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これまでの放送 2016年7月9日(土)の放送

俺の魂の子守歌 ~ガーシュウィンの「サマータイム」~
ポピュラー音楽のスタンダードナンバーとしてお馴染みの「サマータイム」は、オペラの中で歌われるアリア。
作曲者ガーシュウィンは、なぜこれほどソウルフルな名旋律を作り得たのでしょうか。
ガーシュウィン
俺の魂の子守歌
~ガーシュウィンの「サマータイム」~
ポピュラー音楽のスタンダードナンバーとしてお馴染みの「サマータイム」は、オペラの中で歌われるアリア。
作曲者ガーシュウィンは、なぜこれほどソウルフルな名旋律を作り得たのでしょうか。

ガーシュウィン

母の歌声は希望の光

「サマータイム」は、ガーシュウィンの歌劇「ポーギーとベス」の中で歌われるアリア。舞台は1930年代アメリカ南部、チャールストンの海辺。厳しい生活を強いられる黒人(アフリカ系アメリカ人)たちが暮らす場所です。
酒と暴力、麻薬に満ちた社会の底辺で出会った一組の男女、ポーギーとベスの悲恋の物語。
第1幕。気だるい夏の夜、男たちが賭博を楽しんでいると、赤ん坊を抱いた一人の女が現れ、子守歌を歌います。これが「サマータイム」です。貧しくとも、わが子の幸せな未来を思い描く母。悲惨な境遇に差し込む一筋の光のようなこの子守歌は、物語の中で繰り返し歌われます。
第2幕では、嵐の中、船で漁に出ている夫を気遣う女が不安を振り払うかのように再び「サマータイム」を歌います。
第3幕では、嵐で赤ん坊の両親が帰らぬ人となった後、今度は、主人公のベスがみなし子を慰めるかのように歌います。虐げられながらも、前を向いて強く生きる…「サマータイム」は、このオペラの物語を象徴するアリアなのです。

ハーレムの魂でかなえた夢

ガーシュウィンは、アメリカのニューヨークに生まれました。彼の家の近くには、多くの黒人が暮らす街ハーレムがあり、著名なミュージシャンたちがラグタイムやジャズなどを演奏していました。ガーシュウィンは、こうした場所に入り浸り、黒人たちの音楽を学んでいったのです。
作曲家としてデビューし、ミュージカルやレビューのヒットソングを次々と発表。ポピュラー音楽の作曲家として注目を集めますが、彼は満たされてはいませんでした。
「いつかアメリカの言葉でオペラを書いてみたい…」そう夢見ていた彼は、23歳で初めてのオペラ「ブルー・マンデー」を発表。ハーレムが舞台で、慣れ親しんだ黒人音楽をベースにした恋物語でしたが結果は大失敗。批評家から酷評されます。つながりの無い歌が続き、ドラマ性に欠けるのが原因でした。ガーシュウィンは、オペラを作曲するための力が足りないと思い知らされたのです。和声や管弦楽法を学び直したガーシュウィンは、ピアノ協奏曲など、オーケストラを伴った作品を発表し、徐々に評価を上げていきます。そして彼は、デュボース・ヘイワードの小説『ポーギー』と運命的に出会います。虐げられた黒人社会の現実を描くドラマチックな物語に、強く惹きこまれました。格好の題材を得たガーシュウィンは、アメリカ社会を映し出したオペラを作ろうと再び夢に挑んだのです。「ブルー・マンデー」の失敗から13年。歌劇「ポーギーとべス」は、ボストンでの初演を経て、ニューヨークで124回の連続公演を達成。アメリカを代表するオペラとして世界へ羽ばたいて行ったのです。

けだるくもの憂げな伴奏の秘密

けだるくもの憂げな伴奏の秘密

「サマータイム」を聴くとなぜ、けだるさと憂いを感じるのか、秘密は伴奏にあります。

【ポイント①長短ミックスの和音】先ずは和音に注目。シから始まる短調の和音に、シから始まる長調の音階の6番目の音を入れると、長調と短調が混ざり合い、シをベースにした長短ミックスの和音が作られます。同様に、ド#をベースにした長短ミックスの和音を作ってみて下さい。「サマータイム」の冒頭数小節は、この2つの長短ミックスの和音が揺りかごのように交互に繰り返され、けだるさや憂いが表現されていると言われています。

【ポイント②半音階の塊】もう一つは半音階の塊です。「サマータイム」のオーケストラの伴奏をピアノで演奏すると、隣り合う鍵盤を使った半音階だらけになっていることが解ります。半音階の塊が所々で顔を出すことで、何とも割り切れないくすんだ感じになり、けだるさや憂いが醸し出されると言われています。

【実験 日本の曲が変身!?】有名な日本の曲「赤いくつ」などで実験してみましょう。長短ミックスの和音と半音階の塊を入れて伴奏し、歌ってみてください。長短ミックスの和音と半音階の塊を伴奏に入れると、けだるさや憂いを帯びた感じになることが実感出来ると思います。こうした点に注目しながら「サマータイム」の歌やオーケストラの伴奏などを是非楽しんで聴いてみて下さい。

ゲスト

ジャズのテイストが入ったオペラって新しい…

ジャズのテイストが入ったオペラって新しい…

堀内敬子(俳優) 堀内敬子(俳優)

堀内敬子(俳優)

profile

数々のミュージカルに出演
テレビドラマや映画でも活躍中

楽曲情報

歌劇「ポーギーとベス」から 「序奏」~「サマータイム」
ガーシュウィン
腰越満美(ソプラノ)
円光寺雅彦(指揮)
東京フィルハーモニー交響楽団(管弦楽)

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