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熊本 水俣発!子育てコラム「Iメッセージとマヨネーズ!?」

児童養護施設のあったかエピソード
  • 2023年03月17日

水俣市にある児童養護施設「光明童園(ひかりどうえん)」では、子どもと職員の日常の様子を、子ども自身に了解を取った上で、園長の堀浄信さん(51)が週に一度“コラム”として発信しています。
これが、子育てする人たちから「自分を見つめ直すことができました」「そういう見方があるんですね」などと大好評。
このクマガジンでも、前回「行動の裏にある気持ちを知ろう」「子どもがウソをつかなくていい環境を作る」というお話を堀さんに伺いました。
今回は、その第2弾!
さて、どんなエピソードと子育てのヒントが……?

「たいせつだよ/I(わたし)メッセージ」

雨がひどく降っていました。

小学4年生のむねと君(仮称)は、傘を忘れて、
びしょ濡れで学校から帰ってきました。

風邪をひくといけないので、職員はすぐにお風呂の準備をしてあげました。

気持ちよさそうにお風呂につかる、むねと君。

職員「たいせつな、むねと君が風邪をひかないか心配だよ。次からは、傘を持っていってほしいな〜。」

むねと君「ぼくのこと、たいせつ?」

職員が「たいせつだよ」と伝えると、ニコッと笑うむねと君でした。

このエピソードの大事なところは、どういうところですか?

「傘を持って行かないとダメでしょ」と叱ってしまいそうな場面ですが…、
子どもがどう受け止めるのかを考えないといけないな、と思っています。

「罪悪感」には2つあると言われていまして、1つ目が「罰せられ型」。
罰を与えられて「(罰が嫌だから)これから、こんなことをしないようにしよう」というもの。
でも、それより大事だと思うのは、2つ目の「許され型」。(失敗を許し)根本的に自分を受け入れてくれる人に対して「この人を悲しませたくない」という気持ちを持ってもらう。たとえば、悪いことをしようとしたときに、「こんなことをしたら、あの人が悲しむかもしれん」と、顔が浮かぶ存在に(大人が)なる。その気持ちを育てることが、子どもの自律につながると思っています。

そのために、大人が心がけるべきことは何ですか?

「I(わたし)メッセージ」ですね。
「ダメ!」「もう、あなたは●●歳でしょ!」じゃなくて、
「“わたし”は、あなたがそういうことをしたら悲しい」と伝える。
逆に、子どもががんばったら、「“わたし”は、うれしいよ。ありがとうね」っていうことを積み重ねていく。

意地悪な言い方ですが……、「どこまでも許される」と勘違いさせてしまわないですか?

今、わたしが社会の雰囲気として心配なのがまさにそこで、「子どもを甘やかしすぎじゃないか?」という話もあるんですけど、わたしは「甘やかしていい」と思っています。
昔は、児童養護施設も厳しかったんです。でも、「してもらってうれしいこと」が心に溜まっていかないと、将来、ちゃんと人を頼ることができなくて、孤立していく子が多いと感じています。
いずれにしろ、子育ては、そうやって“揺らぐ”ことが大事だと思うんです。
答えは子どもたちが出していくので、大人が「これが正しい!」って思ってしまわないことが大事だと思います。

たとえ、傘を10回忘れても、受け入れる……?

雨に濡れるのが気持ちいいときもあると思うんです(笑)
同時に、お日様にあたることも大事だし。

でも、風邪をひいちゃいますよ(笑)

そしたら、本人が「雨に濡れて着替えずにいたら、風邪をひくんだ」って知っていきます。
大人からすると、「風邪もひくし、洗濯物も増えるじゃないか!」と思いますけど、長い目で見ると、それも子どもの経験だと思うのが大事かなと。
とは言え、わたしもこの場面にいたら、「なんしよっとか!」って言うかもしれませんけど(笑)

3回やってみて、子どもの行動が改善しないなら、別の方法を考えてみればいいと言われています。それまでの方法は、(その子が悪いんじゃなくて)その子には合わなかったんです。
いろんな人の意見も聞いてみて、その子に合う方法を探せばいいと思います。

「マヨネーズを飲めば治りますから」

小学1年のけいちゃん(仮称)が、職員に「お医者さんごっこがしたい」と言いました。

けいちゃんがお医者さん、職員が患者さんの役です。

けいちゃん「これは、コロナウイルスですね」

職員「えっ……、コロナですか?」

職員が驚いて尋ねると・・・

けいちゃん「だいじょうぶですよ。マヨネーズを飲めば治りますから」

けいちゃんは、マヨネーズの薬を出してくれました。

職員「これで、だいじょうぶですか?」

「治りますよ!」とお医者さんになりきる、けいちゃんでした。

これは、とっても評判の良かったエピソードでして、ただただ「おもしろい」という(笑)

(笑)こういう何気ない日常も記録に残しているんですね。

昔、職員がどこかで聞いてきた話があって、「とある施設で育った子どもの生い立ちを調べようとしたときに、わずか数行しか記録がなかった」と。
それを聞いて、子どもたちが大人になったときに、「どんな風に生活をしていたのか」を知る、“アルバム”のような記録を残していかないといけないと思い、職員たちは本当にたくさんのエピソードを知らせてくれるようになりました。その1つが、このエピソードです。

つまり、これは子どもたちに「生活風景を残す」ためなんですね?

そうですね。
さらに、このエピソードの裏には、けいちゃんと職員の関わりが深くなってきているんだということも感じられて、みなさんに紹介したいと思いました。

あと、ユーモアってとても大事だな、と。
子育てで「正しい」にこだわると、ろくなことがないので(笑)
ちょっと肩の力を抜いて、「どうふるまえば、子どもも大人も楽しいのか」。いいことばかりじゃないですけど、子どもにとっては、ハッピーに生きている大人の姿が何よりプレゼントだと思うので、お互いに楽しくて、許しあえるような環境ってとても大事だなと思っています。

今では、職員さんたちから「これって、いいよね」というエピソードが毎週たくさん寄せられ、
また、そこで紹介される子どもたちも、「自分が紹介された!」と喜んでくれて、子どもと大人の間で良いスパイラルが生まれていると言います。

「正解はない」「正しさではなく、お互いに楽しくて許しあえる環境を」。その上で、堀さんは、いろんな人が子どもたちと向き合い、社会全体が子育てに関心を持つことの大事さを強調されていました。

インタビューの最後、堀さんに、「このコラムを通して伝えたいこと」を聞きました。

子育ては大変ですけど、このコラムを読むことで、子どもさんに対する見方が変わり、
子どもさんへの愛おしさが増す。
そんなことの少しのきっかけとしてお手伝いできたら、うれしいです。

NHK熊本放送局では、これからも子育てをするみなさんに少しでもお役に立てる発信を続けていきます。

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