これまでの放送 2014年5月31日(土)の放送
「リベルタンゴ」は、クラシックのコンサートでも多く取り上げられるおなじみのレパートリー。
しかし、作曲者のピアソラに貼られたレッテルは、“タンゴの破壊者”。いったい彼は、何をしでかしたのか… 響け!俺のバンドネオン
「リベルタンゴ」は、クラシックのコンサートでも多く取り上げられるおなじみのレパートリー。
しかし、作曲者のピアソラに貼られたレッテルは、“タンゴの破壊者”。いったい彼は、何をしでかしたのか…


えっ…これもタンゴ!?


タンゴは、アルゼンチンで生まれたダンス、またこのダンスのための音楽でもあります。19世紀前半にキューバで流行した舞曲がアルゼンチンにもたらされ、これにヨーロッパの音楽などが混ざり合い、タンゴが生まれたと言われています。ダンスのステップを支える重要な楽器がバンドネオンです。この楽器から生みだされる歯切れのいいリズムは、「電撃のリズム」とも言われ、タンゴのステップにぴったり。バンドネオンに彩られたタンゴは、アルゼンチンのダンスシーンに欠かせないものとなりました。しかし、ピアソラの「リベルタンゴ」は、普通のタンゴとは違っていました。曲名は、リベルタ「自由」と「タンゴ」をつなげてピアソラが名付けた造語。つまり、“自由なタンゴ” という意味です。タンゴは、それまでアコースティック楽器が中心でしたが、ピアソラは、エレクトリックギターやエレクトリックベースなどを加え、ロックのテイストやアドリブまで盛り込みました。「リベルタンゴ」は、幅広い音色と複雑な造りで、“踊る”というタンゴの縛りから自由になり、音楽自体が主役になった“聴くためのタンゴ”なのです。
革命児が勝ち取った聴くためのタンゴ

アルゼンチンで生まれたアストル・ピアソラは、8歳のころタンゴ好きの父親からバンドネオンを買い与えられ、レッスンを始めました。みるみるうちに腕を上げたピアソラは、タンゴの本場ブエノスアイレスで一流のタンゴ楽団に入団、ナイトクラブやダンスホールで演奏し、数年後には、自分の楽団を持つまでになりました。しかし、ピアソラは次第にタンゴに行き詰りを感じるようになります。ダンスのための音楽タンゴには、形式が定められ制限が多かったからです。ピアソラは楽団を解散。タンゴ界から姿を消します。その後は、自分の音楽を模索し、クラシック音楽を学ぼうとパリに留学。そこで、ある先生に、「決してタンゴを捨ててはいけない」と諭され、自分のタンゴをつくることを決意。ブエノスアイレスに帰国したピアソラは、踊るための制限に縛られない、聴くためのタンゴを演奏する独自の楽団を結成し活動を始めました。しかし、それまでのタンゴとのあまりの違いに聴衆は猛反発。同業者とのけんか、通行人からは罵声をあび、タクシーは乗車拒否…。それでもピアソラは、より完成度の高い自分のタンゴを追求し続けました。そして1970年代、彼は、当時の若者たちに人気のロックを自分のタンゴに取り入れようとしました。それが「リベルタンゴ」でした。ピアソラはこの曲について、「自由への賛歌のようなものだ…」と語っています。困難に屈することなく新たなタンゴの世界を切りひらいた男の熱い思いが込められています。
リベルタンゴが自由な理由(ワケ)

「リベルタンゴ」は、その曲名のように、従来のタンゴには縛られない自由さがあります。例えば…
1)リズムの自由: 従来のタンゴによく出てくるリズムは、“1・2・3・4"とカウントします。タンゴの名曲、「ラ・クンパルシータ」もこのリズム。しかし、「リベルタンゴ」は、“3・3・2"とカウントする、ピアソラのトレードマークとも言われるリズム。「ラ・クンパルシータ」を“3・3・2"で演奏してみてください。“ピアソラ風" の自由な感じのタンゴに変わることが体験できると思います。
2)形式の自由: タンゴの曲なのに、ロックやジャズに出てくる形式、“リフとメロディー"が盛り込まれていて、従来のタンゴの縛りから自由になっています。リフは、リズミカルに繰り返される音のパターンのことです。「リベルタンゴ」では、「ミファミファミドラ~」と刻むリフに誘われるようにして、後に、「ミ~ミレドシラシ~」というメロディーが現れます。
ロックの名曲、ディープ・パープルの「スモーク・オン・ザ・ウォーター」も、この“リフとメロディー"の形式です。
ゲスト


小林綾子(女優)
子どものころはバレエを見たり音楽教室に通ったり…。趣味は社交ダンス。
profile
連続テレビ小説「おしん」ほか多くのテレビドラマ、映画、舞台に出演。
楽曲情報
- リベルタンゴ
- ピアソラ
- 小松亮太(バンドネオン)ほか
profile
小松亮太(バンドネオン奏者)
ピアソラと活動したタンゴ界のトップアーティストたちと共演。
自身のユニットを率いて海外でも活躍中。
情熱的でエロティシズムを感じる