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2018年6月25日(月)

ヨーロッパで復活する徴兵制

今、ヨーロッパの国々で次々と徴兵制が復活しています。
NATO=北大西洋条約機構に加盟していないスウェーデンは、今年(2018年)1月、2010年に廃止した徴兵制を8年ぶりに再開。
18歳の若者4,000人に、4か月から11か月の兵役を義務づけ、初めて、女性も対象に含まれました。
さらに、フランスでも…。

フランス マクロン大統領
「徴兵制を導入します。」


マクロン大統領が、徴兵制を復活させる考えを明確にしています。
なぜ今、徴兵制が再び導入されているのか。
ヨーロッパで起きている変化を、専門家と共に読み解きます。

塩﨑
「特集・ワールドアイズ。
けさは、ヨーロッパで相次いで復活している徴兵制についてお伝えします。
まずは、ヨーロッパの『徴兵制』を巡るこの25年の動きについて、藤田さんからです。」

藤田
「こちらは、1993年のヨーロッパです。
赤が、徴兵制がある国。
緑が、徴兵制がない国です。
東西冷戦は終結していましたが、一部、イギリスなどを除き、まだ、ほとんどの国が徴兵制を実施していました。

そして、こちらは、その20年後、2013年のヨーロッパです。
大規模な兵力を維持する意義が薄れたことなどを受け、徴兵制は、多くの国で廃止、もしくは停止されました。
しかし、2014年、ウクライナで徴兵制が復活します。
この年、ロシアが、軍事力を背景にウクライナ南部のクリミア半島を一方的に併合。
ウクライナは、ロシアの脅威に対応するため、前年に廃止したばかりの徴兵制を再び導入したのです。
さらに、2015年には、ロシアに近いバルト3国のひとつリトアニアが、今年1月には、北欧のスウェーデンが8年ぶりに徴兵制を復活させました。
そして、フランスでは、マクロン大統領が、相次ぐテロの脅威に備え、国民の団結を強める目的で、徴兵制を復活させる考えを示しているほか、ドイツでも、右派政党を中心に議論が出てきています。」

欧米における“徴兵制”とは

塩﨑
「スタジオには、国際安全保障問題がご専門の、イギリス王立・防衛安全保障研究所アジア本部所長の秋元千明さんにお越しいただきました。
よろしくお願いいたします。
『徴兵制の復活』というと、一見、時代がかった制度が復活し、平和を脅かす動きのようにも聞こえますが?」

英国王立・防衛安全保障研究所 秋元千明さん
「徴兵制に対する欧米と日本の視点はかなり違うということを念頭に置く必要があります。
近代化が遅れた日本では、徴兵制というのが、富国強兵や軍国主義の道具として使われた過去がありますので、どうしても平和主義と対立する制度だと捉えられがちなんですね。
しかし欧米の視点に立ちますと、徴兵制は歴史的に常に民主主義を支える体制だったということがあります。
近代的な徴兵制度が確立したのは、18世紀後半のフランス革命以後でありまして、国家の主権者は国民の一人一人なんだから、国家を防衛する義務も国民の一人一人にあるという考えが生まれたわけですね。
フランスの革命政府は1798年に、『全ての国民は兵士であり、祖国防衛の義務を負う』ということを法律で制定しまして、20歳以上の男子に兵役の義務を課しております。
これが近代徴兵制の始まりでして、それ以来、欧米の民主主義国家はこの精神に基づいて徴兵制を取り入れて来ているわけです。
したがいまして、欧米諸国の間の徴兵制の復活を平和への流れに逆行するものであると捉えるのは誤りかと思います。」

冷戦終結後 徴兵制 廃止の背景

塩﨑
「しかし、第2次世界大戦後、冷戦の終結を経て、徴兵制を停止したり、廃止した国が多いですよね。
必要性が低下したということでしょうか?」

英国王立・防衛安全保障研究所 秋元千明さん
「東西冷戦下、国際情勢は敵対しつつも安定を維持してきました。
そのため、冷戦から冷戦後にかけてあまり大規模な兵力を維持する必要性が薄らいだということは確かにあります。
しかし、それ以上に経済的な側面が非常に強いんですね。
兵士を集めて、訓練、教育するには、ばく大な予算がかかりまして、しかも、徴兵で集められる兵士の国防に対する意識ってものは決して高くはない。
したがって軍隊の士気が下がりかねないという問題があります。
一方、軍事技術が急速に発展しまして、正確に目標を捉えて破壊できる、いわゆるハイテク兵器とか言いますけれども、効率の良い兵器が開発されたために、兵士の数は減っても、全体としての戦力は低下せずに済むという現実があるわけです。
つまり問題意識が高くて、良く訓練された少数精鋭の職業軍人で組織され、かつ高性能の兵器を装備する軍隊の方が、軍事的にも経済的にも効率がよいと判断されるようになったということがあります。
加えて、現代では、民間軍事会社のように、軍事力を提供する民間企業まで登場してきまして、軍隊のアウトソーシングというんでしょうか、外部委託といいますかね、そうしたものが可能になってきているんですね。
そうすると、ますます徴兵制を維持する必要性が薄れてきました。
だから、2010年頃までは徴兵制を停止したり、廃止したりする国が多かったわけです。」

欧州各国の徴兵制 なぜ復活?

塩﨑
「そうした流れがあったにも関わらず、近年、ヨーロッパで徴兵制復活の動きがある。
これはなぜなのでしょう?」

英国王立・防衛安全保障研究所 秋元千明さん
「各国に共通した背景と、それから個別の事情を別々に考えなくてはいけないと思います。
共通した背景には、ご指摘にあったようにロシアがヨーロッパ正面で、具体的な活動を活発化させていることは明らかですね。

2008年のジョージアへの侵攻とか、2014年にはウクライナのクリミアを併合しました。
最近では黒海やバルト海にNATOの航空機や艦艇が侵入すると、すぐにロシア空軍機が必ず威嚇飛行をしてくるという事実があります。
また、イギリスとフランスの間の英仏海峡では、ロシアの空軍機が編隊飛行して通過するということが、しばしば最近繰り返されるようになってきています。
そして、今年に入りましてからは、イギリスで、亡命したロシア人スパイが軍事用の化学兵器で殺害されそうになるという事件が起きました。
イギリス政府はロシア政府が関与していることは間違いないとしまして、ロシアの外交官を追放する措置をとって、ヨーロッパの国もこの報復措置にしたがって、同じ事をしているわけです。
こういったロシアが軍事的活動を活発化させているということへの警戒心が、徴兵制復活の背景にあることは間違いないですね。」

北欧 スウェーデン 徴兵制復活の狙い

塩﨑
「ロシアの脅威が共通の背景にあるとして、各国の個別な事情というのはどういったものがあるのでしょうか?」

英国王立・防衛安全保障研究所 秋元千明さん
「地図を見ていただきたいんですけれども、ヨーロッパでも東ヨーロッパとか北ヨーロッパ、こういった地域に徴兵制を維持していたり、復活させる国が多いということが分かります。
地理的にロシアに近いからですね。
スウェーデンが徴兵制を復活させて、ドイツでも論議が起きているのはこういった事情によるんですけれども。
ただよく見てみますと、例えばスウェーデンの例ですが、兵役の期間が最長でも1年に満たないんですね。
そんなに短い期間では、軍人としての力量を習得することはできませんから、その意味では、徴兵とは言っても、戦場への投入を想定したものではなくて、軍隊に一時的に入ってもらうことによって危機意識を高めてもらいたいという、教育効果といいますか、国民の意識高揚を狙ったものであると。
そういう側面があることは間違いないですね。
これはある意味、国民皆兵、みんなが兵士になるということですね。
スイスやオーストリアと同じような、民間防衛の考え方に根づいていると言っていいと思います。」

“徴兵制 復活を” 仏大統領の思惑

塩﨑
「一方で、フランスのマクロン大統領も徴兵制の復活を目指していますけど、マクロン大統領の思惑は、どういったところにあるのでしょうか?」

英国王立・防衛安全保障研究所 秋元千明さん
「フランスの場合は、ロシアから距離が離れているので、事情がまた異なります。
それはテロ対策なんですね。
記憶に新しい人も多いと思うんですけど、2015年1月と11月に、パリで2度に渡って、民間施設を狙ったイスラム過激派によるテロ事件が起きました。
それから、その翌年の7月には、革命記念日でしたけれど、南フランスのニースでテロ事件が起きまして、トラックが群集に突っ込むという事件ですね。
これらが起きまして、1年半の間に230人以上の人がテロの犠牲になっているんですね。
これに対応するために、当然、警備の強化が必要になってきますし、現在の志願兵や予備役だけでは不十分であるという実情が確かにあると思います。
ただ、現在検討されている徴兵を見てみますと、これもやはり、18歳から21歳まで、毎年60万人の男女を対象に、1か月間だけ軍隊生活をさせるというもので、やはり徴兵というよりも体験入隊に近いようなものなんですね。
ですので、マクロン大統領もこれは認めてまして、『徴兵制によって若者に連帯感を持たせ、社会貢献の意識を高めてもらいたい』と言ってまして、戦場で戦える兵士の育成ということよりも、むしろ、若者の意識高揚に主眼を置いているということが明らかですね。」

徴兵制 復活 各国民の反応は

塩﨑
「なるほど。
それぞれの国によって違いがあるわけですね。
各国の国内には徴兵制の復活に反対意見というのはないのでしょうか?」

英国王立・防衛安全保障研究所 秋元千明さん
「反対がないわけではないんですけど、政治的な立場を問わず、支持する人の方が圧倒的に多いです。
フランスの議会では、徴兵制の復活に関係する予算だけで、5年間で300億ユーロ、およそ4兆円ですけど、これが必要との試算まで発表しているんですが、それにも関わらず、やるべきであるという意見の方が圧倒的に多いんですね。
ある世論調査では、6割以上の国民が徴兵制の復活を支持しています。
スウェーデンでも、実に、7割以上の国民が支持しているということです。」

徴兵制復活に見る自我意識への危機感

塩﨑
「EUとしては、将来の統合を理想としてきましたが、ここにきて、それぞれ自分の国を守るという強い意識が表面に出てきている、そういう感じなんでしょうか?」

英国王立・防衛安全保障研究所 秋元千明さん
「実は、その意識がこの問題の背景にあるんじゃないかなという気がします。
ヨーロッパには、EU=ヨーロッパ連合が統合に向かう一方で、やっぱりヨーロッパ人の自我意識、ヨーロッパ人であるという自我意識は存在していない。
あるのは、フランス人であるとかベルギー人とか、イギリス人であるという国家への帰属意識、これしかないわけです。
それが、グローバル化の流れの中で、EUの統合が進んで、国境とか、独自の文化というものに対するものは、だんだんとあいまいになってくるということに対して、各国の国民はある種の危機感を感じている部分があるんですね。
そこで、1度自分の国を振り返ろうということで、徴兵制をして、自分の国を取り返したいという気持ちは、確かにあると思います。
これを、実は、ヨーロッパでは『アイデンティー・クライシス』、自我意識の崩壊とか、危機という言葉を使いますが、例えばイギリスがEU離脱を決めました、また、アメリカでトランプ大統領が登場したと、これも、グローバル化への反動によって生まれた、このアイデンティーのクライシス、自我意識の崩壊によって起きたものではないかと言われています。
アメリカの大統領は、自国の利益を優先する、内向きな姿勢を取り続けていまして、最近では、よく『NATOは古い』と批判して、ヨーロッパの防衛がアメリカの力に頼りすぎていることを繰り返し批判して、NATO各国は『もっと防衛の努力をしろ』ということを言うわけです。
そうすると、各国とも、アメリカはヨーロッパを守る気はもうないのではないかという風に、各国は疑い出しているんですね。
そうなりますと、ヨーロッパはヨーロッパだけで守らなくてはならないと、そういう気持ちになってくるんで、その意味では、ヨーロッパでの徴兵制の復活というのは、世界の力の重心とバランスが次第に変化し始めているということの表れのようにも思います。」

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