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2019年7月8日(月)

映画「存在のない子供たち」ナディーン・ラバキー監督に聞く

松田
「特集、ワールドアイズ。
今日(8日)は中東の貧困と子どもをテーマにした映画についてです。」

藤田
「メガホンを取ったのはこちら、レバノン出身のナディーン・ラバキー監督です。
最新作『存在のない子供たち』でカンヌ国際映画祭審査員賞を受賞。
さらに、アカデミー賞外国語映画部門にもノミネートされるなど、今、世界で注目される映画監督の1人です。」

松田
「今月(7月)、初めて日本を訪れたラバキー監督に、作品に込めた思いを聞きました。」

レバノン出身監督が描く 中東の貧しい子どもたち

佐野圭崇記者(国際部)
「この映画を作るきっかけは何ですか?」

ナディーン・ラバキー監督
「レバノンで物乞いをする子どもたちを見たとき、私は彼らの声になりたいと思いました。
子どもたちを理解し、彼らが何を感じ、どう大人を見ているか伝えたかったのです。」

裁判官
“開廷します。
なぜ法廷に?”

ゼイン
“両親を訴えたい”

裁判官
“何の罪で?”

ゼイン
“僕を産んだ罪”

映画の冒頭、法廷の証言台に立つ主人公のゼイン。
自分を産んだ罪で両親を訴えるシーンから始まります。
貧しい家庭に生まれたゼインは、家族を養うために一日中働かされ、学校に通うこともできません。

店主
“ゼイン、さっさとやれよ”

両親が出生届を出さなかったため、自分の年齢さえわかりません。
妹の存在だけがゼインの心の支えでした。
しかし、2人を引き裂く事件が起こります。


“やだ、行きたくない”

ゼイン
“母さん、お願い”

母親
“クソガキ!”

父親
“いい加減にしろ!”


“行きたくない”

父親
“来るんだ、面倒をかけるな”


“やだよ!”

生活に困った両親が妹を無理やり結婚させてしまうのです。

ゼイン
“サハル!サハル!”

母親
“行かせなさい”

深刻な児童労働や児童婚など、紛争を背景に貧困に追い詰められる子どもたちが描かれています。

ナディーン・ラバキー監督
「私は、大人たちが作り出した紛争や戦争について、子どもたちがどのように感じているのだろうと思っていました。
大きな代償を支払うわけですから。
そして、私は映画を通して、この問題に光を当てようと思いました。
映画だったら、ニュースで聞いたり、ものごとがどうなるか想像するよりも、受け取る側が問題をより身近なものとして、捉えることができるからです。」

ラバキー監督はリアリティを追求するために、3年間にわたってレバノンの子どもたちの声に耳を傾け、脚本を書き上げました。

ナディーン・ラバキー監督
「私は厳しい状況下で生活するたくさんの子どもたちと話しました。
無視され虐げられている子どもたち、刑務所やシェルターにいる子たちとも話しました。
彼らに『生きていて幸せ?』と聞くと、大抵『ううん、幸せじゃない』という答えが返ってきました。
また『毎日殴られるだけで、なんで生まれてきたんだろう』と聞き、彼らの怒りを表現するため、彼らの声になろうと思いました。」

子どもたちの声を伝えるために監督がこだわったのが、キャスティングです。
主な登場人物は、役柄と同じような境遇の子どもたちを街で探しました。

とりわけ主人公のゼインは、内戦が続くシリアからの難民で、監督の思いが詰まっています。

ナディーン・ラバキー監督
「映画の撮影中、どんな時もゼインは周囲に動じることなく、また、撮影スタッフがいることを気にする素振りもありませんでした。
ゼインはゼインです、本名です。
映画の彼が彼そのものなのです。
演技ではありません。
私たちには、子どもたちの苦しみやもがきを演じることはできません。
ですから私にとっては、実際にその苦しみを経験したり、もがきながら生きてきた子どもたちが、ありのままを表現する場を与えることが重要だったんです。」

ゼイン
“トマトジュースは美容にオススメだよ!
250ポンド”


“どうもありがとう”

絶望的な貧困の中で暮らす子どもたちの体験が、映画にはちりばめられています。

ゼイン
“水がない。
マジかよ、最低の国だな”

ナディーン・ラバキー監督
「この映画を見たあと、食事がのどを通らなくなったという人や、なかには路上で生活している子どもたちの見方が変わったという人もいます。
もっと多くの人に、この映画を見てもらいたいと思っています。
そうすることで会話や議論が生まれ、世の中の流れが変わっていくのだと思います。
その議論を生み出すことこそが私の目的です。

究極の目標は、児童労働のような犯罪が許されることがない、そんな社会を作ることです。
どんな子どもも、大人が作った不完全な社会に耐える必要もなく、犠牲になることもありません。
そのためにも私たちがまず取り組むべきことは、子どもを守る環境作りなんです。」

“貧しい子どもを救いたい” 映画に込められた思い

藤田
「スタジオにはインタビューをした国際部の佐野記者です。」

松田
「佐野さん、子どもたちの貧困の状況は、映画とはいえ胸が痛いほどでしたが、映画を通じて社会の問題を解決したいという、監督の思いがひしひしと伝わってきましたね。」

佐野圭崇記者(国際部)
「ラバキー監督はこの映画の撮影直前に長女を出産しました。
母親として、子どもたちが虐げられている現実を多くの人に知ってほしい、そして1人でも多く救いたいという思いを込めて撮影に臨んだそうです。

監督が生まれ育ったレバノンは、国の東側と北側をシリアの国境と接し、もともとの人口は450万ほどでした。
しかし、シリアで内戦が始まると、およそ100万人もの難民がレバノンに逃げてきます。
トルコに次いで世界で2番目に多い難民の受け入れによって、実に国内人口の6人に1人が難民という状況になりました。
ラバキー監督は、映画では国を追われて、何の後ろ盾もないままに生きるシリア難民の子どもたちも描いていますが、こうした映画を製作するだけでなく、自ら基金を立ち上げて出演した子どもたちを支援する活動もしています。
インタビューの中で、ラバキー監督が『困難な境遇にある子どもたちを黙って見過ごすことは、犯罪に手を貸しているのと同じだ』と力強く語っていたのが印象的でした。」

主人公の“ゼイン” ノルウェーに移住

藤田
「主人公のゼインさん、子どもながらにたくましく生き抜く力が感じられリアリティがありました。
彼は実際にシリア難民だったということですが、この映画に出演したあと、今、どうしているのでしょうか?」

佐野記者
「ゼインさんは、映画の撮影後、国連機関の援助を受けて、家族とともにノルウェーに移住したんです。
ラバキー監督は今も連絡を取り合っていて、ゼインさんから『生まれて初めてベッドで眠った』という報告があったと、うれしそうに話していました。

さらに、こちらはノルウェーのテレビ局がゼインさんを取材した映像です。
現地の子どもたちと言葉を教え合うなど、新しい生活に慣れようとしています。
ラバキー監督は、出演者のその後を描いた、ドキュメンタリーの撮影を続けているそうです。
これまでも女性や宗教など、中東の社会問題を独自の視点で描いてきたラバキー監督。
今回の作品でも『子どもと貧困』という普遍的な問題を解決したいという力強い思いを感じました。」

藤田
「今日ご紹介した『存在のない子供たち』は、今月20日から公開の予定です。」

松田
「ここまで国際部の佐野記者とお伝えしました。」

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