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京都アニメーション放火事件 かなわなかった遺族の裁判傍聴

  • 2024年01月23日

京アニ事件の裁判は、初公判までに4年あまりかかり、その間に傍聴を希望しながら亡くなった遺族がいます。事件で娘を亡くし、裁判直前に夫を亡くした母親の声です。

(京都放送局 記者 岡本なつみ)

京アニ支えた“色彩アニメーター”

事件で亡くなったアニメーター、石田奈央美さんです(当時49歳)。   
キャラクターなどの色を細かく決めていく「色彩設計」を20年以上に渡って担当し、ベテラン社員として京都アニメーションを支えていました。   
 

奈央美さんの母親

奈央美さんは、アニメ業界には強いこだわりをもって入りました。   
母親は「あの子は好きなことにとことん打ち込む」と振り返ります。   
高校卒業後、一度は病院に就職しましたが、どうしてもアニメに関わる仕事がしたいと退職。   
1人で願書を揃えて手続きをし、専門学校に入り直しました。   
当時は「アニメーター」という職業が今ほど一般に知られておらず、父親は不安に思い、強く反対しました。   
それでも奈央美さんは、アルバイトで学費を稼ぎながら勉強に打ち込み、業界に飛び込んでいったといいます。

(奈央美さんの母親)   
「度胸もあったし、芯は強かったと思います。『自分はこれをするんや』と突っ走っていって、好きなことをしていた。絵を描くのは好きでしたが、自分よりもさらに上手な人がいると知り、それでもアニメに関わりたいと色彩の仕事を選んだのだと思います」

焼け跡から見つかった奈央美さんのノートからは、アニメのカットやシーンごとにどんな色がふさわしいのかイメージをふくらませていたことがわかります。   
「淡いというよりやわらかさを」。   
「奥行きも感じられるよう」。   
色彩による表現を追求し続けた奈央美さん。   
独特の色使いは、多くのファンを魅了してきました。

(奈央美さんの母親)   
「亡くなってからみんなに評価されているのを知って、頑張って仕事していたんだなと思いました。こんな形で命を取られて、悔しかったと思います。もっと活躍できたのにね、生きてたら・・・」

かなわなかった裁判傍聴

去年9月から始まった裁判の内容は、ニュースで欠かさず確認し、仏壇の前で奈央美さんに報告してきました。   
 

もう1人、母親が報告していたのが、奈央美さんの父親です。   
病気のため、裁判が始まるひと月前の去年8月に亡くなりました。   
父親は生前、あれほど頑張っていた娘がなぜ殺されなければならなかったのか、法廷の場で被告に直接怒りをぶつけたいと話していたといいます。

(奈央美さんの母親)   
「おしゃべりな人だったので、法廷に行っていれば被告に憤りのことばを投げかけていたと思います。被告がどんなことを話すのか知りたかったでしょうし、自分の目と耳で確かめたかったと思います」

しかし、裁判の内容は到底受け入れがたいものでした。   
「京アニに小説のアイデアを盗まれた」とする主張を繰り返し、雄弁に語り続ける青葉被告。   
謝罪はほとんど聞かれず、「申し訳ございません」という言葉を初めて口にしたのは裁判の終盤でした。   
仏壇での報告は、納得いかない気持ちを伝える内容ばかりになっていったといいます。

(奈央美さんの母親)   
「犯人が憎たらしい、反省の色は何にもない、みじんもない。『申し訳ございません』というのは口先だけで、本当に心から悔やんでいるのとは違うように感じました。ふてぶてしい態度を感じて、腹が立つだけでした」

娘は帰ってこないけれど

4か月あまりにわたって裁判の様子を報告してきた母親は、整理がつかない気持ちを抱えながら、最も重い判決を望んでいます。

(奈央美さんの母親)   
「たくさんの人が亡くなっていて、それだけひどいことをやったわけですからね。どんな判決が出ても娘は帰ってこないですし、むなしいですし、やりきれないけれども、もうそれしかないんです」

取材後記

裁判が開かれるまで4年半という月日は、高齢の遺族にとってはあまりにも長すぎました。宝物のような娘をある日突然奪われただけでなく、その理由も知ることができないと悟ったとき、どんな気持ちだったでしょう。   
一方、裁判の内容を知ったお母さんは「裁判前は被告に対して何も思わなかったけれど、事件を起こした理由が語られるにつれ、気持ちは変わっていった。今は内容も覚えていたくないくらい腹立たしい」と取材中に話していました。   
遺族の心は、家族を失ったことと向き合うだけでなく、事件から月日がたってもなお、新たな怒りや悲しみにかき乱されることを強いられていると感じます。   
こうした理不尽に社会ができることはないのか、わたしたちはどうすればよいのか、考えながら取材を続けていきたいと思います。

  • 岡本なつみ

    京都放送局 記者

    岡本なつみ

    2019年入局
    警察・司法を担当
    初任地の和歌山局を経て2年前から京都局

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