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2019年2月4日(月)

革命から8年~苦悩するチュニジア

中東の民主化運動、「アラブの春」の先駆けとなったチュニジアの市民革命から8年。
改革を試みる中東の国々が内戦やクーデターで混乱する中、チュニジアは、民主化への歩みを粘り強く進めてきました。
そして2015年。
政治の分断を食い止めるために作られた市民組織「国民対話カルテット」が、ノーベル平和賞を受賞します。
しかし今、チュニジア国民の不満が再び噴出しています。
一向に改善されない経済状況に不満を抱き、全国規模のストライキや政府への抗議行動が起きているのです。
難しい局面に立たされる、チュニジアの実情に迫ります。

山澤
「特集・ワールドEYES(アイズ)。
けさは、独裁政権が崩壊して8年がたった今、新たな段階を迎えている北アフリカのチュニジアの現状についてお伝えします。」

丹野
「チュニジアといえば、地中海に面した温暖な気候で、古代遺跡などの観光資源にも恵まれ、特にヨーロッパの人たちに人気の観光地として知られています。
しかし、革命後の混乱や相次ぐテロの影響で、主要産業である観光業が低迷し、国内経済は厳しい状況が続いています。」

山澤
「経済成長率の推移を見てみますと、革命前は平均して5%程度あったものが、革命後に急激に落ち込み、いったんは持ち直しましたが、その後は2%余りに。

一方、失業率は15%前後に高止まりしていて、深刻な状態です。
特に若者の失業率は30%を超え、若者を中心に、現政権への失望感も広がっているようです。

まずは、現地を取材したF2のリポートをご覧ください。」

チュニジア 革命8年 市民に広がる失望感

海岸沿いのリゾートから離れた、カスリン。
革命時には運動が盛んでしたが、今は政府からも忘れられ、失業に苦しむ町の1つです。
革命から8年、若者には仕事がなく、当時と同じ失望感に満ちています。
この青年もサンドイッチを売り、わずかに稼ぐ毎日です。

「こんな仕事でもしないと、飢え死にです。
家族を養わなければならないのに、相変わらず国は何もしてくれません。」

「革命に期待したけど、得をしたのは金持ちやエリートです。
カスリンの若者は何も得られませんでした。」

国は自分たちを見下し、海岸地域を豊かにすることしか考えないとの思いが、地元の人たちに根強く残っています。
高等教育を受けた人たちが、仕事を求め、座り込みを続けています。

「みんな高等教育を受けています。
3年も専門教育を受けています。」

「看護師なのですね?」

「はい。」

彼らは全員、自分の専門分野の仕事に就けず、すっかり失望しています。

高等教育を受けた女性
「仕事ができるという約束は守られませんでした。
不満を言えるようになったのが、唯一いいことです。」

高等教育を受けた30%が失業しており、大都市から離れた町では40%が失業しています。
批判を受けている地方当局に話を聞きに行くと、担当者は私たちを建設中の工業団地に案内しました。

開発担当者
「あれが電力供給網です。」

道路、電気、水。
これらが、革命から8年がたって地元当局が提供しているものです。

農業担当者
「簡単には成功できません。
時間はかかりますが、必ず継続的に発展できます。」

一方、企業誘致のために、優遇策を打ち出しても、田舎の町に進出する企業はほとんどありません。
首都のチュニスですら、理想にはほど遠い状況です。
国民全員が生活に苦しんでいるのです。
この市場でも、人々は少しでも安いものを探そうと必死になっています。

市民
「家計が大変です。
生活はとても苦しいです。」

市民
「肉や魚や卵も、前より買わなくなりました。」

インフレ率は7%を超え、法定最低賃金は月160ユーロ、平均賃金は月500ユーロです。
革命から8年、チュニジアの人たちは、悪化する生活に苦しんでいます。

チュニジア経済 低迷の背景は

丹野
「革命に大きな希望を抱いていただけに、暮らしが改善されない現状への不満が膨らんでいるようですね。」

山澤
「ただ、政府が経済政策によって、一般の国民、特に若者の生活を改善できないのは、革命を経て民主化を進める国ならではの事情があるようです。
チュニジアに何度も足を運ばれ、長く調査研究をされている、桜美林大学教授の鷹木恵子(たかき・けいこ)さんに話を聞きました。」

桜美林大学 教授 鷹木恵子さん
「経済低迷の背景としては複数のことが考えられると思うのですが、チュニジアはIMFなどから多額の融資を受けていますが、革命の後は、そうした資金が必ずしも、景気回復とか雇用創出に向けたプロジェクトなどには投入されてこなかった。
むしろ、革命の理念である正義とか公正、あるいは人間の尊厳という理念を尊重する形で、革命過程での犠牲者への補償金であるとか、あるいは独裁政権期に、長く政治犯として獄中にいた人たちへの賠償金などにあてられたということがあったと思います。
さらに、隣国リビアの情勢もチュニジアの経済に与えている影響は少なからずありまして、リビアからのテロ組織、あるいは武器がチュニジア国内に流入してこないように、2015年くらいから治安対策と国防費の予算が倍増されました。
政府としては、経済発展というのは治安の維持なしにはありえないという立場で、チュニジアの基幹作業である、特に観光産業などは、治安がよくなければ、その回復は見込めないということで、国防費に多くの予算が回されている。
そのことが、産業部門への投資などの減額につながっていると思います。

実際に、2015年に新政権が発足し、これから経済の立て直しをやっていこうという矢先に、3月にはチュニスの観光名所であるバルドー博物館で、日本人も犠牲となったテロ事件が起きました。
さらに6月にも、リゾート地のホテルで30名以上の犠牲者を出すテロ事件が起きた。
そうしたこともあり、政府としては治安回復ということをまず念頭に置いて、そこを予算を多く配分するというのは否めない判断だったと思います。」

拡大する政府への抗議行動

丹野
「革命の後、まず国を安定させるために、革命の理念と治安を優先しなけばいけないという事情があるんですね。」

山澤
「ただ、革命からすでに8年。
長引く経済の低迷に対する我慢も限界に達していて、各地で政府への抗議行動も活発化しています。
去年(2018年)12月、政府の失業対策の不足を訴えた男性が焼身自殺を図り、これをきっかけに、数百人の若者が警官隊と衝突しました。
また先月(12月)には、給与の引き上げを求める公務員が大規模なストライキに踏み切り、全国でおよそ67万人の公務員が参加し、政府との対立が深まっています。」

丹野
「抗議行動も、相当激しくなってきているんですね。」

山澤
「このように、経済が低迷し、政治への不満が高まる構図は、8年前の革命の構図と同じだという指摘もあります。
このままの状況が続けば、再び革命につながる可能性はあるのか。
チュニジアの民主主義の行方、そして状況打開へのカギについて、鷹木さんは次のように話しています。」

苦悩するチュニジア 民主主義の行方は

鷹木恵子さん
「チュニジア革命の背景には、経済問題がその要因の1つとしてあったのは事実ですけれども、現状でもう一度革命を起こすようなことがあるかというと問われれば、その可能性はないんじゃないか。
仮に革命を起こしても独裁政権はないわけですし、ただ混乱を招くだけですので、そのメリットは考えにくいと思います。
確かに革命後、言論の自由、政治活動の自由などがおう歌できるようになりましたので、それが革命のたまものであったということは言えるんですけども、その一方で国内の政治に関しては多くの政党が作られて、それが離合集散するような状況にあったり、あとは政党間、あるいは政党の内部でも抗争が激しくなっているような現状は確かにあります。
そのため、独裁政権期のような形で物事がスムーズに統率されたり、決定されたりすることがなかなか難しくなっているということもいえます。

ただ、これまで議会選挙、大統領選挙、複数の選挙が混乱なく行われて、しかも国民が納得するような状況で実施されてきたということを考えますと、民主主義というのは、民意を問うというような選挙を通して機能しているのではないかと判断しています。」

チュニジア経済 立て直しへの道筋

鷹木恵子さん
「経済の立て直しについては、政府がまったく無作為で手をこまねいているわけではないです。
先のダボス会議では、チュニジアの首相がEUから約3億ユーロの支援を得るというのを取り付けています。
しかも、その資金を、若者たちの失業対策や地域格差の是正、そして投資を呼び込むためのインフラ整備にあてるということを公約していますので、今後はいい方向に向かうのではないかと思っています。

日本でも、近くチュニジア投資セミナーなどが開催される予定ですので、日本も今後いろいろと協力していくことができるのではないかと思っています。」

丹野
「民主化を進めることの難しさに直面しているチュニジアですが、経済の立て直しも含め、これからが正念場と言えますね。」

山澤
「20年以上続いた独裁政権が崩壊した後、チュニジアの人々が今までに経験したことがない、まったく新しい国づくりをしているということを考えれば、8年という年月は、まだ短いのかもしれません。
とはいえ、今チュニジアが抱える経済や治安の問題は、国民の生活に直結する、解決が急がれる問題です。
国際社会としては、そうした分野を中心に適切な支援を行うことで、チュニジアの民主化への歩みが後戻りしてしまわないよう、引き続きサポートをしていくべきだと思います。」

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