BS1 ワールドウオッチング - WORLD WATCHING -

2019年1月28日(月)

AI時代に必要とされる「人文系」

塩﨑
「特集・ワールドEYES(アイズ)。
けさは、歴史や宗教、哲学、文学など、いわゆる『人文系の学問』についてお伝えします。
藤田さん、今、自分が学生だとして、人文系の学問を学びたいと思いますか?」

藤田
「今は技術革新が進んで、AI=人工知能に将来、仕事を奪われるなどと聞きますし、ITのスキルなんかを身につけられたらいいかなと思うんですが。
最近、銀行が事務職の採用を大幅に減らしたというニュースもありましたよね。」

塩﨑
「そうですね、理系の専門知識を身につけたほうが就職に有利という話も聞きます。
大手IT企業の多くが拠点としているアメリカでは、こんなデータが出ています。
2016年に歴史や哲学、文学などで学位を受けた人が、2008年に比べて15%~25%減少、人文系で軒並み減少しています。
一方で、理系の学科では増加していて、機械工学を卒業した人の数は700%以上も急増しているんです。」

藤田
「桁違いに増えていますね。」

塩﨑
「実は、私自身は高校時代、理系のクラスにいて、同級生のほとんどは理系に進んだんですが、3年生の時に、向いてないと考えて人文系に変え、大学では哲学を専攻しました。
理系と人文系、どちらも重要だなと思います。
そして実際に今、人文系ならではの能力が、IT系の現場でも必要だとの声が出てきています。
まずはアメリカPBSのリポートをご覧ください。」

人文系専攻でも IT企業で活躍

スタンフォード大学の学生が最も専攻しているのが、シリコンバレーの技術の源でもある、コンピューターサイエンスです。
学生たちは、高額な給与を得られる仕事に直結する学科を希望しています。

スタンフォード大学 ルイス・ニューマン氏
「学生の関心は卒業後の仕事に向けられています。」

ルイス・ニューマン氏は大学の学生課の責任者であり、宗教学の学者でもあります。

ルイス・ニューマン氏
「就職だけでなく、誰もやっていないことを考えなさいと言っています。
ここで学んだことが、それを生み出すかもしれないのです。」

年々、歴史や哲学、文学などを専攻する学生が減少する一方、人文系で学んだことは現在の企業でも需要があるといいます。

ルイス・ニューマン氏
「思考の明確化、文章力やコミュニケーション能力、多様性への理解などは、あらゆる仕事で役に立ちます。」

記者
「でも、英語や歴史、古典などを学ぶ学生に、『就職できる』とは言えませんよね?」

ルイス・ニューマン氏
「約束はできませんが、多くの卒業生が職を得ています。」

こんな意外な職場で成功した人も…。

ベンチャー投資家 スコット・ハートリー氏
「大企業のトップの専攻を見てみると、ユーチューブのCEOは文学を、ピンタレストの創立者は政治、そして、エアビーアンドビーの創立者は芸術でした。」

スコット・ハートリーさん。
IT系のスタートアップ企業にアドバイスを行っている投資家です。
著書に「なぜ人文学がデジタル世界を支配するのか」などがあります。
今、IT系の企業は、人が抱える問題を解決するビジネスに続々と参入しています。
ハートリーさんは、解決する技術は簡単に見つかるが、それをどう使うのかが鍵になるといいます。

ベンチャー投資家 スコット・ハートリー氏
「ITに精通していることは重要ですが、企業の成長を考えた時、物事を一歩引いて見ることや、顧客に共感する能力が求められます。
その点が優れている企業のトップたちは、大学で人文系を学んできたのです。」

その例として、ハートリーさんがあげる、サンフランシスコにあるスタートアップ企業です。
創業7年目で衣料品を扱っています。
およそ300万人いる顧客は、好みのファッションを記入するだけ。
すると、芸術史を専攻したレイン・クロスさんのようなスタイリストが、要望に応えてくれます。

こうしたスタイリストは400人以上います。
クロスさんらスタイリストたちは、複数の洋服が入った箱を準備して、それを顧客に送ります。
客は気に入ったら購入し、返品もできます。

記者
「解決すべき問題は?」

スティッチ フィックス社 アルゴリズム担当 エリック・コールソン主任
「機械と人間を協力させることです。」

この会社の主任でもあるコールソンさんは、会社が求めるのは、ITの技術と共に共感力を持つ人間だといいます。

エリック・コールソン主任
「この仕事では共感力が重要です。
顧客の服を選ぶには、相手のことを理解する必要があります。
『元彼の結婚式に出席するから素敵にして』なんて意味深なものにもです。」

記者
「深いですね。」

エリック・コールソン主任
「ええ。
背後にある感情をくみ取れる人が、ここでは求められているのです。」

記者
「でも、哲学科を専攻した人だけで経営できますか?」

エリック・コールソン主任
「それは無理です。
理系、人文系、両方のスキルが必要になってきます。
それぞれを学ぶことが重要になるでしょう。」

AI時代到来で人文系学問は?

藤田
「スタジオには、テクノロジーと人間についての思索を続けている哲学者で、東京女子大学教授の黒崎政男さんにお越しいただいています。」

塩﨑
「ご覧いただいたリポートでは、人文系で身に付く能力もテクノロジーの現場で必要とされているということでしたが、黒崎さんはどうご覧になりましたか?」

東京女子大学教授 黒崎政男さん
「なかなかよくできているというか、深く意味を考えるとか、多面的に物事を考える人文系の能力の方が、むしろ今は役に立つ能力に変わってきているのではないかという感じです。
今は多くの仕事がAIにとって代わる時代になってきているわけで、だからAIにできない能力、AIにとって代わられない能力は何かと考えた時、それは人文系の能力じゃないかということが明らかになってきているのだと思います。」

藤田
「では、自ら学習して知識をためる段階にきていると言われるAIでも、人文系の能力を習得することはできないということでしょうか?」

黒崎政男さん
「なかなか難しいというか、人工知能のやり方と人間のやり方ってちょっと違うので。
例えばAIというのは、そういう意味で言うと『意味』を理解できないっていうことが一番大きな、“『意味』を使わない”と言ってもいいんですけど。
例えば、東京大学に入れようとした人工知能の研究で、『東ロボ君』というのがありますけれども、それがなかなかいい所までいったんですけれども、国語の読解ができなかった。
数学や理科は本当に良く解けたんですけど。
例えば、こういう問題が解けないんですね。
『1日5台の自動車を生産する工場が3日間操業した。さて自動車は何台できたでしょう?』。
何台できたと思いますか?」

藤田
「5台×3日間なので、15台ですよね」

塩﨑
「簡単な気がしますよね。」

黒崎政男さん
「そうですよね、小学生でも分かるような。
これが人工知能には分からない、解けないんです。

逆に不思議なんですけども、我々は自動車、工場、操業する意味だとか、いつでも『意味』で考えていて、理解できるわけですよ。
だけどAIというのは『意味』は使わない。
むしろ、統計と確立のビッグデータ的な処理によって答えを出してくるので、意味を考えて出してくるんじゃなくて、統計処理をして出力してくる。」

藤田
「AIって計算が得意だというイメージがあったんですけども、そもそもの問題の意味がわからないということなんですね。」

黒崎政男さん
「そういうことですね。
まあ、問題の『意味』が分かるということはどういうことかというのは、非常に難しい問題になりますけども。
例えばビッグデータ的思考ってどうなっているかというと、さっきの問題だとおそらくこういうふうに見えている。
比喩的ですけども、AIには。
『@■◎■◎※★★★★』だと、AIには『◎※◎※▲』というふうに見えている。
それで、『★★★★』と『◎※◎※▲』がいつも統計的に一緒に出てくる時には、ここに必ず『★★@』が出てる。」

塩﨑
「関係を見ているということですね。」

黒崎政男さん
「はい。
すると、『これとこれがあった時は、これを出力すればいい』という、そういう能力なわけですよね。
そうすると、『※★★★★』の意味が『工場』だから、こうとかなんとかっていう、そういう形で理解しているわけでは無いわけです。
だから、例えば塩﨑さん、こういう問題はどうですか?
『要人が暗殺部隊によって殺害されることを阻止しろ』って言われたら、どうしますか?」

塩﨑
「それはもう、要人を安全な場所に移して殺されないようにしますよね。」

黒崎政男さん
「そうですよね。
それが我々の発想ですけども、AIがもしも『意味』が分からなくて変なことを考えたりすると、どういうことが起こるかというと、『要人を殺しました。これで暗殺部隊に殺害されることは阻止できました』。」

藤田
「ええっ?」

黒崎政男さん
「暗殺部隊によって殺されることを阻止しろっていうんだから、あ、自分で殺しときましたので、暗殺部隊にはもう殺せませんから大丈夫ですと。」

塩﨑
「へ理屈っていえば、へ理屈ですね。」

黒崎政男さん
「我々にとっては、へ理屈ですけど。
『それじゃだめだろ』って言っても、『何でだめなんですか?そうしろって言ったじゃないですか』ということになるわけです。
これだと、なんだかAIがすごくおバカさんみたいな言い方をしていますけれども、必ずしもそうではなくて、先ほども言ったように我々は『意味』を考えて、それでこうだからという形で世界と向き合っている。
だけど、AIはそういう『意味』は関係ないので。
『意味』は彼らは分からないというか、無いんです。
でも答えは正確な答えを出してきて、例えば、今日ここで犯罪が起こる可能性が(ある)、この地域は殺人が起こる可能性が多いから気をつけろっていう答えを出してくる。
我々は『何で?どうして?』と必ず問いますけど、彼らは『何で』とか『どうして』とかで出しているんじゃなくて、統計処理をしてただ出してきているから、彼らには『なぜか』ということは分からない。
『なぜ?』で答えを出しているわけじゃないからなんです。
別の発想で問題を解いている。
それが人間とAIの違いだと。」

藤田
「なるほど。
そうした『意味』を考えて理解する力をつける学問が、人文系だということなんですね。」

黒崎政男さん
「そうだと思います。」

藤田
「先ほどのPBSのリポートの中でも、物事を客観的に見られたり、顧客の気持ちに共感する能力に優れた人文系出身の経営者たちも多いと言っていましたよね?」

黒崎政男さん
「そうですよね。
例えば、いろいろな技術はあるとか、やり方も分かっているけど、それをどういうふうに使ったらいいのかとか。
定型的、機械的な仕事、これはもうAIにおそらく代替されていくと思うんですけど。
やっぱりこう『人間とは何か』とか『生きるとは何か』って、そういう観点から意味を深く洞察するような訓練。
そういう能力を身に付ける、これは人文系のことだと思うんですけども、そういう能力が無いとイノベーションも起こせないし、技術があっても何のために使ったらいいか分からないということになっていくと思います。

だから人文系はAIと全く別のように思いますけども、300年前ぐらいの哲学者たちは、実は今のAIの根本を考え出していて、それがやっと技術的に今成立してくるようになった。
例えばライプニッツなどはそういう人ですね。」

AI時代に必要な人文系学問

塩﨑
「それでも現代では人文系と理系と分かれて、最近は、人文系出身は理系に比べて年収が低いなど言われて、アメリカなどでは人文系離れが進んでいますが、これはどうご覧になっていますか?」

黒崎政男さん
「私の大学は東京女子大学で『哲学専攻』というのがありまして、女子学生が毎年卒業していきますが、非常に良い就職をしていて。
だいたい3分の1ぐらいはIT関係に進んだり、銀行一般職、公務員になったり、全く普通の職に就いていくので。
非常に目先のノウハウだけを実学的に学んで就職しても、在学中の4年経つうちにテクノロジーは変わってしまって役に立たないということがありますよね。
それよりはむしろ、大きなものの見方、全体を見る見方というのを身に付けておく方が、結局は応用力があるというか、社会にとっても役立つという時代に、AIが出てきたので、それがものすごく逆に明らかになったんですけども。
そういう形で意味が非常に出てきているという感じだと思います。」

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