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熊本空港新ターミナル開業に寄せて 稲塚アナ自転車で行く①

熊本空港リニューアル前に稲塚アナが30年ぶりに自転車で空港へ
  • 2023年03月16日

子供のころから飛行機が大好きなアナウンサーの稲塚貴一です。
飛行機を見るために、自転車で熊本空港へ出かけていた少年時代の私。
新ターミナルオープンを前に、およそ30年ぶりに行ってみることにしました。
過酷な上り坂を乗り越えてゴールできるのか、運命やいかに?!

思い出の地、熊本空港北側の「砂利道」

少年の頃から飛行機ファンの私、空港で飛行機を眺めるのが大好きでした。

幼い頃は、父や叔父が時々車で連れて行ってくれました。滑走路と平行に空港の敷地のすぐ北側を走る砂利道があって、そこで飛行機を見るんです。

何歳の頃だったか、見物客向けに売っていた焼きトウモロコシを買ってもらって食べたのを覚えています。これがたぶん私にとっての空港での最初の記憶です。

小学校高学年か中学生になる頃、自転車で行くようになりました。当時の実家があったのはいまの熊本市東区桜木。空港へは、県道36号線・通称「第二空港線」を通って12キロくらいです。

車で行くとラクですが、自転車では大変な坂の連続でした。空港の標高は海抜632フィート(熊本で飛ぶ人はみんな知っているはず)、192.6mくらいです。

国土地理院の地図によれば実家のあたりは標高14.7mとのことですから、約178mの差。東京タワーのメインデッキ(150m)よりもっと上まで自転車で登るようなものです。

東京タワー 2018年稲塚撮影

休日は朝からお弁当を持って自転車で出かけ、夕方まで過ごしていました。当時は1時間30分くらいで着いていたのかなぁ。いまより若くて軽かったわけで、天気がよければ毎週のように行っていたように思います。

最後に自転車で行ったのはたぶん高校の頃。30年近く経っているはずです。

熊本空港の新ターミナルビルがオープンするのを前に、
いても立ってもいられず、45歳になったワタクシ稲塚、自転車でもう一度行ってみることにしました!

小5の息子「オリバー」とたどる、なつかしの道

巻き添え、いや、お供に指名したのは小学5年生の我が息子。私の記事に時々登場する、普段は野球をやっている例の息子です。息子も飛行機が大好き。
本名を出すのはアレなので、本稿においてはオリバーとします。ネットで見つけた、男の子につける英語の名前ランキング上位というものを選んだだけで、特に深い意味はありません。

オリバーは最近自転車が小さいと不平を述べることが増えました。サドルをいっぱいに上げていても小さいというのです。私に似て足が長いのでしょう。やむを得ないことです。

そろそろ新しい自転車が欲しいようなので、思い出づくりにどうだと誘うと喜んでついてきました。

オリバー(右)といよいよ出発! 健軍の自衛隊付近にて

ポカポカ陽気のとある休日、予約していた歯医者さんでオリバーは検診を受け、虫歯ナシのお墨付きをいただきました。

そのあと午後2時ちょっと前に出発です。健康な歯だからペダルを踏む足のリズムもすこぶる好調。第二空港線をひたすら東進します。

最初はゴキゲン、ペダルを踏む足も軽やかに

オリバーは機嫌がよく、ずっとしゃべっています。

ひつまぶしの看板を見つけては「ひまつぶし!」と喜び、多少の上り下りを通過しながら「上り坂と下り坂が自転車の醍醐味だよね」などと、これから待ち構える無慈悲な坂道のことなど知らない様子でのんきなことを言い、尊敬する足の長いパパとのサイクリングを満喫しているようです。

私たちはやがて熊本市を出て益城町に入りました。桜木に住んでいた私にとって、益城町も庭のようなものです。親戚の家に遊びに行ったり、墓参りに行ったり、遠足の目的地もありました。

高速道路をくぐる

出発から15分、第二空港線は九州自動車道をくぐります。このあたりまでは特に目立った坂はありません。左右には畑が広がり、青空が広がります。癒やされますね。

菜の花が

歩道の脇には菜の花が咲き、春風に揺れています。まるで私たちを応援してくれているようです。ありがとう菜の花。

左を見ると、大きな煙突が。東部環境工場、熊本市に二つあるゴミ焼却場のひとつで、平成6年にできました。

オリバーとゴミ焼却場

熊本市のホームページによると、敷地面積18,000平方メートル、全連続燃焼式ストーカ炉という設備によって一日に600トンを処理するそうです。

その熱を利用し、蒸気タービンで10,500キロワットの発電が可能とのことです。私は先代の焼却場に見学に行ったことがあります。

男の子ですから、私はこういう大きな設備も好きです。ダムも好きです。

だんだんきつくなる坂、光る汗、減る口数…

煙突が視野の左後方に流れ去る頃、私たちはそこそこの上り坂にさしかかりました。

オリバーは「この坂やばいって、やばいって!」と騒いでいます。アナウンサーの息子なのだから、もう少し語彙力と表現力をつけてもらいたいものだと思いながら、「まだまだ!」などと励まします。

休憩は坂と坂の間で

休みたいのか、オリバーは坂の途中で止まろうとするので、「ここで止まると、また走り出すのが大変だぞ」などと、わが熊本局のマラソンシリーズ「くまラン」で聞いたようなフレーズを受け売りで口にしてオリバーを鼓舞します。

やがてオリバーは余裕がなくなってきたらしく、たちまち口数が少なくなってしまいました。

ペッパーミル

それでも、カメラを向けると、野球ファンでなくてもご存じ、話題の「ペッパーミル」のポーズをしておどけていました。まだ大丈夫みたいです。

案内標識

熊本市から空港へアクセスする主要ルートのひとつですから、ところどころに大きな案内標識が出ています。

色あせてるなぁ

よく見ると結構年季が入っていますね。

「阿蘇くまもと空港」の文字が見えます。こういうのを見ると、もう少しかな、近いかな、とか思うじゃないですか。

どっこい、まだ残り8キロくらいありますから。ぬか喜びにならないように気をつけましょう。心が折れて空港に到達できなかったらこの記事もボツになっちまうことですし。

畑にいる鳥よけの鳥も激しく舞って応援

さて、私たちは小型の無線機を携行しています。私もオリバーもアマチュア無線の資格を有しており、電波を出して交信を楽しむことがあります。

今回はあわせて管制通信をモニターするのが目的です。
管制塔の無線を聞いていれば、どの飛行機がいつどちらから来るかなどが手にとるように分かります。(周波数は公表されており、誰でも受信することができます)

交信が聞こえたので顔を向けると、ちょうどボーイング767型旅客機が空港の西側で旋回して着陸するところでした。

最終進入する767

オリバーもいろんな機種を見分けられるようになりました。

「767だねぇ。ウィングレット付きが来ないかなぁ」
「777ならもっと大きいんでしょ」
などと言ってテンションが上がります。
よしよし、もう少しきつい坂でもいけるみたいだな。

熊本地震の爪あと残る益城町

断層帯への道案内も

さらに進むと、また違った案内標識が見えました。「布田川断層帯」。2016年の熊本地震で約2.5mずれ動き、大きな被害をもたらしました。益城町堂園地区でその痕跡を見学できます。

地震が起きたとき、私は沖縄局勤務でしたから熊本地震を直接経験したわけではありません。
ただ、益城町はなじみ深いエリアでしたから、あちこちで建物や道路が大きく壊れた様子を目にしたときの衝撃は胸に刻まれています。

 

県は「熊本地震 記憶の廻廊」として、この布田川断層帯がずれ動いたことがわかる場所など、
震災にまつわる遺構を保存・公開することで、将来の防災などに役立てる事業を進めています。

きっといま自転車で走っているあたりも大きく揺れたのだろうなと思いながら、自転車を漕ぎます。

最大の難所、地獄の坂にくまモンの姿が!

難所の入り口。ここから地獄が始まる

出発から40分ほどで、いよいよ今回のミッション最大の難所にさしかかりました。

3つの上り坂が連なるように位置していて、最後の坂が最もエグい。おっと、柄にもなく若者言葉を使ってしまった45歳。具体的にいうと、最後の坂が最も急で長いのです。

神さまのいじわる。

『第一の坂』と勝手に呼ぼう

ここまでおよそ8キロの道のり、40分しか要していないことが私は少し意外でした。

もっと平坦なはずの、普段の通勤ルートを走るペースより速いのです。

通勤ルートは市街地で、信号でよく止まるからなのかも知れませんが、いやいや、きょうは結構な坂に苦労してるぜ?少年時代より速く走っているかも知れない。

毎日ワッセワッセ自転車こいでるからかなぁ。自転車通勤に少しだけ感謝です。

手作り感あふれるくまモンが現れた!

第一の坂を突破(大げさ?)すると、しばらくほぼ平坦な道。息を整えます。やがて左手に巨大なくまモンが出現

言わずと知れた、わが熊本県の最高指導者(諸説あり)です。夜は光るのでしたっけ。
オリバーも手を振ってあいさつします。

そんなくまモンの側を通過するとき、オリバーがぼそっとつぶやきました。「くまモン、手を振るだけじゃなくて僕の自転車を押してくれよ」。

くまモンは助けてくれない

面白いこと言うなぁ、オリバー。
でも、くまモンはノーリアクションでした。

世界的な人気者も、オリバー少年の挑戦を静かに見守るだけです。

通る人の姿もない、荒れた歩道をゆく

この歩道、他に利用する人はほぼいないのだと思います。車やバスでこの道を通るとき、歩行者や自転車を見かけたことはありません。

落ち葉で覆われていなかったので完全に放置されているわけではないと思いますが、最良の状態に維持されているとはいえないでしょう。

路面は荒れているので注意

ところどころにひび割れがあり、街路樹の根で持ち上げられたような大きな段差もたくさんあります。

もしかしたら熊本地震の影響で生じた段差もあるのかも知れませんが、ハッキリしません。

私が少年の頃はこうした段差に気付かなかったと思います。路面の荒れ方に、年月が経ったなぁと思いながらせっせと進みます。

ひと休みしましょう

第二の坂をクリアしたところで、ちょっと一息つくことにします。きょうは晴れて春本番の陽気、もう汗だくです。

水分補給をしましょう。水筒の氷がシャラシャラ鳴るのも涼しげです。ちなみに中身は水道水。熊本の水はおいしいですよ。熊本市の上水道は100%地下水なのですから。
くたびれたオジサンも生き返ります。

たぶん桜だ(と思う)、お花見だ!

たぶん桜、きっと桜。お花見したぞ!

歩道のすぐ左は斜面になっていて、その上はゴルフ場です。見れば、桜のような花が咲いていました。

たぶん少し早咲きの桜なのだろうと思いますが、近寄って確かめる体力的ならびに精神的余裕はありませんでしたので、一方的に、桜を見たと幸せな思い込みを胸にしまったまま走り出すことにしました。

再び走り出すと、まもなく第三の坂が見えてきました。最大の難所のなかのラスボス登場。
このミッションの成否はこの坂を攻略できるかにかかっています。

私たちはこの坂を乗り越えて熊本空港にたどり着くことができるのか?!
第二章につづく!

  • 稲塚貴一

    熊本放送局アナウンサー

    稲塚貴一

    出身地: 熊本市
    趣味は飛行機、アマチュア無線、キャンプほか多数

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