太田市の高校にALTがやってきた 縁は東京五輪ホストタウン
- 2022年05月17日
私たちのニュース番組「ほっとぐんま630」では、今年度から新しいコーナーを立ち上げました。「ワールドワイドぐんま」です。多くの外国人が暮らす群馬県で、共に生きる人たちの姿や取り組みを掘り下げていきます。
1回目に取材したのは、4月から太田市の高校に来たオーストラリアの女性です。ALT=外国語指導助手を務める彼女、実はソフトボールの代表候補に選ばれたことがあります。
その来日の縁は、去年の東京オリンピックでした。
(前橋放送局記者 中藤貴常/2022年4月取材)
オーストラリアからやってきた
市立太田高校のALTとして赴任したのは、トルチンスキー・ステファニー・ローズさんです。主に2年生の英語の授業をサポートしています。
トルチンスキー・ステファニー・ローズさん
「教え始めてから1、2週間しか経っていないけれど、とても楽しんでいる。子どもたちもとても元気でかわいらしい」
授業をする上で、心がけているのは1対1でしっかりと会話をすること。
教室全体を見渡して、困っている生徒たちには積極的にコミュニケーションを図ります。
「優しく分かりやすくヒントをくれます。自分から意見が言えないこともあるけど、“こう言うといいよ”みたいな感じで言ってくれるので授業がやりやすいです」
「明るくて、こちらが元気をもらえるような、そんな先生です」
世界レベルの実力で
生徒からも人気のローズさん。教えるのは英語だけにとどまりません。
放課後、現れたのは、ソフトボール部が活動しているグラウンドでした。
着ていたTシャツはオーストラリア代表のもの。ローズさんは代表候補になったことがあるピッチャーなんです。早速、熱心に指導している選手がいました。
3年生の荒木玲音さんです。
同じピッチャーとして、世界のレベルの実力を肌で感じています。
取材したのはローズさんが赴任してまだ3週間の時。
荒木さんは早速、効果を感じていました。課題としていた「変化球の握り」に改善が見られたのです。ストレート主体だったピッチングの幅を広げようとスライダーを持ち球にしたいと考えていましたが、ローズさんのアドバイスで、試合で投げられるほど精度が上がったといいます。
市立太田高校 ソフトボール部 荒木玲音さん
「比べものにならないです。体の使い方が違いますし、分からないこと、疑問に思っていたこともこれまではなかなか聞くことができなかったので、いい経験になっています」
きっかけは“ホストタウン”
高校生たちとローズさんが出会えたのは、去年夏の東京オリンピックがあったからでした。
オーストラリアの“ホストタウン”となっていた太田市。ソフトボールの代表チームが事前合宿を行いました。新型コロナの感染が続く中での海外選手の初めての事前合宿で、全国の大きな注目が集まっていました。
ホストタウンの大きな意義の1つに「交流」があります。ただ、感染状況を踏まえ、その規模は太田市が本来想定していたものと比べると大きく縮小したものでした。
太田市 清水聖義 市長
「ホストタウンの意義の半分は交流事業だと思っていたが、その意義の半分が失われてしまったと思う。何としても子どもたちとの交流をさせてあげたかったが、コロナの影響もあってどうしても厳しかった」
大会は終わっても、交流はあきらめたくない。
市は大会後、オーストラリアのソフトボール代表チームにある依頼を出しました。
「選手をALTとして迎えたい」
その熱い思いに代表チームも応え、“白羽の矢”がたったのがローズさんだったのです。自身は、オリンピックのメンバーから外れ、事前合宿には参加しませんでしたが、大会から8か月、実績も買われて来日しました。
ソフトボールも英語も
そのローズさんから指導を受けるソフトボール部のピッチャー、荒木さんには技術以外の成長も見られています。
「苦手意識があった」という英語です。
日本語が話せないローズさんとのコミュニケーションは円滑に進まないことがあります。
ただ「同じスポーツ」に取り組むことで、それを乗り越えつつあります。
ローズさんのアドバイスをなんとか理解しようと互いに身ぶり手ぶりを交えながら、コミュニケーションを図っています。
そして、スマートフォンの翻訳機能も活用し、なんとか理解しようと試行錯誤を重ねる中で、徐々に変化が生まれてきました。
市立太田高校 ソフトボール部 荒木玲音さん
「家に帰って、自分の聞きたい文をスマホや単語帳などで調べるようになりました。会話をするためにも頑張ってみようかなって思っています」
ソフトボールを上達させるために、英語もうまくなりたい。ローズさんとの交流から生まれた相乗効果でした。
トルチンスキー・ステファニー・ローズさん
「ことばのハードルはあるけれど“壁”はありません。先生として教えることとコーチとして教えることはお互いにいい効果を生んでいます。ソフトボールでうまくいったことを次は教室で使っていきたい」
そのローズさん、今年度は“教え役”として活動しますが、その後は“プレーヤー”としてオーストラリア代表になることも目指しています。
交流と変化
オリンピック期間中、十分出来なかった太田市とオーストラリアの交流。ALTとなったローズさんが今「新たな架け橋」になって、生徒たちには「変化」が見えつつあります。
取材を通して、その「変化」を目の当たりにしたとき、それこそが東京オリンピックの1つの「レガシー=遺産」と言えるのではないかと感じました。