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水俣病は科学を離れた?いまできる調査とは

シリーズ 67年目の水俣病「健康調査の行方⑦」
  • 2023年04月28日

調査に消極的な姿勢を示す国。さらなる取材で見えてきたのは、水銀による被害を科学的に測ることの難しさでした。困難が伴うなかで、どのような調査が出来るのか。実施する意義は。
病気の原因などを探る「疫学」の専門家に聞きました。
(熊本放送局記者 西村雄介  ディレクター 吉田渉)

科学的に測れない?水銀の影響探る難しさ

「水銀は体から排せつしてなくなり、症状だけが残る。症状自体もほかの病気で起こるもの。これが水俣病だというのが、客観的には分からない」

複数の環境省OBから聞かれた水俣病の調査を実施することの難しさです。

水俣病の原因物質の水銀は、1年でほとんどが体の外に出されるといいます。

今も多くの人たちが、患者の認定を求めて申請をしたり裁判を続けたりしていますが、水銀を摂取したか、症状との因果関係はあるかについては、認定の基準であり、裁判の大きな争点にもなっています。

しかし、体に入った水銀の量について、毛髪などの資料を広く採取し、調査、記録したものはほとんどありません。初期の調査がなされなかった以上、「水俣病は科学の手を離れた」と指摘します。

(環境省OB)
「科学的な水俣病の証明、誰が見ても納得できる“ものさし”が調査をしても作れない。作れなければ、公費を補償として使うための説得材料が得られない。そのことも調査に消極的にならざるを得ない理由のひとつだ」

疫学の専門家・裾野の被害の検討を

「毛髪水銀などの生体試料がないから評価できないというのは、少し乱暴かなと。そうではない評価というものがあってもいいかなと思います」

そう語るのは、岡山大学大学院の教授で医師の頼藤貴志さんです。病気の広がりと、その原因を調べる学問「疫学」の専門家で、新型コロナでは、広がりを抑えるためクラスター対策などに取り組んできました。

一方、熊本県出身で、熊本大学医学部の学生の頃から20年以上水俣に通い続けていて、「水俣病は原点」と語ります。

現地では、母親の胎内で水銀の被害を受けた胎児性患者の人たちの日常生活への影響を調べてきたほか、医学的にもまだ明らかになっていない胎児期の水銀被害の裾野部分にも目を向けてきました。

(頼藤貴志 医師)
「いわゆる胎児性の患者さんと言われる人たち、胎内で水銀の影響を受けたというのはよく分かっていますが、研究の中では、流産・死産という人もいて、胎児性の患者さんよりも、低中濃度の影響を受けられている人にも、神経認知機能、高次脳機能、自立神経に影響を受けている人がいます。生まれたときからしんどい思いをして生活しているのは、大きな損失で、分かっていない裾野の部分の影響を検討することも必要だと思います。何かに苦手意識を感じていたら、『ご自身のせいじゃないですよ』『メチル水銀の曝露があったかもしれないですね』と言ってあげられるのかなと思っています」

曝露を図るアイデア

毛髪など、直接、水銀が測れる資料がないなかで、頼藤さんが因果関係を証明していくためのヒントとして挙げたのが、大気汚染の影響の測り方でした。

(頼藤貴志 医師)
「僕は大気汚染の研究もしますが、その健康影響を見る時、個人の大気汚染濃度は測定していないので、1人ずつの汚染濃度を推定したい時には、道路からの距離、土地の情報、高度、そういう地域の情報を使います。最近では、衛星画像からの情報など、いろんなものを組み合わせて、その人の暴露を推定します。大気汚染では普通にやっている工夫」

水俣病でも、過去の地図や写真、住民からの証言など「地域の情報」を集積し、さらに過去に実施された調査のデータを組み合わせることで、水銀の被害を受けたかどうか、どれほど摂取したのか、真実の値に近づけると考えています。

(頼藤貴志 医師)
「もちろん、毛髪など残っている水銀を使うべきと思いますけれども、居住歴であったりとか、魚の喫食だったりとか、そういうのを総合した曝露量を出す工夫があってもいいかもしれない。行商の人が売りに来ていたか、そういうものも掛け合わせていいのかもしれない。限界はあるかもしれませんが、どうやったらいいのかと考えるのが、研究をする時の心持ちだと思います。難しいからできないじゃなくて、どうしたらいいか、限界は許容できるものか、そういうことを考えながら、研究のデザインを考えたらいいと思います」。

後世に残すための調査を

難しさが伴うなかで、頼藤さんは、当事者の水銀の影響を測るだけでなく、後世に記録を残すためにも、調査をする意義があると考えています。

(頼藤貴志 医師)
「調査をすることで得られる恩恵というと、大規模な水銀の暴露があった所ではこういう症状があるという知見を、日本、世界に発信できるのかなと思う。影響を受けた人たちのために、今後の人類にとっても、やはり貴重な知見として残すことは意味があると思います」

 

  • 西村雄介

    熊本局記者

    西村雄介

    2014年入局 熊本局が初任地。水俣病を公式確認60年となる2016年から継続取材。熊本地震・令和2年7月豪雨も発生当初から取材。

  • 吉田渉

    熊本局ディレクター

    吉田渉

    2019年入局 熊本局が初任地
    2年目から水俣病の取材を継続

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