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2020年1月27日(月)

激動のイラン 国民の選択は

アメリカ トランプ大統領
「ソレイマニ司令官は、悪党で血に飢えたテロリストだ。」




今月(1月)3日、イランの「国民の英雄」と呼ばれたソレイマニ司令官が、アメリカ軍によって殺害されました。
その5日後、イランはアメリカ軍の拠点に報復のミサイル攻撃を実施。

イラン 最高指導者 ハメネイ師
「この地域におけるアメリカの存在を消し去ることが重要だ。」

軍事的な緊張が高まる中、イラン軍が旅客機を誤って撃墜したことが明らかに。

イラン国内では、この撃墜を隠ぺいしようとしたとして、指導部を批判するデモが相次ぎました。
情勢が混とんとするイランで、来月(2月)、議会選挙が行われます。
はたして、国民が選ぶ道とは?
専門家とともに読み解きます。

現在のイラン情勢は

西海
「スタジオには、現代のイラン政治が専門の、日本エネルギー経済研究所・研究理事の坂梨祥(さかなし・さち)さんです。
今年(2020年)に入り、非常に緊迫したイラン情勢ですが、現地はどうなっているのでしょうか。」

日本エネルギー経済研究所 研究理事 坂梨祥さん
「イランの情勢は、とても混とんとしています。
年明けにアメリカ軍がイランの司令官を殺害して、イランでは壮大な葬儀が行われました。
その後、イランがアメリカに報復攻撃を行って、一件落着と思われたのですが、緊張が極度に高まる中でウクライナ民間航空機の誤射が起こり、体制がそれを隠そうとしていたことに批判が広がりました。
あまりにもたくさんのことが一度に起こって、整理が追いつかない状況にあります。」

西海
「司令官の殺害後は体制への求心力が非常に高まったのですが、その後の民間機の誤射が分かった後は、一部で最高指導者を批判するようなデモも起きました。
国民全体では、どちらを向いているのでしょうか?」

坂梨祥さん
「誤射自体は、非常に緊張が高まる中で国民を守ろうとして起こったミスなので、体制への反発は、むしろそれを隠していたことに対するものだったわけです。
体制が誤りを認めたので、このまま抗議行動が広がることにはならないと思います。」

議会選挙の情勢は

西海
「来月、イランで議会選挙が行われます。
まず、現在の議席数はどうなっているのでしょうか。」

坂梨祥さん
「ロウハニ政権を支持する保守穏健派と改革派の連合が多数派、対する保守強硬派が少数派です。
ロウハニ大統領は対話路線を掲げていて、保守強硬派は、より欧米との対決姿勢を前面に打ち出す人たちです。」

西海
「この内訳は、日本の議会だとはっきりするのですが、イランでは分からないものなのでしょうか?」

坂梨祥さん
「現在、イランには大きな政党がなく、議会の説明が非常に難しい状況です。」

西海
「政党がないと、どのように投票するのでしょうか?」

坂梨祥さん
「政党単位で戦われるわけではないイランの選挙では、各グループが、リストを作って選挙戦を戦っています。
前回の選挙では、ロウハニ大統領の対話路線を支持する人たちが水色のリスト、保守強硬派と呼ばれる人たちが黄色のリストを作りました。
人々はこれを投票所に持ち込んで、リストに書かれている名前を書き写して1票を投じます。」

西海
「かなり独特なやりかたですけど、前回の2016年の選挙では、ロウハニ大統領を支持する勢力が勝ちましたね。」

坂梨祥さん
「前回の選挙は核合意が成立して、経済の復興に対する期待が高まったタイミングで行われました。
選挙の半年前には核合意が成立して、制裁解除があった翌月に選挙が行われました。
なので、核合意を成立させた立て役者であったロウハニ大統領を支持しようという人たちが選挙に勝ったということです。
しかし、今回は様子が違うかもしれません。」

西海
「どう違うのでしょうか?」

坂梨祥さん
「今回の選挙は、前回とは真逆の状況にあります。
2018年5月、トランプ大統領が核合意を離脱して、その後どんどん制裁が強化されているので、イラン経済が窮地に陥っているなかで選挙が行われます。
そのため、保守強硬派がもともと言っていた『アメリカという国を信じるべきじゃなかった』『アメリカを信じたのがそもそも間違いだった』という意見が力を持ってしまう可能性があります。
それを示すかのように、今回の選挙では、ロウハニ大統領を支持する人たちが資格審査で失格になっていると報じられています。」

資格審査とは?

西海
「選挙に出るのに、資格の審査があるということですか?」

坂梨祥さん
「イランの選挙は、体制が認めた人しか立候補できない仕組みになっています。
最高指導者が直接・間接に任命した『護憲評議会』という組織が、立候補を希望する人たちの資格審査を行っています。」

西海
「審査はどういう基準で行われるのでしょうか?」

坂梨祥さん
「『体制の仕組みを心から信奉しているかどうか』がカギになっていて、実は選挙法にも、そのように書かれているんです。」

イランの体制とは

西海
「信奉する『体制の仕組み』とは、何を指しているのでしょうか?」

坂梨祥さん
「イランの体制は、『イスラム共和国体制』という体制です。
共和国なので、国民が選挙で大統領や国会議員を選ぶのですが、“イスラム”共和国なので、国のトップは国民が選ぶ大統領ではなく、イスラムの宗教指導者である『最高指導者』という人が務めます。
大統領は行政府のトップで、経済政策などを担当していますが、あくまでナンバー2であって、核合意や外交といった国の重要事項については、『最高指導者』が最終的な決定権を持っている、そういう体制になります。」

西海
「つまり『政教一致』ということなのですか。」

坂梨祥さん
「そうですね。
イスラムという宗教を前面に打ち出した体制になっているんです。」

西海
「今の最高指導者はハメネイ師ですけど、『アメリカとの交渉はしないんだ』という強い姿勢を示しています。
こういう姿勢は、選挙にも影響するのでしょうか?」

坂梨祥さん
「ハメネイ師はこれまで30年以上にわたって最高指導者を務めていますが、この30年の間に、実は、イランがアメリカに歩み寄ったことも何回かあったんです。
でも、イランから見るとアメリカはそのたびに、イランに結局、冷たくしてきたという認識が、体制の上層部、特に最高指導者にはあります。
たとえば同時多発テロ事件のあと、アメリカがアフガニスタンを空爆したわけですが、それに際して、イランは情報を提供したりしてアメリカに協力していました。
でも、その直後に、アメリカはイランのことを『悪の枢軸』と呼び、『イランはアメリカが倒すべき体制である』としました。
もうひとつの例としては、過激派組織IS=イスラミックステートとの戦いを挙げることができます。
アメリカが年明けに殺害したソレイマニ司令官は、イラクでISと戦っていました。
アメリカもイラクでISと戦っていたので、ISとの戦いでは、アメリカとイランは同じ側に立っていたんです。
それにもかかわらず、ISの脅威が下火になったところで、アメリカはあたかも『用済み』であるかのように、ソレイマニ司令官を殺害したわけです。
そのようなことが繰り返されてきて、ハメネイ師の目には、アメリカはイランが歩み寄っても必ず裏切る国だと、これまでもそうだったと考えているわけです。
ですから、今のイランの体制では、『アメリカを信じるべきではなかった』という考えが優勢になっていて、ロウハニ大統領の『アメリカとも話をしなければ』という主張は通りにくくなっている可能性があるんです。」

国民の思いは

西海
「体制がそちらの方向に向いているということですね。
一方の国民は、本音の部分ではどうなのでしょうか。」

坂梨祥さん
「イランには、もちろんいろいろな人がいます。
でも多くのイラン人が、アメリカの文化に憧れを抱いています。
iPhoneを使っている人も多いですし、コカ・コーラもみんな大好きです。
多くの人が、政治は政治、自分が好きなものは好き、と思っていると思います。
ただ、アメリカの経済制裁の影響で貿易が非常に困難になり、外国企業が次々とイランから撤退したことで、失業率が上がったり、あるいは大学を卒業しても仕事に就けない人も増えています。

あと、制裁の影響で、物の値段もどんどん上がっていて、去年(2019年)の11月にはガソリン価格が非常に値上がりし、大規模なデモにまで発展しています。
今のイランの国民にとっては、経済の改善ということが、何よりもの願いだと思います。」

今回の選挙は?

西海
「そうすると、この希望を託す選挙は、どのようになるのでしょうか?」

坂梨祥さん
「今のイランの国民は、イランに対して、『最大限の制裁』という圧力をかけるアメリカと、そのような圧力には決して屈しないとする体制のはざまで板挟みになってしまっていると言えます。
ただ、ロウハニ政権が掲げてきた対話路線は、トランプ大統領が核合意を破棄したことによって行き詰まってしまいましたし、かといって、アメリカの圧力にだけは負けないと言っているような人たちに、経済を改善させる具体的なアイデアがあるようにも見えません。
つまり、現在国民としては、選挙とはいっても、『誰に経済状況の改善の望みを託せばいいのか?』という状況に置かれてしまっていると思います。
ただ、イランというのは、実は驚きに満ちた国なんです。
これまでの選挙でも繰り返し、投票の数日前というタイミングになって、選挙が突然盛り上がって、結果的に体制や、あるいは世界を驚かすような結果が生み出されてきました。
今回の選挙でも、どのようなドラマが生まれるか、まだまだ目が離せないと思います。」

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