ページの本文へ

WEBマガジン

  1. NHK京都
  2. WEBマガジン
  3. 京都アニメーション放火事件 裁判で初めて知った事実

京都アニメーション放火事件 裁判で初めて知った事実

  • 2024年01月23日

裁判で初めて知った息子が亡くなった状況。反省を感じられなかった被告の言葉。気持ちは揺れましたが、父親は傍聴を続けました。社会の教訓につながることを見届けるために。

(京都放送局 記者 春口龍一)

裁判所で初めて知った亡くなった状況

父親が今回の裁判を初めて傍聴したのは、2023年9月11日、4回目の審理でした。 
裁判所で検察から渡された資料を読み進めると、被害者が亡くなった状況が克明に記されたページがありました。そこで初めて、息子が、職場の自席があるフロアの1つ上の階で、まわりの人たちとともに倒れていたことを知りました。 
息子がなぜそこにいたのか想像しました。 
とっさにベランダから抜け出ようとしたのか。みんなが避難できるよう知らせに行ったのではないか。それとも、恐怖を感じて逃げたのか。 
現場からは息子の携帯電話が無傷で見つかっていました。 
あの日、息子に何度もかけた電話は、その場所で、そういう状況で、鳴り続けていたのだと振り返り、胸が苦しくなったといいます。

匿名のわけ

息子は、京都アニメーションのアニメーターでした。 
アニメ業界に飛び込んだあと、努力を重ねて活躍していた自慢の息子でした。 
その息子は、裁判では匿名で審理されました。 
今回の裁判では、亡くなった36人のうち、半数以上の19人が遺族の希望で名前が伏せられ、匿名となりました。 
息子の場合は別の家族が匿名を希望したといい、父親は取材も匿名で受けることを決めました。

(父親) 
「自分の名前が報道で出れば、今度は家族が取材を受けるかもしれない。家族は取材に抵抗感があり、迷惑をかけたくないと思いました」

被告の話したことは

初めて傍聴した裁判。 
被告は係官に車いすを押され法廷に入ってきました。 
全身にやけどのあとが残るその姿に、思わずやけどをした息子を想像してしまい、つらくなったといいます。 
その日行われたのは被告人質問でした。 
父親は、被告から償いの気持ちが感じられるのかどうか期待して聞き入りました。 
しかし、出てきた話は、人間関係などが原因で職を転々としたあと無職になり、小説を書き始めたということ。闇の人物、ナンバー2と呼ばれる人物の指示で、警察の公安部が自分をつけていると思ったということ。小説を書いたあと、京都アニメーションのアニメを見てまた盗まれたと思ったということ。 
身振り手振りを交えて説明し、想像以上に力強かった被告の声に驚く一方、父親は内容にはついていけなかったといいます。

(父親) 
「被告は自分に都合のよい主張ばかり話していた印象で、よけいに反省や心からの謝罪の気持ちを感じられませんでした。心から冥福を祈る気持ちを裁判の冒頭にでも示してくれたら、遺族の受け止めは違ったものになっていたと思います」

二度と同じような事件が起こらないように

父親は、それでも裁判の行方を見届けようと傍聴を続けました。 
二度と同じような事件が起こらないように、同じように悲しむ被害者や遺族が出ないように、裁判がそのきっかけになってほしい、そう考えていたからです。 
次の傍聴はおよそ3か月後の2023年12月4日、検察による被害感情の立証でした。 
このなかで、父親が被告に思いを届けようと検察官に託した意見陳述書が読み上げられました。

父親の意見陳述書(抜粋) 
あなたが犯した罪の重さは計り知れないです。命を持って償ってほしいです。 
命で償っていただいても、亡くなった方々の穏やかで幸せな日常が戻ってくることはありませんし、亡くなられた方々の無念さを思うと、私たち遺族の悔しさ、悲しさ、寂しさは癒えることはありません。尊い命の重さを知ってください。 
青葉さん、今あなたにできることは心からの反省と謝罪です。 
そして、あなたが歩んだ人生を思い返し、今回の事件を起こすに至ったあなたの心の生い立ちを正直に話してください。ゆがんだ考えから自暴自棄になり、人生を棒に振るような、残虐な事件を起こす人が、二度と出ないような責任の取り方、償いに、あなたの人生のすべてをかけてください。 
自分の犯した罪を心より反省し、謝罪し、今ある命に感謝して、どんな判決でも受け入れてください。 
私たちのように息子や娘を、夫や妻を、子どもたちはお父さん、お母さんを奪われ、悲しくてつらい遺族が出るような、残虐な犯罪が二度と起きないように、当裁判が抑止力になることを望みます。

(父親) 
「かけがえないの命なんだとすべての人が理解すれば、こんなにむごい犯罪は起きず、なくなるんじゃないかと思っていますし、その思いの一端でも伝えられるものはないかなという思いで書きました。悲惨な事件が起きないように判決をきっかけに、改めて社会にはこの事件を振り返ってほしいです」

父親は、判決は多くの人が集まるとみられるため傍聴は避けましたが、どんな結論でも教訓につながってほしい、そう願っています。

取材後記

記事では、これまで取材をさせていただき、節目ごとにニュースでお伝えしてきた内容をまとめました。振り返ってみると、裁判がせめて教訓につながってほしいという思いは、事件後から一貫していました。 
万が一火災が起きても安全に避難できる建物の構造とは何か、危険物を持ち歩く不審者を見つけ通報してもらうにはどうすればよいか、社会で孤立する人をどう支援すればよいか。 
裁判で明らかになったことを通して、何か問題があったのであれば、それぞれ改善するためにはどうすればよいか考え、変えてほしいと訴えています。 
父親のこうした思いは、一人ひとりが、社会が、しっかりと受け止めなければいけないと思います。 
わたしもそのひとりとして、これからも取材を続けていきます。

  • 春口龍一

    京都放送局 記者

    春口龍一

    2021年入局
    京都局が初任地で警察・司法を担当し、2023年から丹後舞鶴支局

ページトップに戻る