BS1 ワールドウオッチング - WORLD WATCHING -

2019年4月1日(月)

世界に広がる「トライバリズム」とは

西海
「特集・ワールドEYES(アイズ)。
けさは、海外のニュースでしばしば聞かれるようになったこの言葉、『トライバリズム』についてお伝えします。
『トライバリズム』とは、同じ主張の人々がまるで“部族”のようにまとまり、他のグループと対話するのが難しい状態や現象のことを指します。」

丹野
「最近この『トライバリズム』という言葉が注目されたのが、先月(3月)、ニュージーランドで50人が亡くなった銃の乱射事件です。」
白人至上主義者がイスラム教徒のモスクを襲撃した事件が、一種のトライバリズムだとする見方が出ています。」

西海
「今、世界中で主義・主張が対立する問題が起きる中、『トライバリズム』の広がりに懸念が高まっています。」

世界に広がる「トライバリズム」

先月、ニュージーランドで起きたイスラム教の礼拝所が襲撃された事件。
白人至上主義思想を持った容疑者の出身国、オーストラリアのモリソン首相は、“トライバリズムが顕在化している”と非難しました。

オーストラリア モリソン首相
「意見の対立が深まるにつれ、トライバリズムが顕著になり、過激主義に走る人たちも出てくる。」

自分と異なる考えを持つ他者を拒絶し、屈服させようとする「トライバリズム」。
近年、その現象が広がり、今までにない政治家が登場しました。

アメリカ第一主義を掲げるトランプ大統領。
自らの支持層を優先させる政策を次々と打ち出し、国際社会からの反発をよそに、強硬な姿勢を貫いています。
国内では、宗教や人種の違いによる対立が多発。
「トライバリズム」の深刻化が浮き彫りになっています。
こうした事態を憂慮したのが、共和党の重鎮、ジョン・マケイン氏。
生前残した最後の手紙には、「トライバリズム」への警鐘を鳴らす内容が書かれていました。

“トライバリズムを愛国主義と誤解し、アメリカは偉大さを失いつつある。”

一方、ヨーロッパでも、イタリアやハンガリーなどで移民排斥を訴える右派政党が台頭。
イギリスではEU離脱をめぐり、国を二分した議論が続けられています。
これに対し、エリザベス女王は、恒例のクリスマス・メッセージの中で「トライバリズム」に言及しました。

さらにSNSなどのネット上でも、他者に不寛容な「トライバリズム」が広がる懸念が指摘されています。

国連 グテーレス事務総長
「多くの人たちが、自分と同じ意見のニュースやSNSから情報を入手し、トライバリズムを強め、異なる人たちは間違っているという認識を高めてしまう。」

「トライバリズム」とは

西海
「けさは、文化人類学がご専門の慶應義塾大学・渡辺靖さんにお話を伺っていきます。
さまざまな場面で『トライバリズム』という言葉が登場していますが、国際社会において、どういう意味で使われているのでしょうか?」

慶應義塾大学 教授 渡辺靖さん
「使われるようになったのは3年程前からだと思いますが、『私たちと彼ら』『味方と敵』というのを鮮明にする態度のことです。
そしてお互いが歩み寄らないのが特徴的です。
自分たちの人種、民族、宗教、国家、政治信条というものを第一に考え、そうでないものとの歩み寄りを拒否して、むしろそうした人たちを強引に屈服させていこうというのが特徴的だと思います。」

西海
「そもそも、こういう意味で使われるようになったのは、アメリカが最初だと聞いたのですが?」

渡辺靖さん
「そうですね。
特に今のアメリカというのは、150年前の南北戦争以来、最大の分裂状態にあると言われていますけれども、それだけではなくて、最近では所得や教育水準、人種といったもので、より対立が細分化されて分断状況が進んでいるということだと思います。」

「トライバリズム」が引き起こす問題

丹野
「アメリカのトライバリズムについては、社会の中でこのトライバリズムが進むと、どういった悪影響が出てくるのでしょうか?」

渡辺靖さん
「やはり民主的な手続きがどうしても軽視されてしまう、二の次になってしまうということと、それから、自分たちのことしか考えないわけですから、異なる人たちが共存するという『共生』が難しくなってしまう。
それから、世界的には無秩序化するといいますか、これまで自由で開かれた社会ということを理念として掲げてきたわけですが、そうした理念がきれい事、建て前のように聞こえてしまうのが問題だと思います。」

丹野
「トランプ大統領の手法についても、こういった問題点があると懸念する声があるということですね。」

渡辺靖さん
「そうですね。
トランプ大統領の場合は、もともと、政治的な敵対関係にある人たちに対して、一切、聞く耳を貸さない、歩み寄ることもしない、ツイッターと政治集会などで過激な言動を繰り返すということですね。
そして異論に対しては、『それはフェイクニュースだ』というふうに言うということで、国際的にもアメリカ第一主義というのを掲げて、多国間の取り決めや国連というものを軽視しているというわけで、言ってみれば、国際的な秩序とか協調というのを危ぶむ声も出てきているということですね。」

各国で見られる「トライバリズム」

西海
「アメリカ以外でも、この『トライバリズム』というのは広がっているようなんですけれども、この各国の現象というのはどういうふうに見たらいいのでしょうか?」

渡辺靖さん
「先ほどのVTRにありましたように、ニュージーランドのケースというのは非常に衝撃的で、テロが起きたニュージーランド、容疑者の出身国であるオーストラリア、どちらも多文化共生のお手本というふうににされてきた国ですけれども、そういった国でも分断状況が進んでいる。
白人の権利とか、尊厳というものがないがしろにされているという人たちの不満というのが、テロに結びついたということですね。
それから今、EU離脱問題でイギリスは大変なことになっていますけれども、その背景にあるのは、やはり移民が増えて、そのことに対して白人の人たちが自分たちの権利というのが危ぶまれているという危機感と、それからイギリスの主権というものがEUによって損なわれているという憤りのようなものが背景にあるわけです。
加えて、イギリスのみならずヨーロッパでは、ドイツ、オランダ、各国で排外主義的な極右勢力というのが力を増してきているということで、アメリカのみならず、ヨーロッパでも広がりを見せている深刻な状況だというふうに思います。」

「トライバリズム」 拡大の背景は

丹野
「こういった『トライバリズム』という現象が拡大している、その背景には何があるんでしょうか?」

渡辺靖さん
「大きく2つあると思うんですが、
ひとつは『グローバリゼーション』ということがあると思いますね。
『グローバル化』というのは、ヒト、モノ、カネの流れというものが国境を越えていくということですけれども、その結果、国家の主権というものが揺らいでしまうと。
それに対して、反動として自国第一主義というのが出てきやすいというのが1つ。
それから、『グローバル化』の中で移民が入って来たりとか、経済格差が広がったりということに対して、その不満をなんとか抑えようとして、強権的な手法に訴えたり、あるいは『ナショナリズム』に訴えたりという手法というのが顕著になってきているということですね。
ですから言ってみれば、そのことによって民主的な価値というのが揺らいでいるということで、欧米では、その『グローバリゼーション』に対しての『疲労感』、『グローバリゼーション疲れ』しているようなところが背景にあるのかというふうに思います。」

西海
「SNSによっても、やはりこういった『トライバリズム』ということはあるのでしょうか?」

渡辺靖さん
「おっしゃる通りですね。
やはりSNSというのは、どうしても自分の考えと似たような人たちがつながりやすいという傾向がありますので、その結果、たこつぼ化が進んで、結果的に社会の分断状況が進むということはあるかと思いますね。」

「トライバリズム」 止めるのは不可能?

西海
「こうした世界各国、ネットの世界でも広まっている『トライバリズム』という現象を食い止める方法は何かないのでしょうか?」

渡辺靖さん
「有効な特効薬はないと思います。
残念ながらよほど世界的なレベルの経済危機ですとか、あるいは戦争や紛争ということがあって、自分たちが痛い目にあわないと、こういったトライバル化していくことの、言ってみれば愚かさということは気づかないと思いますね。」

西海
「かなり深刻ですね。」

渡辺靖さん
「そうですね。
今の状況というのは大恐慌から第2次世界大戦に入っていた1930年代に非常に酷似していると指摘する人も多いですね。」

西海
「こうした今見てきた『トライバリズム』という現象ですが、私たちは日本に住んでいると、あまりそういったことを感じないのですけれども…。」

渡辺靖さん
「欧米と比べると、そこまでまだ顕在化はしていないと思いますが、しかし他人事ではないと思います。
近年、ネット上では過激な言動が出回っていますし、それからヘイトスピーチのようなものも社会問題化しています。
その背景には非正規雇用や経済格差といった問題があるのかと思いますね。
特に今月(4月)から、外国人材の受け入れ拡大ということで、下手をすると自分たちの社会の不満というのが、外国人の方々のスケープゴートにすることによってはき出されてしまうこともありますので、それは要注意かなと思います。

西海
「こうした不安な要素がある中で、『トライバリズム』に発展しないように、私たちが気をつけることはありますか?」

渡辺靖さん
「個人個人がネットの情報に惑わされないようにするリテラシーを付けることももちろんなんですが、やはりマスメディアの役割がとても重要なんですね。
いわゆるファクト・チェック、事実をきちんと確認することや、それからどうしても悪い方向だけではなく、前向きな努力をしている市民レベルでの営みや試みがありますので、そういったものをきちんと拾い上げることも重要ですし、このグローバリゼーションのしわ寄せを受けている人の不満というのを拾い上げて耳を傾けていくことも、マスメディアのとても重要な役割だと私は思いますね。」

西海
「非常にわれわれにも重い課題が突きつけられたと思います。」

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