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2019年1月21日(月)

日本のIWC脱退が与える捕鯨問題への影響

山澤
「特集・ワールドEYES(アイズ)。
けさは、日本が先月(12月)、IWC=国際捕鯨委員会から脱退を表明した影響についてお伝えします。」


丹野
「IWCは、クジラの資源を保護しながら捕鯨を続けていくために1948年に設立された国際機関で、現在の加盟国は89か国、日本は1951年に加盟しています。
設立当初は、クジラの肉や油などを利用する国が多かったものの、一部のクジラが減少したことなどで捕鯨に反対する国の加盟が増加。
1982年、クジラの肉などを利用する『商業捕鯨』の一時停止が決定されました。
これに対し日本は異議申し立てをしましたが、1985年にこれを撤回。
商業捕鯨を中断し、南極海などでクジラの資源量や生態などを調査する『調査捕鯨』を1987年から行ってきました。」

山澤
「そんな中、先月26日、日本はIWCからの脱退を正式に表明し、今年(2019年)7月から日本の領海やEEZ=排他的経済水域での商業捕鯨を再開する方針を発表しました。
このニュースは世界を駆け巡り、反捕鯨国などからは強い非難の声が上がっています。
まずはイギリスBBCのリポートをご覧ください。」

商業捕鯨再開を表明 欧米で批判高まる

日本の商業捕鯨再開の表明に対し、批判が高まっています。
オーストラリア政府は「遺憾」だと延べ、ニュージーランドはクジラの殺害は「不要な行為」と指摘。
日本はアイスランド、ノルウェーと同様、80年代に決められた規定に背くことになります。
海の「やさしい巨人」が今、世界で議論の中心となっています。

焦点は「商業捕鯨」です。
日本は、この残忍なビジネスを再開するといいます。

菅官房長官
「9月に行われたIWCの総会で、異なる見解を持つ国々との共存が不可能だと判断し、IWC脱退という決断に至りました。」

IWCは多くの種が絶滅寸前の状態になったことを受けて、1986年に捕鯨を禁止しました。
アイスランドやノルウェーなどは、絶滅危惧種ではないミンククジラの捕獲を続けており、日本も毎年200頭から1,200頭を調査目的で捕獲しています。
日本では昔から捕鯨を行い、大戦後の貧しい時代には重要なたんぱく源でした。

市民
「若い頃は、クジラの肉を売る店があって、買って食べていました。
行列ができるほどではないですけどね。」

日本は、クジラを食べることは文化であり、捕鯨は継続的に行えるといいます。
しかし、自然保護の活動家は、捕鯨再開は種の回復をおびやかしかねないと主張します。

海洋生物学者 マーク・シモンズ氏
「日本だけでなく、ほかの国もIWCから脱退するおそれがあります。
日本が何のおとがめもなければ、追随する国が出てきて、より多くの種が捕獲される可能性があります。
国際的な管理の及ばない場所で、捕鯨が拡大しないか心配です。」

日本は商業捕鯨について、領海と排他的経済水域に限定し、南極海では行わないとしています。
それでも、多くの国が日本に考えなおすよう呼びかけています。

クジラに対する価値観の違い

山澤
「スタジオには海洋政策などが専門で、IWCの捕鯨交渉問題にも詳しい、東京大学教授の八木信行(やぎ・のぶゆき)さんをお迎えしています。
BBCのリポートでは、クジラを『海のやさしい巨人』という表現を使って、日本の捕鯨政策に非常に批判的に伝えていました。
反捕鯨国のメディアは、どうも感情的にこの問題を取り上げる節があるように思うのですが?」

東京大学教授 八木信行さん
「これは『クジラ』に関する認識の違いが、捕鯨に賛成する国と反対する国の国民の間で相当違うということが挙げられると思います。
まず、捕鯨に賛成する国の国民は、クジラは利用できる『資源』だと思っています。
ところが、反対する国は、『クジラを食べるなんかとんでもない』、保護の象徴の動物であると考えているんです。
イギリスなども、昔は捕鯨をしていたのですが、禁止をしてから50年以上たちますから、徐々にそういう認識になってきたのだと思います。

次に、『解釈の違い』というものがあると思うんです。
商業捕鯨の『一時停止』は1982年に決定されましたが、捕鯨に賛成する国は、これが資源が回復するまでの一時的なものだと考えているんです。
ところが捕鯨に反対する国は、そこから30年以上たちましたから、もう永久に禁止という理解になってしまっているということです。」

捕鯨国と反捕鯨国 IWC内で二極化

丹野
「こうした価値観の違いが、IWCでの捕鯨を巡る二極化の構造を生んでいるということなんですね。」

八木信行さん
「おっしゃるとおりです。
現在、IWCに加盟している国で、捕鯨を支持する国と反対する国、それぞれ分かれています。

支持する国は41か国、日本、ロシア、アイスランド、ノルウェーなど。
あとは、アジアやアフリカの国もこれに含まれています。
反対する国はそれにきっ抗しているのですが、アメリカ、イギリス、オーストラリア、ニュージーランド、フランスなどで、この反対国のほうが国際社会での影響力が大きいという状況があるんです。
そして、クジラの資源量ですが、IWCの科学委員会では、各国が調査をした結果を持ち寄って、科学者が議論をしています。
そこで大体、推定されたクジラの頭数がこちらです。

注目したいのは、下から2番目の『クロミンククジラ』。
南極海で50万頭以上いるという推定になっています。
一方で、その下の『シロナガスクジラ』は、1,000頭台しかいなくて、こちらは絶滅の危機にひんしていて、そうした種類は日本など他の国もとろうという考えはない状況なんです。」

山澤
「クジラによってもいろいろ、頭数が違うということですよね。」

八木信行さん
「ところが、そうしたデータがあまり各国の国民レベルには伝わっておらず、いろいろな議論を招いているのだと思います。」

IWC脱退 他国の例

丹野
「世界で反捕鯨の動きが強まる中、日本はIWCの脱退を表明しましたが、これまでにも脱退した例はあったのでしょうか?」

八木信行さん
「カナダは1982年、これは先ほど商業捕鯨の一旦停止が決まった年なのですが、その年に脱退をしています。
先住民捕鯨を北極圏でカナダはやっていますから、そうした懸念があったのかもしれません。
アイスランドも、1992年に脱退をしています。
しかしアイスランドは2006年に、IWCに再加盟をして捕鯨を行っています。
ただ、日本の今回の脱退は、日本が各国と経済関係を深く有するような今になって行っているということで、状況は過去とは少し違う可能性があるということを考えなければいけないと思います。」

IWC脱退の影響

山澤
「そうしますと、日本の脱退表明というのは影響力が大きいということですよね。
その影響を懸念してか、先週、IWCのビビッチ議長が加盟国に対して脱退しないよう訴える書簡を送るということがありました。
それだけ危機感を抱いているということだと思うのですが、今後の風向きは日本に対してこれまで以上に厳しくなっていくということなのでしょうか?」

八木信行さん
「日本もIWCにかなり貢献してきた国なんです。
昨年9月のIWC総会では、議長国は日本でしたし、その時にチャンスとみてIWCの改革案というのを提案しました。
ところがそれが決裂してしまったという状況があります。
こうしたいろいろな価値観がある中で、多様性を認めないという問題がIWCにはあるということで脱退をしたのだと思います。

しかし説明の仕方が、日本の商業捕鯨を再開したいからだということが全面に出てしまうと、これは自国の利益を目指したものとして、あまり国際的には受けがよくないのだと思います。
どちらかというと、生態系を保全するために法律論や科学論にのっとった議論をしなくてはいけないのに、それがなされていなかったというところを全面に押す必要があると思います。」

国際社会にどう対応?

山澤
「今後、日本は批判が高まっていく中で、どう対処していけばいいのでしょうか?」

八木信行さん
「いたずらに捕鯨を反対する国の反感を買ったり、挑発したりするようなことはよくないと思うんです。
日本の立場を理解してもらうように十分説明をする必要があると思います。
例えばノルウェー、アイスランドは捕鯨をしていますが、それほど目立ってやっていないというところがあって、そこが助かっているところなんです。
そして、日本としても脱退をしたらそれで終わりではないんです。
アイスランドのように再加盟の道もありますし、IWCに引き続き科学者などを派遣して、科学議論にも貢献していくということが重要だと思います。」

対立する捕鯨問題 解決の糸口は

山澤
「日本が脱退すると、今後、捕鯨の問題は、IWCの議論とは別のところで進んでいくところもあると思うのですが、捕鯨問題はどう解決していけばいいのか、その糸口はあるのでしょうか?」

八木信行さん
「難しいところが多いと思うんです。
捕鯨が禁止になってから30年以上たっていますから、そうすると、そこを短時間で覆すということは難しいと思うんです。
長期的に、国際社会で人口が増加する中で、食糧問題や生態系の保全をどうするのか、そういったところを絡めながら
冷静に議論をしていくことが重要だと思います。」

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