髪型はツーブロック禁止、靴下は白。最近「ブラック校則」が有名になりましたが、校則を苦い思いとともに思い出すという方もいるかと思います。こうした中で、校則を、生徒みずから見直そうと取り組んだ高校が京都にあります。不登校などを経験した生徒たちが多い、定時制の高校です。生徒の多様性を尊重しようと始まったこの取り組み、結論はどうなったのでしょうか。
【「異色」の府立高校】
京都市北区にある京都府立清明高校。日中に授業が行われている定時制の高校です。現在、およそ400人が在籍。発達障害やLGBTQなどのマイノリティーも少なくなく、不登校を経験したという生徒もいます。
この学校、宿題と定期テストを廃止しました。学ぶ楽しさを取り戻そうというのです。学校が保護者に配った説明冊子には「テストで頭はよくなりません」、「そもそも知識では生きていけません」などと記して、理解を求めました。
修学旅行も廃止しました。「集団行動を強制されている」と負担を感じるケースもあるからだと言います。
代わりに実施したのは、自由参加のサマーキャンプ。キャンプファイアやカヌー体験など、生徒みずからプログラムを考え、今年度は200人ほどが参加したということです。
(京都府立清明高校 川畑由美子 副校長)「大勢とか、普通とか、こうあるべきみたいなところに合わせさせられている子どもたちが、自分の良さを大切にしながら学べる学校が必要かなと。誰もが参加しやすい授業のありかた、誰もが通いやすい学校のありかた、ユニバーサルデザインの考えにたってやっているというところです」
【学校の校則は】
この高校にも校則があります。8年前の開校時に定められました。
「制服を着用」、「頭髪加工、化粧、装身具はしない」など、いわゆる「ブラック校則」ではないものの、一定のルールが決められています。
この校則を見直そうという気運が全国で高まっています。去年には「子どもの権利」なかでも“子どもたちが意見を表明する権利”を持っていることを学校側が理解するよう「生徒指導提要」が12年ぶりに改訂されました。そのため、生徒のための校則を考えようというのです。
この学校は、校則がそもそも必要なのかどうか、ゼロから見直すことにしました。そこには1人の教諭の問題意識がありました。
【押しつけへの葛藤】
「生徒支援部」の山下大輔教諭です。担当科目は体育。もともと「一致団結」、「みんなで頑張ろう」という考え方を持っていたということですが、生徒と向き合ううちに、少しずつ変わってきたと言います。
(京都府立清明高校 山下大輔教諭)「『気をつけ!』『休め!』という号令だったり、集団行動だったり、当たり前のようにやってきましたが、必要があるのかどうか、考えました。生徒に『自分たちで考えて行動しなさい』、『これからの時代は考える力が必要だよ』と言っているにもかかわらず、教諭自身が考えずに、そもそも必要かどうかを議論することなく、生徒たちに伝えていることがあるんじゃないかなと思っていました」
生徒と接するとき、まず、校則を守っているかどうかチェックして、必要であれば注意しなければならないというふるまいは、生徒との対等な対話のチャンスを失わせていると感じていました。必要かどうかもわからないことをルールだからということだけで守ることを求めてきたことに葛藤を感じてきたといいます。
【生徒たちに任せてみたら・・・】
そこで、生徒会のメンバーに持ちかけて、見直しを始めることにしました。生徒会が提案したのは、制服か私服かを選び、さらに化粧や髪色、アクセサリーも自由にしていい「試行期間」を設けることでした。
期間は、去年11月からおよそ2か月間。ずっと制服・私服で過ごしたという人はそれぞれ2割ほどで、制服と私服を組み合わせたという人が半数以上を占めました。
カラフルからモノトーンまで、服装の色も、髪の色もさまざま。生徒だけではなく、教員の服装まで変わりました。
終了後に行われたアンケートでは、「期間中、学校生活への意欲は向上した(ように見えた)」という設問に対し、「思う」と答えたのは▼生徒の80%▼教職員の85%▼保護者の75%にのぼりました。
【多様な意見を聞いて決める】
来年度以降の服装と身だしなみをどうするか。生徒たちは、保護者や教職員を交えて、話し合いました。
生徒からは▼服装はそれぞれが決めるべきだ、▼厳しい規定を作ると生徒の反発心を招いてしまう、という意見が出されました。一方、保護者からは▼制服を着て、高校生と認識されることで大人から社会的に守られるメリットは大きい、という意見も出ました。
その結果、服装については「制服か私服かみずから選ぶ」という案が支持されました。
しかし、化粧や髪染めなどの細かいルールについては意見が分かれました。
最終的に生徒会の決定に委ねられることになりました。
これまでさまざまな経験をしてきた生徒たちです。受け止め方はそれぞれです。メンバーの1人は「アクセサリーを付けた人や明るい髪色の人が怖い。香水のにおいが嫌い」と訴えました。
最終的に、生徒会が決めた校則案は、「『自分で選択する』ことを基本に据え、課題が見つかれば『適宜見直していく』ということにしました。
ただ「嫌だ」という声をあげにくい人のことを考え、香水とけがにつながるようなアクセサリーは禁止すると書き込みました。
生徒たちが作った案は、来年度以降の新たな校則になる予定です。
(京都府立清明高校 山下大輔教諭)「しんどさや苦しさを抱えていた生徒たちが多く、従来の小学校や中学校のやり方では生きにくかった生徒たちだと思います。しかし彼らだからこそ、他の人の、経験を想像することができるのではないのでしょうか。学校側は、生徒にはこれが足りないだろうとか、必要だろうと考えて、管理しようとするんですけど、子どもたちは、僕たちが気づいていない力を持っているし、主体的に取り組むときのパワーっていうのを持っているんです。生徒をリスペクトして、もっと子どもたちの力を信じていいかなと思っています」
【当てはめられるのではなく、自分たちで決めていく】
集団行動が優先されるあまり、自分を抑えなければいけないという違和感は、学校生活を送った人なら、感じたことがある人もいるのではないでしょうか。誰かが決めたルールに当てはめられるのではなく、今は自分たちで生きるためのルールを決めていく。子どもたちみずから考える、最もふさわしい育ち方を応援していきたいと思います。
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