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" 発見 " 毛虫の〇〇がお茶に!?

記者リポート

執筆者のアイコン画像絹川 千晴
2023年01月11日 (水)

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「桜もち」のような香りが立ち上る「お茶」。
実は、茶葉は、サクラの葉を食べて育った毛虫の「フン」です。
お茶になることを“発見”したのは、京都大学の大学院生。
なぜフンから抽出されたものを飲もうと思ったのか、その魅力は?
詳しく聞いてきました。
※虫が嫌いな人にも読んでもらえるよう毛虫の画像はありません
(京都局記者 絹川千晴)


【おいしかった “フンでいれたお茶” 】

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記者は虫は好きですが、唯一「ガ」が大の苦手です。
「その幼虫である毛虫のフンの抽出物を飲む?信じられない!」と最初は思いましたが、
「でも気になる」という記者魂が勝り、研究室にお邪魔しました。
部屋では小瓶に入った大小さまざまなフンが出迎えてくれました。
その中からサクラの葉のフンを選び、恐る恐る試飲を申し出ると、
お湯が注がれた瞬間から、部屋中に「桜もち」のような甘い香りが広がりました。
「これはいけるかもしれない」
思い切って飲んでみると、完全にお茶の味でした。
すっきりとした紅茶のようです。
しかも、甘みを存分に感じ、後味も悪くありません。
「いや、むしろこれはおいしい。もっと飲みたい」

【“発見”は偶然】

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新たなお茶を“発見”したのは、
京都大学大学院農学研究科の大学院生、丸岡毅さんです。
“発見”は偶然でした。
1年半ほど前、リンゴ農園に実習に行った先輩が
果樹の葉を食い荒らす「マイマイガ」の幼虫50匹を持ち帰ってきました。
世話を任され、毎日大量に出るフンを掃除していたとき、
フンから「桜もち」のようなよい香りがすることに気がつきました。
エサとして与えていたサクラの葉に由来するものだと直感し、
まじまじと見たとき、
サクラの枝の水替えの際にこぼれた水がフンにかかり、
赤茶色の液体がにじみ出していることに気がつきました。
もう、お茶にしか見えなかったといいます。

(丸岡さん)
「ひらめいてすぐに飲んでみましたが、びっくりするほどおいしかった。
   もともと昆虫食に関心があり、いろいろな虫を捕ってきて食べていたので、
   飲むことに抵抗はありませんでした。
   飲んだ翌日には毛虫のフンを求めて外に探しに出ていました」

【 “茶葉” は70種類に】

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丸岡さんはこれまでに40種類の幼虫に20種類の葉を与え、
70種類もの“茶葉”を生み出しました。
できたお茶にはそれぞれ個性があるといいます。

※いずれも丸岡さんの感想です。

▼「サクラ」の葉を「イラガ」もしくは「スズメガ」の幼虫に食べさせると・・・
 マイマイガと同様、桜もちのような甘い香りがするお茶に。
 うまみを感じ、飲み応えがあるといいます。

▼「ヤブガラシ(雑草)」の葉を「スズメガ」の幼虫に食べさせると・・・
 ヤブガラシは繁殖力が強いやっかいものとして知られますが、
 上品なウーロン茶のような香りと、ほのかな甘みが感じられるお茶に。
 金色のように輝く不思議な色合いになるそうです。

▼「クリ」の葉を「オオミズアオ」の幼虫に食べさせると・・・
 幼虫は人差し指ほどの大きさで、フンも直径5ミリほどと大ぶり。
 香ばしく、ほうじ茶のような香りと味で、ほのかな甘みがあるそうです。

▼「ミカン」の葉を「マイマイガ」の幼虫に食べさせると・・・
 かんきつ系のすっきりとした味わいになるかと思いきや、
 青臭い独特の風味になってしまったそうです。
 ただ、今ではそれがおいしいと感じる味覚の変化も。

▼「ビワ」の葉を「ドクガ」の幼虫に食べさせると・・・
 甘くなるのではと期待したものの、
 ほとんど味がしない薄いお茶になったそうです。

【なぜフンがお茶に?】

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新たなお茶はいずれも紅茶に味わいが似ています。
丸岡さんは、紅茶の製造工程と同じことが、
幼虫の体内で起きているのではないかと考えています。
紅茶はチャノキの葉をもんで組織や細胞を破壊したあと、発酵させて作られます。
植物の葉は幼虫にかじられて組織や細胞が破壊され、
幼虫の体内では消化酵素の働きで発酵します。
そして、幼虫に必要な栄養素が吸収されたあと、繊維質がフンとして排出されます。
フンはまさに“茶葉”とも呼べる存在なのです。

【安全性に問題なし】

丸岡さんはいま、この不思議なお茶の魅力を広めようと、商品化に取り組んでいます。
最初のハードルは、安全性でした。
丸岡さんの体調に異変はまったくありませんが、入念に確かめました。

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京都市の保健所、医療衛生センターに問い合わせたところ、
茶葉として飲用しても問題ないという回答が得られました。
また、食品メーカーの協力で行った細菌検査でも、
食中毒のおそれがないことが確認されています。

【インパクト乗りこえ魅力伝えたい】

次にハードルとなったのは、「毛虫」の「フン」というインパクトです。
それだけを聞けば、多くの人がかなりの抵抗感を感じるであろうポイントです。
そこを乗りこえた先にある魅力をどうしたら伝えられるのか。

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まず、商品名を工夫しました。
当初はインパクトを強みにしようと、
「うんころ茶」という刺激的な名前を考えていました。
しかし、知り合いのデザイナーに「その路線は違う」と止められ、冷静に。
新たに決まった名前が「虫秘茶(ちゅうひちゃ)」。
フンの存在は隠し、謎めかしました。
試作品のパッケージは、
研究室のシャーレをイメージした容器に虫食いの葉をデザインしたラベルを合わせ、
親しみやすくしています。

広め方も模索しています。
パッケージのイラストを手がけた画家やお茶に詳しいバーテンダーとの意見交換では。

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画   家「友だちに原料を知らせず、
      おいしいお茶ゲットしたよと言って飲んでもらい
      ほんとにおいしいねという感想を引き出してから、
      実は毛虫のフンから生まれたお茶でしたと種明かししてみたいなあ」

バーテンダー
     「それは賭けですよね。友情を失う可能性がある(笑)」

画   家「でもこのパッケージを見ればきちんとした商品なんだとわかり、
      安心してもらえそう」

【毛嫌いしないで】

新たなお茶は、クラウドファンディングで資金を集め、商品化が近づいています。
丸岡さんは、ハードルを乗りこえ、飲んでもらえさえすれば
必ず満足してもらえると確信しています。

身近な存在ですが、嫌われ者としてほとんど目を向けられることがなかった毛虫。
そして、偶然、毛虫から生まれたおいしいお茶。
丸岡さんは、
自然界には人間がまだその魅力に気づいていない資源が山のようにあると考えています。
新たなお茶をそこに思いをはせるきっかけにしていきたい。
ゆくゆくは、効率的に毛虫を飼い、フンを採集できる方法を確立し、
それぞれの地域にある植物と虫を生かしたお茶づくりをしたいと夢は広がります。

毛嫌いしているものにも実は魅力がある。
資源だけではなく、人間関係などあらゆるものに通じる考え方かもしれません。

 

この記事の放送はこちらから視聴できます。
https://www3.nhk.or.jp/lnews/kyoto/20230104/2010016322.html


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