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2020年7月8日(水)

イージス・アショア 配備計画断念 日米関係への影響

北朝鮮のミサイル攻撃に対応するため、日本がアメリカからの導入を決めていた新型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」。
先月(6月)、突然、配備計画が断念されました。

河野防衛相
「こうした事態に至りましたことを、深くおわび申し上げます。」

政府は、迎撃ミサイルを発射する際に使う「ブースター」と呼ばれる推進補助装置を安全に落下させるには、大幅な改修が必要で、巨額の費用や長い期間が必要になると説明しています。
安倍総理大臣とトランプ大統領の政治主導で導入が決まった側面があるとされる「イージス・アショア」。
日本政府の方針転換を、アメリカの関係者はどのように受け止めるのか。
今後の日米関係や防衛協力への影響を掘り下げます。

イージス・アショア 配備断念の理由は

松田
「スタジオには、ワシントン支局などで日米関係を取材してきた、国際放送局の増田記者です。
イージス・アショアの配備計画断念、今回の決定の決め手になったのは、やはりブースター落下のリスクということでしょうか?」

増田剛記者(国際放送局)
「配備をめぐり、配備候補地の住民から、『迎撃ミサイルを発射した後に切り離されるブースターが、周辺の住宅地に落ちるのではないか』という懸念の声が出ていたんです。
ところが5月下旬になって、アメリカは、ブースターを確実に演習場内に落下させて住民への被害を防ぐには、システム全体の大幅な改修が必要だとした上で、2,000億円の追加負担と、配備まで10年の期間が必要になると伝えてきました。
イージス・アショアの導入には、取得費や維持運用費などで4,500億円かかると見込まれていましたので、さらに費用と時間がかかることが確実になり、『これでは割に合わない。合理的でない』と判断し、いわば『損切り』したわけです。」

配備計画断念にアメリカの反応は

松田
「日本側の今回の方針転換に対し、アメリカ側は納得するのでしょうか?」

増田記者
「微妙ですね。
アメリカ側は表向き、『日本政府の判断を尊重する』としています。
ただ、ブースターの制御が難しいことは、導入を決めた2017年当初から予想されていたことですので、『なぜ今になって問題にするんだ』という声はあるようです。
アメリカの保守系シンクタンク、ハドソン研究所の村野将研究員は、アメリカ側の受け止めについて、このように述べています。」

ハドソン研究所 村野将研究員
「アメリカ政府は、日本がイージス・アショアの導入を決定したことについて非常に賛成していたわけです。
なぜなら、日本のミサイル防衛能力が高まることは、アメリカにとっても利益になるわけですよね。
配備計画が中止になったことに対しては、戸惑っているというのが本音だろうと思います。」

増田記者
「一方、日本政府はイージス・アショアの導入をめぐって、アメリカ側とすでにおよそ1,800億円の契約を交わしていて、およそ200億円は支払いを済ませています。
契約を取り消した場合、この費用がどうなるのか。
今後、日米間で協議することになると思いますが、支払いを済ませた分は日本の負担とならざるを得ないでしょう。
また、違約金が全く出ないとは言い切れません。
村野さんは、次のように述べています。」

ハドソン研究所 村野将研究員
「事前にアメリカとしっかりと協議することなくキャンセルするのはよくない。
日米両政府には、日米関係を悪化させてはいけないというコンセンサスがあるわけですから、その悪影響を最小化するように同盟の管理をしていく必要があると思います。」

政治主導で導入を決定

松田
「『悪影響を最小化する』というのは重いことばだと思いますが、イージス・アショアの導入は、安倍総理大臣とトランプ大統領の緊密な関係を背景に決まった側面もあると言われています。
今回の事態を受けて、トランプ大統領はどう対応してくるでしょうか?」

増田記者
「トランプ大統領は就任以来、日本に貿易不均衡の是正を求め、アメリカ製装備の購入を促していました。
また、2017年は北朝鮮がミサイル発射を繰り返していた時期で、日本はミサイル防衛を強化する必要に迫られていました。
当時のイージス・アショアの導入決定は、政治的な合理性が高いものだったと思います。
ただ、今から振り返ってみると、細部が十分に検討されないまま決まったように見えなくもありません。
こうした経緯がある以上、トランプ大領領が、イージス・アショアの代わりに別の装備の購入を求めたり、同盟に関わる日本の負担を増やすよう求めてくる可能性はあります。
トランプ大統領には、そうせざるを得ない事情があるからです。」

トランプ大統領 選挙意識し対応か

松田
「事情というと、11月の大統領選挙でしょうか?」

増田記者
「そうです。
大統領選挙は、現在の情勢をみる限り、トランプ大統領の再選は盤石とは言い難い状況です。
トランプ大統領とバイデン前副大統領のどちらを支持するかという世論調査の平均では、全米でも、選挙の結果を左右する接戦州でも、バイデン氏が先行しています。

新型コロナウイルスや抗議デモへの対応で批判されるトランプ大統領の再選は、赤信号とは言わないまでも、黄信号です。
こうした情勢でトランプ大統領は、『日本に多額の兵器を買わせた』と有権者にアピールしたい誘惑に駆られるでしょう。
一方、イージス・アショアの製造元であるロッキード・マーチンをはじめとした軍需産業は、全米各地に工場を持ち、多くの労働者を雇用していて、集票力があります。
また、『軍産複合体』という言葉を聞いたことがあると思いますが、伝統的にアメリカの政府機関や軍と強固に結びついています。
豊富な資金を背景に、共和・民主両党の政治団体や上下両院の議員たちに多額の政治献金を行っていて、私もワシントンに駐在していた頃、よく見聞きしましたが、議会へのロビー活動も非常に活発です。
大統領選挙を間近に控えて、トランプ政権も軍需産業の動向を意識せざるを得ません。」

ボルトン氏回顧録 “日本に負担増を”

松田
「日本への要求と言えば、トランプ大統領の側近だったボルトン氏が、最近、出版した回顧録の中でも取り上げていましたね。」

増田記者
「ボルトン前大統領補佐官は、先月、出版した回顧録の中で、去年(2019年)7月に日本を訪問した際、日本政府の高官に、在日アメリカ軍の駐留経費の日本側の負担を大幅に増やして、年間80億ドルを要求するトランプ大統領の意向を説明したことを暴露しました。
80億ドルは、日本側が現在支払っている額の4倍あまりで、日本政府はその金額が提示されたことを否定しています。
ただ、具体的な金額はともかく、トランプ大統領が日本の負担を増やしたいという意向を持っているのは確かだと思います。

在日アメリカ軍の駐留経費の日本側負担、いわゆる思いやり予算をめぐっては、日本とアメリカが5年ごとに結んでいる特別協定の期限が来年(2021年)3月に迫っていて、日米の交渉が秋以降、本格化する見通しです。
イージス・アショアの配備を断念した代わりに、この交渉でアメリカ側が日本側負担の大幅な増額を求めてくるのではないかという懸念が強まっています。」

日米の今後 カギは大統領選挙

松田
「大幅な増額ですか。
その場合、日本はアメリカにどういう姿勢で臨むべきでしょうか?」

増田記者
「アメリカは日本にとって唯一の同盟国で、日米関係は最も重要な二国間関係ですから、時のアメリカの政権の意向を尊重することは大切です。
ただ、日本の国益もかかっていますから、何でもアメリカの言いなりというわけにはいきません。
また、今年(2020年)は大統領選挙が控えていて、トランプ大統領が再選するか、バイデン氏が勝利するか、予断を許さない状況です。
日本はどちらになっても、うまくやらなければなりません。

ここで、元駐米大使の藤崎一郎さんのジョークを紹介します。
『アメリカ大統領選挙は、クリスマスプレゼントと同じだ』

『箱の中に何が入っていても、“うれしい、わたし前からこれが欲しかったんです”と言わなければならない』
いずれにせよ日本には、アメリカがどのような政治状況になっても対応できる、したたかな外交姿勢がこれまで以上に求められています。」

松田
「したたかな外交姿勢ですか。
注視していく必要がありますね。」

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