ライフスタイル

日本料理研究家・鈴木登紀子さんの
楽しく生きるためのヒント

愛称は、ばぁば。94歳にして現役。ささやかな楽しみを見つける名人の楽しく生きるためのヒントとはー

公開日:2019年9月5日

94歳で現役。
ばぁばの愛称で親しまれる、日本料理研究家の鈴木登紀子さん。
40年以上にわたって料理番組に出演し、古き良き日本の味を伝え続けています。

いつも笑顔を絶やさず、チャーミングなばぁばは、入れ歯なし、補聴器なしと、
元気いっぱいに見えますが、実は80代後半からは、病魔との闘いも。

それにも屈せず、いつも笑顔を絶やさない秘訣は、ささやかな楽しみの積み重ねにあるようです。

94歳 現役! ばぁばの活躍

「きょうの料理」に40年以上出演

62年目を迎える長寿番組「きょうの料理」に40年以上にわたって出演し続けているばぁば。和食を中心に600品以上のレシピを紹介してきました。
番組のスタジオでもばぁばは、パワー全開。杖を使わず、動き回ります。

モニター越しに、料理の盛り付けのチェック。画面を通しても、おいしさがしっかり伝わるように、細部にまでとことんこだわります。
また、米も研ぎ方でおいしさが変わるからと、決して人任せにはしません。
仕事に妥協を許さず、自分に厳しいばぁばですが、彼女の周りは、笑顔が溢れています。
番組の本番前、新しく加わったアナウンサーが鍋を逆手に持っていると「こんなことしたらあなたに湯気が。でも、美容にいいか?」とばぁば。鍋の持ち方を教えながらも、軽妙なやりとりでその場を和ませていました。

50年以上続けている料理教室

結婚後、3人の子育てをしながら、専業主婦をしていた40代前半。料理がおいしいと評判になり、近所の人たちにお願いされ、料理を教え始めました。
それ以来、50年以上続く料理教室は、現在でも月に10日間開催。
旬や食材を大切に扱う料理を教えています。
ばぁばの料理教室は、一般的な教室とは違い、生徒さんの前でばぁばが調理をし、生徒さんは見て覚えていくスタイル。およそ2時間、ばぁばは一度も腰かけることなく調理します。94歳とは思えないほどの集中力です。

教室の最後には、「“やさしい心でやさしいお味に”を心がけてくださいませ」と生徒のみなさんへ言葉をかけていました。
食べる人を思いながら料理をする。この心の持ち方が、ばぁばの料理のおいしさの秘けつなのかもしれません。

料理への思い

長年、料理を生業としてきたばぁばに、“料理”とは“食べること”とは何かを伺いました。
「料理をするときはおいしくね、家族が喜ぶものをと思うのが普通ですよね。自分がちょっと大変であっても、喜ぶ顔とか、成長を見るとか。食べることは生きることと思っておりますね」「栄養のある薬みたいなものを飲んでもおいしさは得られません。五感を働かせていただくということ、頂いた後には“ごちそうさま”って幸せ感を味わえる。だから食べるってことは、とっても大切だと思います」
季節ごとの旬のものを使っておいしい料理を提案し続けているばぁばですが、旬を大切にしている理由があります。
「季節のおいしいものをいただくと優しい気持ちになれますよね。でも、旬は短いの。短いからこそ、次の旬を待つという楽しみもあるわよね。春だったらタケノコ、夏なら涼やかなもの、秋だったらキノコ、冬になったら鱈(たら)とかって、旬を迎えたものを料理する。それを繰り返していると、自然と料理の腕も上がるのよ」といいます。

相手を思う、ばぁばのおもてなし

美しい器に盛り付けられたこの料理にも、食べる人を思う、ばぁば流のおもてなしの心が随所に込められています。

料理の盛りつけや、器もごちそうのひとつというばぁば。味だけではなく、目でも料理を楽しんでもらえればと思っています。
また、料理に添える箸袋や献立にもこんな工夫が。
箸袋には、「ささやか」という言葉と、ゲストの名前を書いて。
献立は、 「軽くどうぞ」という意味で「おしのぎ」と書かれていました。
手書きでそれも毛筆で書くのは面倒と思いがちですが、書くことが好きなばぁばは、楽しいからやっていることと、いいます。
自身の料理の原点は“母の千代さん”という、ばぁば。「料理は、つくる人も楽しむ。そして、それを食べる人も楽しむということを教えてくれた」といいます。
そんな母から小さい頃に教わった食事の作法も忘れずに覚えているそうです。
そのひとつが「口に含んだ箸は、箸置きの先に出す」ということ。
口に含んだ部分が箸置きに当たると、食べ物の汚れがついて、洗うときにはカピカピに乾いてしまい、洗いにくくなるからだそう。
片づける人の気持ちをも大事にしたばぁばの作法です。

ばぁば流、日々を明るく楽しくする秘訣

ばぁばを襲った試練

「驚いてちょうだい、こんなにあるのよ。私のお友達の薬です」
94歳でも現役でバリバリ仕事をしているばぁばですが、80代後半になって大腸がん、肝臓がん、心筋梗塞と立て続けに重い病気に見舞われました。がんは、再発は防ぎましたが、今も完治はしていないんだそう。
「あらっと思っただけですよ。だって向こうからやってくるから、もうどうにもならないのよ」「病気ならそれなりにしなきゃとぐらいは思いますよ。でもいつもそう思わないの。することいっぱいあるから」と病気で悲観的になるよりも、他にやることがあるととらえ、前向きに病気と向き合っています。

大病を悲観することもなく、毎日を楽しく過ごしているばぁば。日々を明るく過ごす秘訣を教えてもらいました。

先生や看護師にあだ名

ばぁばは入院中、採血にくる看護師を「吸血鬼」、ロイドメガネをかけた背の高いアメリカ帰りの担当医を「ロイド先生」。蝶ネクタイをしておしゃれな先生を「蝶ネクタイさん」とあだ名をつけていたそう。
「1日何回も看護師さんも先生も来る。採血がある。またあなた吸血鬼って私が言うの。もう毎日吸血鬼が来るのねぇって言って」
辛い闘病生活も、楽しみを見つけて乗り切ったそうです。

木箱の踏み台で筋力維持

筋力維持の目的で、長女の夫が作ってくれたというすてきな木箱。これを踏み台にして上り下りを1日に30回、行っています。
実はこの箱に、こっそり大好きなおせんべいやチョコレートを入れているばぁば。上り下りをたくさんしたときには、ごほうびとしてちょっと食べるんだそう。
「本当はあんまりお菓子とかって食べちゃだめなのよ。でもダメなこともするの、私。だって、おいしくてうれしい、楽しい方がいいでしょ」

日ごろのごほうびに月1回の焼き肉

ばぁばは、日ごろのごほうびに、月に一度焼き肉屋さんに通っています。
肉を食べるのも、ばぁば流の健康法のひとつなんだそう。カルビ、タン、サイコロステーキと、次々とたいらげていきます。
「肉はたんぱく源でしょ。体に最も力強さを与えてくれるから、欠かせませんよ。年を重ねるごとにおいしくなりました」
そういうばぁばは、ステーキだったら160gはペロリと食べられるんだとか。

指先のおしゃれを楽しむ

おしゃれには気をつかっているばぁばが塗っていたのは、真っ赤なマニキュア。
「人間が古くなってくれば爪だって歯だってどこでも古くなるでしょ。だからちょっときれいにするの。ばあさんでもこういうのは楽しいわよ」「そこら中シミだらけになるでしょ。視線を爪先に持ってくるの、相手の視線を」と笑いながらいいます。

大好きな手仕事をしてリラックス

かわいい包装紙でポチ袋作り

ばぁばにとって包装紙は、宝物のひとつ。京都のお汁粉が包まれていた紙など、かわいい包装紙を集めておき、時間があるときにポチ袋を作っています。結婚以来70年以上続けているそう。
出来上がったポチ袋は、心づけや、孫やひ孫にお小遣いを渡すときに使っています。
「作るのは、もったいないのと、きれいだからね。包装紙がきれいじゃなかったら作りたくないわね。だってこれに入ったものをもらったら、うれしいでしょ」「何にもしたくないとき、一人でいるときに、こんなの作っていればなんとなく落ち着くわね」と、ばぁば。

手ぬぐいは食事用エプロンに

使っていない素敵な柄の手ぬぐいは、取っておき、ひもを縫い付けて、食事用のエプロンに。このエプロンは、お客さまが来たときに使ってもらうそう。
そして、ばぁばが使う裁縫道具は・・・
「女学校のときに使っていた針入れなの」
なんと80年も使い込んでいるそうです。

大好きなドラマを楽しむために準備?

ばぁばが、今はまっているのは、 20 世紀前半の英国貴族社会を描いた「ダウントン・アビー」という海外ドラマ。テレビで放送されるときには、楽しむためにしっかり準備をしていたそうです。
「もうその時はちゃんとお風呂に入って、お茶を用意して、パジャマになって、ちゃんと待ってますよ。見逃したら悔しいから。そういうのが私らしいかもしれません。楽しみに向かって、じゃあ、こうして待ってましょうっていうとこもね」

“どんなときでも、前向きに。そして、日常にあるささやかな楽しみを見つけて、日々、心地よく笑いながら過ごす”。
人生の先輩でもあるばぁばの暮らしには、明るく楽しく生きる、そのヒントが隠されていました。

教えてくれた人

鈴木 登紀子

  • 日本料理研究家

プロフィール

1924年青森県生まれ。都内で料理教室を主宰。本格懐石から毎日の惣菜まで、味わい深く凛とした盛りつけの和食を伝える第一人者。NHK「きょうの料理」には40年以上にわたり出演している。