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これまでの放送 2015年4月4日(土)の放送

つかの間の幸せの中で 映画「ベニスに死す」のテーマ曲としても有名な「アダージェット」。
甘美な旋律はマーラーが愛する妻に宛てた“ラブレター”だった…!
つかの間の幸せの中で
映画「ベニスに死す」のテーマ曲としても有名な「アダージェット」。
甘美な旋律はマーラーが愛する妻に宛てた“ラブレター”だった…!

愛から生まれた音楽

ルキノ・ヴィスコンティ監督の傑作映画「ベニスに死す」のテーマ曲として一躍有名になった「アダージェット」。でもこの曲、もちろん映画音楽ではなくれっきとしたクラシック音楽の作品です。書いたのは、19世紀から20世紀にかけてウィーンで活躍した作曲家マーラー。「アダージェット」は、マーラーの交響曲第5番の第4楽章にあたる曲なのです。「死の嘆き」や「生の勝利」といった重いテーマを感じさせる交響曲第5番の中で、第4楽章「アダージェット」が描くのは「愛の世界」。この「アダージェット」は、マーラーが出会うなり恋に落ち、結婚した“運命の女性”アルマへのラブレターとも言われています。というのも、交響曲第5番の当初の構想には無かったこの曲はアルマと出会った頃に書かれ、交響曲全体の構成を大きく変えてでも「愛の楽章」を挿入したかったと考えられるからです。また、マーラーと深く交流し、マーラーから篤い信頼を得ていた世界的な指揮者のメンゲルベルクは、自身が使ったアダージェットの楽譜に「このアダージェットはマーラーがアルマに宛てた愛の証である」と書き込んでいます。

ラブレターは永遠に…

グスタフ・マーラーは1860年に現在のチェコにある小さな村に生まれました。幼少期より音楽の才能に恵まれたマーラーは20代から指揮者として活躍し、同時に作曲も手がけるように。37歳でウィーン宮廷歌劇場の芸術監督に就任し、楽壇のトップに立ちました。作曲だけでなく指揮者としても多忙な日々を送っていたマーラーは、1901年の秋に“運命の女性”アルマ・シントラーと出会い、4ヶ月後に結婚します。作曲家を志す音楽家でもあったアルマは夫の作品の清書やパート譜の作成を手伝い、2人は深く愛し合いました。しかしこの幸せは長く続きません。最愛の長女が4歳で病死し、マーラー自身は心臓病を発病、そして妻アルマは若い建築家と不倫の恋に…。マーラーは、妻の心が再び自分に戻ることを願いながら作曲を続けましたが、1911年に50歳でこの世を去りました。2人の愛の証は、「アダージェット」の中で響き続けているのです。

美は“ 悶え もだえ ”にあり

至極の美しさをたたえる「アダージェット」は、聴く人の欲求を高めるだけ高めた上で満たす、という作曲のワザが使われています。まずは弦楽器で始まるメロディーに注目。ここでは音楽用語では「倚音」と呼ばれる非和声音を効果的に使うことで不安定な響きが生まれ、その後に来る調和のとれた響きがより美しく聴こえるように工夫されています。続いては、ハープの冒頭の音型に注目。出だしのハープは「ド」と「ラ」の2つの音を分散和音で奏でます。じつはこの「ド」と「ラ」は、「ファラド」という3和音から主音「ファ」を抜いた音。大事な主音を入れないことで、調性感が曖昧となり、すこしミステリアスな響きが生まれます。曲の出だしを意図的に「ぼかす」ことで、聴く人の期待感を高める強烈なツカミを作り出しているのです。

ゲスト

「アダージェット」だけでなく 交響曲第5番の全楽章を聴いてみたくなりました!

「アダージェット」だけでなく 交響曲第5番の全楽章を聴いてみたくなりました!

春香クリスティーン(タレント) 春香クリスティーン(タレント)

春香クリスティーン(タレント)

profile

スイス出身。
最近はロマンチックなクラシックに興味あり

楽曲情報

アダージェット
マーラー
東京フィルハーモニー交響楽団(管弦楽)
山田和樹(指揮)

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