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2019年9月9日(月)

アフガニスタンの和平実現は

西海
「アメリカ政府とタリバンは今月(9月)1日まで交渉を行い、和平合意の草案で原則合意しました。
アメリカ側の代表は、アフガニスタンに駐留するアメリカ軍およそ1万4,000人のうち、5,000人が135日以内に撤退すると明らかにしていました。
しかし、トランプ大統領は7日、タリバンとの交渉を中止すると表明。
撤退の先行きは不透明な情勢となりました。」

中止の米タリバン交渉 原則合意の草案とは

丹野
「きょう(9日)はこのニュースについて、アフガニスタン情勢に詳しい慶應義塾大学大学院教授の田中浩一郎さんにお聞きします。」

西海
「アメリカ政府とタリバンは、いったんは原則合意したということでしたが、何をどこまで話し合ったのでしょうか?」

慶應義塾大学大学院 教授 田中浩一郎さん
「長年の懸念であった停戦を実現するということに合わせて、タリバン側は、外国軍、とりわけ米軍の撤退を要求していましたので、合意内容に入っていました。
一方で、タリバンがかくまっていたアルカイダがアメリカでの同時多発テロを引き起こしましたので、そのようなテロ組織と決別するということが、アメリカや国際社会から見れば当然の要求として入っていました。
また、アフガニスタンの将来的な安定のためにも、タリバンという武装勢力が武装解除するということも不可欠なものとされていました。」

トランプ大統領 交渉中止の思惑は

丹野
「トランプ大統領はかねてからアフガニスタンからの早期の撤退を目指してきましたが、正式な合意の目前でなぜ、中止を発表したのでしょうか?」

田中浩一郎さん
「ひとつは、今回のタリバンとの交渉は特使が行っていまして、トランプ大統領は全く前面に出てくることがなかったということがあります。
意見を細かく表明するといったこともありませんでしたので、自分が主導権を握っているんだということを表したかったのかなと思います。
そこには個人的な欲があったと思います。
また、アメリカの同時多発テロ事件からことしの9月11日で18年目になるという直前の時期に、当事者のひとりであるタリバンの指導者をアメリカに招くというタイミングの悪さは否定できなかったと思います。
合意内容の点では、果たしてタリバンが合意をきちんと順守するのかという点で担保するところが弱く、反対論が米政権内にあっただろうということは否めません。」

アメリカとタリバン 交渉再開の見通しは

西海
「そうしますと、アメリカとタリバンの交渉はこれで終わるのでしょうか。
それとも再開する余地が残されているのでしょうか?」

田中浩一郎さん
「再交渉というかたちにはなると思います。
ただ、トランプ大統領自身がいろいろと口出しをすればするほど、おそらく今回できたような合意が再び結ばれる可能性は低くなってしまうと思います。
トランプ大統領がひっかきまわしたということになりますので。
そういう点では、今後の交渉も再び迷走するのではと見ています。」

アフガニスタン 盛り返すタリバン勢力

丹野
「そういった中で、タリバンはなぜ、強気な姿勢を崩していないのでしょうか?」

田中浩一郎さん
「タリバン勢力の現状は、2001年にアメリカ軍などによる攻撃を受けて政権崩壊して以来、最大規模になっていると思います。
現在、国土の7割ぐらいにまで影響力を広げていると言われています。
タリバンは1990年代後半以降、政権を掌握して、安定していた部分もありましたが、当時も恐怖政治を敷いていました。
軍事クーデターによりタリバン政権が崩壊して以降は、アフガニスタン政府を作るという国際社会の取り組みがあり、タリバンというのは背後に押しやられていました。
そのタリバンを武力によって掃討しようという作戦が、アメリカのオバマ政権のときにアメリカやイギリスを中心に行われましたが失敗しました。
その掃討作戦の失敗の裏返しとして、タリバンの勢力が拡大してきたということがあります。
そして、タリバンを相手に戦ってきた国際治安維持部隊が2014年ごろを境に次々撤退しました。
それによって、タリバンの活動地域も広がってきたという経緯です。」

西海
「地図を見ていただきましょう。
こちらがアフガニスタンの地図ですけれども、タリバンの影響力がある場所というのが、黄色ないしは赤の場所になっていますね。」

田中浩一郎さん
「7割くらいの地域にタリバンの影響がなんらかのかたちで存在しているというふうにざっと言えますが、この背景には隣国のパキスタンがあります。
パキスタンはアメリカ側についているはずなんですが、実際にタリバンはパキスタンから支援を受けているというのがもっぱらの見立てで、私もそのように信じています。
そのパキスタンによって復活を支えられたタリバンが、アフガニスタンの南部であれ東部であれ、あるいは北部であれ、それぞれの地域で活動しているという現状です。」

西海
「なぜここまでタリバンが勢いを盛り返しているのでしょうか?」

田中浩一郎さん
「ひとつは、外国軍による掃討作戦が失敗したということ。
それから、アフガニスタン政府の治世がうまくいっていないということ。
特に汚職の問題であるとか、経済的な開発が進まないとか、こういったことへの不満があると思います。
それから外国軍の筆頭である米軍などが、相当無謀な作戦を現地で行ったことによって外国軍に対する反発も広がった。
それがタリバン復活の、草の根レベルでの支持につながってしまったんです。」

西海
「住民はやはり、タリバンの復権というのは望んでいないわけですよね?」

田中浩一郎さん
「そうですね。
恐怖政治を再び見るようなことはみなさん危惧してますね。
そこは間違いないです。」

アフガニスタン 大統領選の行方は

西海
「そのタリバンが勢いを盛り返しているアフガニスタンですが、今月28日に大統領選挙を控えています。
これだけテロが頻発して治安が安定しない中で、大統領選挙は本当に行われるのでしょうか?」

田中浩一郎さん
「懸念はあるんですけれども、例えば前回の選挙を行った2014年の時も相当治安が悪くなっていたんですね。
それでも実施しましたし、今回こういう交渉の経緯で最終的にどうなるかは分からないにせよ、私はこのまま9月28日に投票が実施されると思います。」

西海
「選挙が行われた場合なのですが、その際の焦点、見ていくべきポイントはどこにありますか?」

田中浩一郎さん
「ひとつは現職のガニ大統領と、前回の選挙で敗れたアブドラ行政長官ですね。
この2人の間の角逐がどういう風に展開するかということ。
特に、片方は再選を目指す、片方は雪辱を果たそうとしている。
問題は仮にどちらがなったとしても、本当の意味でアフガニスタンが劇的に情勢が改善され、安定に向かうのかという点について、かなり怪しいと言わざるを得ないことです。
かなり否定的に聞こえるかもしれませんが、先ほど触れたような汚職の問題がいずれが大統領になったとしてもなくなる、もしくは改善されることも期待薄ということです。」

西海
「そうすると、どちらになっても何かが変わるわけではないということなのでしょうか?」

田中浩一郎さん
「残念ながら、そういうところはどうしてもあるでしょうね。」

西海
「選挙が行われても行われなくても、なかなか先行きが見通せないアフガニスタンではあるのですが、長年この国を見てこられた田中先生としては、この先どうなるとお考えですか?」

田中浩一郎さん
「長い目で見ると、アフガニスタンを安定させて復興させようという国際社会のプロジェクトのようなものが、あまり成功していません。
もちろんミクロのレベルで見れば、改善された点はいくつもあるんですけれども、全体で見るとやっぱり成功してこなかった。
しかしながらこれだけの資金、人、それから協力プロジェクトを立ち上げてきたわけですので、これを減らしてしまうとか手を引いてしまうと、むしろ今以上にどんどん悪くなることが予想されます。
現状の関わり方、あるいは今までと同等の資金や人力の投入を行って、ようやく悪化を食い止めるというような状態ですから、今後を考えると、今までと同等あるいはそれ以上の支援や関与をしていかないと、アフガニスタンは元のもくあみ、すなわち同時多発テロを引き起こした時の混とんとした情勢に舞い戻ってしまう危険があります。」

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