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熊本 児童養護施設コラム「子育てのヒント満載」と評判 なぜ?

  • 2023年02月01日

親の虐待など、さまざまな事情で家庭を離れざるを得ない子どもたちが暮らす児童養護施設。その暮らしぶりが広く知られることは少ないですが、水俣市にある児童養護施設「光明童園(ひかりどうえん)」では、子どもと職員の日常の様子を、園長が週に一度のペースで発信しています。
それが、関係者だけでなく、子育て世代に大好評だそうで・・・。なぜ、児童養護施設のコラムが子育て世代に響くのか?そして、それを発信する思いとは?

もともとは「施設で暮らす子どもたちを知ってほしい」

 話を聞いたのは、園長の堀 浄信さん(51歳)。24歳で児童養護施設「光明童園」に入り、18年前からは園長を務めています。そんな堀さんが、施設のホームページで週に1回更新しているのが「園長コラム キラリグッド/沁みることば」。施設の日常から生まれた、子どもたちと職員のあたたかなやりとりの記録です。子ども自身に了解を取った上で、個人が特定できない形で公開しています。

どうして、施設内の暮らしぶりを発信しようと思われたんですか?

児童養護施設というと、「悪いことをして入れられている」とか「かわいそう」といったイメージを持たれることが多いので、「決して、そうではないんだ」というのを言い続けないといけないなと。
また、どのお子さんも、施設で生活する可能性があります。社会全体で子どもを育てるんだという意識を高めたいと思って、2020年からホームページで公開し始めました。

評判はどうですか?

おかげさまで、別の施設で子どもの支援をされている方や、ご家庭で子育てされている方から、「自分を見つめ直すことができました」とか「そういう見方があるんですね。ホッとしました」などの感想をもらいます。
何より「子どもたちを応援したくなりました」といった声をもらうことが多く、子どもたちにとってもありがたいなと思っています。

「自分をいじめちゃうんだ」

では、どんなエピソードが掲載されているのか。例えば、こんな一場面。

小学3年生のまさき君(仮称)が宿題をしていますが、調子が悪く、床をドンドンしています。

職員が声をかけますが、イライラがおさまらず、壁やイスなどをけっています。

しばらく、そばで待っていると、

「ママの体調が良くなったら家に帰れるって言ってたのに、全然帰れないじゃん!」

詳しく聞くと、母親の体調が悪くて施設に来ることになった、まさき君。『お母さんの体調が良くなったら戻れる』と説明を受けていたようです。

職員が、「嫌だったんだね」と共感をし、伝えました。

そのうちゲームの話になり、まさき君は落ち着きました。

「ぼくイライラし過ぎると心臓が痛くなるんだよ、脚も痛い…」

職員は、「マッサージしてあげよう」と声を掛け、足をもんであげ、手もマッサージしてあげました。

まさき君「きもちいい」

職員「こんど、お母さんにしてあげたらよろこぶと思うよ。」

まさき君「僕は、イライラすると自分をいじめちゃうんだ…」

職員「まさき君は優しんだね。だから、他の人じゃなくて自分をいじめちゃうんだね」

このエピソードを紹介しようと思った一番の理由は?

子どもたちはみんな、家で家族と生活したいんですよね。でも、どうしようもなく施設に来ている状況で。そんな中で、小さな胸にいろんなことがたまって、イライラしてしまう。
そんな中で、職員が「どんな気持ちなのかな?」「どうしたら、落ち着くかな?」と考えながら接してくれたのがいいなと思いまして。

でも、子どもが壁やイスをけっていたら、「やめなさい!」と叱ってしまいそうですが・・・

子どもって、気持ちと行動がズレてしまうことも多いので、「行動の裏にある気持ちが何なのか」っていうのをまずは知ろうってすることが大切だし、その姿勢が子どもにも伝わっていくと思うんですよね。
(壁やイスをける)行動だけを責めてしまう。例えば厳しく言えば、そのときはおとなしくなるかもしれない。けれど、気持ちは満たされていないものだから、それがたまってしまって、いつか爆発するんですよね。まず、気持ちを理解する、受け入れようとすることが大事かなと思っています。

人への暴力など、キレイゴトでは済まない行動のときは、どうすればいいんですか?

「気持ちは肯定して、行動はいましめる」というコミュニケーション方法があって、まずはそういう行動に至った気持ちは、「そういう気持ちだったんだね」と受け入れて。でも、「殴るなどの行動はダメなんだよ」と伝えます。
その上で、子どものコミュニケーション能力を高めていくためにも、相手の気持ちを聞くことを大切にしています。

「ほんとうのこと教えて」                                             

小学2年生のさとみちゃん(仮称)は、夕方おやつを食べた後、グズグズしています。

職員が「さとみちゃん、お風呂に入ったら」と言いますが、さとみちゃんは「いやだ〜」と嫌がります。

その後、職員がその場をしばらく離れていると、さとみちゃんはパジャマに着替えていました。

職員「さとみちゃん、お風呂入ったの?」

さとみちゃんは「入ったよ」と答えますが、職員の目を見られず挙動不審です。

職員は、さとみちゃんの後ろからギュっと抱きしめて、

職員「ほんとうのことを教えて」

さとみちゃん「濡らしたタオルでふいた…」

職員「ほんとうのことを話してくれてありがとう。あしたは入ろうね」

苦笑いしながら「うん」と答える、さとみちゃんでした。

このエピソードから伝えたかったことは?

大人としては、子どもがウソをつかなくていい環境と雰囲気を作ることが大事で、その中で、子どもは失敗をしながら成長していくんですよね。
この場面で「ウソをつくな!」って厳しくだけしてしまうと、今度子どもがウソをついたときに、(叱られるのが怖くて)ホントのことが言えなくなるんですよね。
失敗も含めて認めてあげて、「ウソをつかなくていいんだよ」っていう環境を作る。でも、また失敗もあるかもしれないけど、「次の方法を考えたらいいんだよ」という大きな、そして長期的な視点を持って、本当の意味での「自立」ができるようにという支援なんですよね。

とは言え、ウソをつかれると傷つきますよね・・・?

職員も人間なので、傷つくんですよね。なので職員自身も心の余裕がないといけないので、施設ではチームでお互いに傷ついた気持ちを言い合えるようなシステム作りをする必要があると思っています。
その点で言うと、多くの家庭は核家族で、子どもと1対1で向き合っているのは本当にしんどいと思うんですよね。だから、地域の子育て支援とかが大切になってくるんですよね。グチや笑い合える場はとても大事だと思います。

地域の子育て支援につながる上で大切なことは?

困ってから相談しに行くって、そうとうハードルが高いと思うんですよ。しんどいときは心の余裕もないし。なので、「困る前からつながっておく」というのがキーワードだと考えていまして、私たちも子育てされている家庭にお弁当を配布する活動などを通して、世間話や子どもの話をしてつながる。すると、コロナにかかったときに連絡をくれたりするようになりました。

今回、お話を聞いた、たった2つのエピソードの中にも、子どもと向き合うヒントがたくさんつまっている気がします。
熊本の子育てを応援するNHK熊本では、今後もみなさんのお役に立つWEB特集クマガジンを発信していきたいと思います。

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