は、ボランティアの団体登録をすることで無料に、昼食の材料は知り合いの農家からの寄付やフードバンクを利用し確保しました。

子どもたちの受け入れにあたって気をつけるべきことは、自ら利用した東京のNPOの代表にアドバイスしてもらいました。

NPO法人 こどものちから 井上るみ子 代表
「入院中の子どものきょうだいはお家では思う存分やれていないから、ここでは思う存分好きにやっていいんだよっていう場にする」

ふだんから我慢しているきょうだいだからこそ、たとえおもちゃを壊してても怒らず、遊びの中でストレスを発散させてあげることが大事だというアドバイスです。青木さんは風船や発泡スチロールなど、壊していい物も準備しました。

“きょうだい”支援 細く長く続けたい

そしてスタートした青木さんの「子ども食堂」。

この日、開設の目的だった”きょうだい”の利用はありませんでしたが、青木さんはいつでも利用してもらえるように、一馬くんの“分身”と一緒に続けていくことにしています。

青木佑太さん
「ウルトラマンは一馬が応援してくれるお守り、宿っている気がするんです。細く長く自分も楽しみながら続けられたらと思っています」

参加したいあなたへ

青木さんの子ども食堂「昼あそび会」は事前の申し込みが必要です。
「昼あそび会」という名前には、きょうだいだけでなく、地域の子どもたちも一緒にお昼ご飯を食べて楽しく遊ぼう!という青木さんの思いが込められています。
皆さんまずは遊びに来てみませんか?

申し込みフォーム:https://forms.gle/8CfUE1GFfHwx6kXB7
「昼あそび会」毎月第2日曜日 午前9時~午後4時 渋川市北橘公民館

  • 丹羽由香

    前橋放送局 記者

    丹羽由香

    福井局から去年前橋局に異動し現在、県政担当。前任地から医療的ケア児など医療・福祉分野を中心に幅広く取材

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