― こうのとりのゆりかご11年 ―

親が育てられない子どもを匿名で受け入れる赤ちゃんポスト「こうのとりのゆりかご」
熊本市の慈恵病院で運用が始まってから、5月10日で11年が経ちました。

(NHK熊本 本庄真衣)

― 半数が孤立出産 ―

ゆりかごに託された子どもは10年で130人にのぼり、
このうち26人が身元が分かっていません。
助産師などによる医療的ケアを受けず自宅や車中などで1人で産む
いわゆる「孤立出産」がおよそ半数にあたる62人でした。
また、保護された際、医療行為が必要だった子どもは29人でした。

こうした状況に対し専門家などからは
「母子の命を危険にさらすおそれがあり対策が必要だ」といった指摘が相次いでいます。


蓮田太二理事長

指摘に対し、蓮田太二理事長は次のように話しています。

「預けに来る人もそうですけど、相談する人は、
人に知られたくないという思いが非常に強い。
恥ずかしいことをした、という罪の意識が、非常に強いんです。
人に知られるくらいなら死にたい。そんな強い思いを持っていますね。
ですから、簡単にゆりかごをやめるわけにいかない」

慈恵病院では、匿名性の担保と母子の安全の確保の両方を守ったうえで、
さらに子どもが出自を知る権利を確保する新たな制度の導入を検討しています。
それがドイツで始まっている「内密出産制度」です。

ドイツでは出産にあたって、母親は、相談機関にだけは身元を明かし
病院では匿名で出産します。
助産師らの立ち会いのもとですので母子の身は守られます。
母親の身元の情報は相談機関から国へ伝えられます。
子どもは、原則として16歳になったら、本人が希望すれば
親を知ることが出来るという仕組みです。

慈恵病院ではことし2月、ドイツに視察に行くなど導入に向け準備を進めています。
中心になっている蓮田健副院長の話です。

「ひとつは出自を知る権利を保障する、それから危険な自宅出産を回避する。
お母さんと赤ちゃんの健康とか生命の危険をなんとか回避したい、
そのために導入したいと考えているわけです」

― 『内密出産制度』日本での導入、壁は ―

日本での導入に向けては大きな壁があります。それが、戸籍の問題です。

現行の法律では母親は子どもを産んだ場合、
実名で役所に届け出なければなりません。
しかし、内密出産では、母親は匿名での出産となるため戸籍を作ることはできません。
このため、子どもが無戸籍になるおそれがあると指摘されています。

ことし1月に行われた熊本市とのはじめての話し合いで病院は
「制度の導入は地方自治体や病院だけで対応できるものではなく、
国での法整備が必要だ」などと伝えられたといいます。

これについて病院は「内密出産は、孤立出産に伴う母子への危険を回避する
緊急処置的手段」と考えていて、いまの法律のもとでも制度の運用は可能だと主張しています。
5月7日、慈恵病院は熊本市役所と2度目の面談を行い、
病院が考えている制度の素案を説明しました。

― 慈恵病院が考える制度案 ―

病院は相談から出産まで匿名で受け入れます。
市の児童相談所が母親と面談し母親の実名や住所など個人情報を
「出自証明書」に記載し厳重に保管します。
病院は市に対し▽母親の仮の名前、たとえば「熊本花子さん」という名前と
▽母親が希望する子どもの名前の候補を届け出ます。
その後、市は子どもの名前を決定し、戸籍を作成します。
子どもが18歳以上になって本人が希望すれば、原則として証明書を閲覧できます。

この素案について、5月7日の面会で市からは「病院から聞いた内容をまずは
内部で確認したい」との返答があったということです。

― 制度の導入に向けた思いは・・・ ―

5月18日。蓮田健副院長らは熊本地方法務局を訪問。
そこで、今の法律のもとでの制度の運用が可能かどうか相談しました。
法務局からは母親らの名前が書かれていなくても、
自治体の責任者の職権を使って戸籍を作ることができるので、
今の法律で対応できるとの回答があったということです。
病院としては、この制度案について出来るだけ早く運用を始めたいという思いがあります。

「ゆりかごの運営にあたって直面している、母子の危険を回避するために、
できるだけ早期にこのシステムを導入していきたい、実現していきたい。
予期せぬ妊娠、望まぬ妊娠を抱えて秘密を守らないといけないと思っている方の
セーフティーネットとして、社会に広まるかもしれないと期待しています」

病院が「こうのとりのゆりかご」の運用に合わせて取り組んできた妊娠相談の電話では
『誰にも知られずに出産したい』という声が少なくないということです。
制度の導入に向けて、病院は市に対して引き続き対応を求めていて、
制度が実現するのか、注目されます。

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