BS1 ワールドウオッチング - WORLD WATCHING -

2017年11月27日(月)

米・オピオイド鎮痛剤乱用の闇

去年(2016年)の4月、アメリカの人気歌手・プリンスさんが急死。
検視当局は鎮痛剤の過剰摂取が死因と発表。
今年(2017年)5月には、プロゴルファーのタイガー・ウッズ選手が薬物を使用した状態で車を運転、警察に逮捕されました。
二人に共通するのが、「オピオイド鎮痛剤」。
アメリカで今、過剰摂取による死亡事故が増加しています。
これに対し、トランプ大統領は…。

アメリカ トランプ大統領
「子どもたちと国のために全力を尽くす責任がある。
これは国の恥であり、人類の悲劇だ。」

先月(10月)末、公衆衛生上の緊急事態だとして、対策強化を訴えました。
医療用麻薬の乱用に、アメリカ社会はどう立ち向かうのか?
その行方を探ります。

塩﨑
「特集・ワールドEYES(アイズ)。
けさは、アメリカ社会を揺るがす『オピオイド鎮痛剤』についてです。
この鎮痛剤、アメリカでは医師が出す処方箋がないと入手出来ませんが、本来の使い方を守らない利用者が薬物依存となっていて、治療費などの経済コストは、総額で5,040億ドル、日本円にしておよそ56兆円にも上っているとされています。」

藤田
「また、オピオイド鎮痛剤の過剰摂取による死者数は年々増加。
2015年には、少なくとも1万6,000人を超えており、トランプ大統領が『国の恥だ』と表現したように、アメリカの深刻な社会問題となっています。」

塩﨑
「まずは、南部のウエストバージニア州の現状について、アメリカPBSのリポートをご覧ください。」

オピオイド鎮痛剤 乱用の実態

「バーガーキングの第3ステーション。」

「ワシントン通りに薬物過剰摂取者。」

「女性が倒れています。」

ウェストバージニア州ハンティントンです。
朝の10時半前から、薬物過剰摂取の通報がありました。
ファストフード店の外で女性が倒れ顔色を失っています。
救急隊が解毒剤を投与。
数分後、うたたねから目を覚ましたかのように女性は蘇生することができました。
使っていた注射器は回収され、女性は救急車に乗せられています。
こうした光景は、オハイオ川の土手でよく見られます。
ここは、オピオイド問題が最も深刻な町です。

ハンティントン消防署 主任 ジャン・レイダー氏
「通報を受けて、あの家には、もう20回も出動しています。」

消防署のレイダー主任です。
ここでは、薬物過剰摂取が大きな問題で、日々、これと戦っているといいます。

ハンティントン消防署 主任 ジャン・レイダー氏
「失敗を恐れず、救うためならどんなことも試します。」

ハンティントンがあるキャベル郡。
人口10万人のうち、およそ1万人がオピオイド鎮痛剤や違法薬物に依存しています。
当局の発表によると、今年(2017年)はこれまでに100人以上が死亡。
年内に2,000人が過剰摂取と診断される見込みです。

ハンティントン市長 スティーブ・ウィリアムズ氏
「依存問題の深刻さは、人々の理解を超えています。
私もこれほどあらゆるものを破壊するものだとは知りませんでした。
この問題は町の全ての人々に影響を与えています。」

この町の状況には、ウェストバージニア州特有の背景がありました。
町は炭鉱業や製造業などの肉体労働に支えられており、労働者は怪我の痛みや慢性痛に悩まされてきました。
そこに、オピオイド鎮痛剤の新しいタイプの錠剤が製造され、薬局が大量に販売したのです。
地元紙のエイル記者は、2007年から12年までの製薬会社の広告規模が拡大していることを暴露しました。

チャールストン・ガゼットメール記者 エリック・エイル氏
「6年間で、7億8,000万錠のオピオイド鎮痛剤がウェストバージニアの市場に出回りました。
人口が180万人の小さな州ですから、1人あたりおよそ430錠分にもなります。」

オピオイド鎮痛剤のまん延を食い止めるため、州当局は対策を講じたものの、多くの利用者は、より強い薬物を使うようになり、過剰摂取による死者が急増しました。
消防署には過剰摂取の通報が次々と寄せられ、同じ人が何度も通報されています。

ハンティントン消防署 主任 ジャン・レイダー氏
「消防士になって10年くらいですが、本当に多くの死体を見てきました。」

レイダー主任の仲間は2015年、3,500件の通報に対応しました。
去年は4,500件、今年は5,500件以上になりそうです。
消防車の出動の4回に1回は、薬物の過剰摂取への対応です。

「心が痛みます。」

ハンティントンは今、悲惨な出来事が起きる場所になりました。
去年は1日で26人もの過剰摂取者が報告されています。

ハンティントン警察署 主任 ジョセフ・チッカレッリ氏
「ある家では、1箇所に6人も倒れていました。」

ハンティントン市長 スティーブ・ウィリアムズ氏
「私たちは『この薬物の問題に果敢に取り組み、解決策を全米に示すんだ』と市民に訴えますが、その間にも、救急車は休む暇もなく、また別の患者の元へと向かうのです。」

乱用が問題視 オピオイド鎮痛剤とは

塩﨑
「ここからは、アメリカのオピオイド鎮痛剤の乱用問題に詳しい、獨協医科大学の山口重樹(やまぐち・しげき)教授にお話を伺います。
今ご覧頂いたPBSのリポートでは、大変悲惨な状況が報告されていましたが、このウエストバージニア州の現状は、特殊な例なのでしょうか?」

獨協医科大学 教授 山口重樹さん
「いえ、特殊ではありません。
この地図で示されている色の濃い部分ですが、この部分が今、オピオイド鎮痛剤が深刻な問題に陥っている州です。
フロリダに始まって、南部の州を中心に、全米に広がりを見せています。」

藤田
「そもそも、このオピオイド鎮痛剤というのは、どのような薬なのでしょうか?」

山口重樹さん
「神経系、痛みを伝える神経、あるいは痛みを抑える神経に作用しまして、強力な鎮痛作用を発揮します。
がんの痛みや手術の際の痛みなど、強い痛みを抑えるために使用されてきています。
神経系に作用しますので、気分の高揚といった効果が表れることもあります。
そのために、オピオイド鎮痛薬は医療にとっては必須な薬ですが、取り扱いも気を付けなければいけないということになります。
その製造方法になりますが、天然のケシから生成するものもあれば、化学合成によって作られるものもあります。
代表例が『モルヒネ』ということになります。
入手方法に関しては、処方箋が必要となります。
取り扱いを間違いますと、呼吸が障害されたりして死に陥る可能性もあります。
そのために厳密に取り扱わなければいけない薬となります。」

オピオイド鎮痛剤 日本での扱いは

塩﨑
「厳重な取り扱いが求められているということですが、日本ではどうなっているんでしょうか?」

山口重樹さん
「日本においては、多くのオピオイド鎮痛剤が『医療用麻薬』に指定されています。
そのため、処方にあたっては、医師は特別な免許が必要となります。
また、処方箋も『麻薬処方箋』というものが必要になります。
それだけではなくて、オピオイド鎮痛剤の取り扱いにあたっては、医師のみならず、薬剤師、製薬会社も特別な免許が必要となります。
このような厳密な管理が日本では行われていますので、アメリカのような悲惨な状況は起きていません。」

オピオイド鎮痛剤 乱用の実態

塩﨑
「一方、アメリカでは、なぜここまで薬が浸透してしまったのでしょうか?」

山口重樹さん
「さまざまな要因が考えられます。
アメリカ社会のシステム、主に3つのポイントがあげられると思います。

1つ目は、医師が他の鎮痛剤と同様に、安易に処方してきた結果だと思います。
医療者がオピオイド鎮痛剤の危険性を認識していなかったということがあげられます。
また、製薬会社の過度の広告も1つの要因としてあげられています。
ちょうど、オピオイド鎮痛剤が社会に氾濫してきた時期に、多くの製薬会社がさまざまなオピオイド鎮痛剤を発売しています。
過度の競争もあったと聞いております。
現在、一部の州がオピオイド鎮痛剤の危険性を十分に警告しなかったということで、製薬会社に訴えを起こしています。
3つ目としては、オピオイド鎮痛剤だけではなくて、薬を安易に服用するといった米国の国民性があげられると思います。
オピオイド鎮痛剤に関しても、家族の間や友人の間で安易にあげたりもらったりするような風潮が見受けられます。
これらの3つのポイントが重なって、現在の状況に陥っているのではないかと考えられます。」

塩﨑
「アメリカ政府は、この状況になるまで、なぜ放置してきたのでしょうか?」

山口重樹さん
「放置してきたというわけではありません。
トランプ政権誕生の以前から、この問題を深刻にとらえ、対応してきたはずです。
しかし、有効な対策は見つかりませんでした。
非常に根強い、根深い問題なんですね。
社会に氾濫してしまったオピオイド鎮痛剤を規制するというのは、容易なものではないかもしれません。」

オピオイド鎮痛剤乱用 どうやって防ぐ?

塩﨑
「ではアメリカ政府がこの状況を食い止めるには、どうすればいいのでしょうか?」

山口重樹さん
「いくつかのポイントがあげられます。
まずは、新たな依存症を発生させないということです。
この点については、3つのポイントが考えられます。

1つ目は、オピオイド鎮痛剤に関する意識改革を社会全体で考え直さなければいけないということです。
有効な薬ではありますが、危険な薬でもあるということを、医療者のみならず社会全体で啓発していかなければならないと思います。
『啓発』『教育』というものが重要になるはずです。
2つ目は、不適切な使用方法、過剰な処方を防がなければいけません。
そのためには、処方にある程度の制限をかける必要があると思います。
すべての痛みにオピオイド製剤を使うというのではなくて、適応を考える、あるいは投与期間を考える、投与量を考える、こういった考えの見直し、規制が必要かもしれません。
3つ目のポイントとしては、やはりオピオイド製剤の製造から流通といった経路に関して、厳密な監視が必要になるかもしれません。
一部の専門家は、米国は日本のような医療用麻薬、オピオイド鎮痛剤の管理体制を見習わなければいけないと述べています。
もう1つは、重要なことですが、現在、依存に悩む患者さんへの対応だと思います。
1人で対応することは非常に難しいと思います。
社会全体で、対応していかなければいけないと思います。
そのためには、治療法の確立、あるいは、依存症からの離脱のプログラムの構築、そして社会への復帰、こうしたものを社会全体で考えていく必要があるのではないでしょうか。」

藤田
「このようなアメリカでのオピオイド鎮痛剤の乱用、日本として教訓とすべきことはあるのでしょうか?」

山口重樹さん
「アメリカの現状を過度におびえる必要はないと思います。
過度におびえることによって、必要な患者にオピオイド鎮痛剤が届かなくなる可能性があります。
医師がオピオイド鎮痛剤の処方を避ける、あるいは患者が内服をちゅうちょする、こういったことがあってはいけないと思います。
適切・厳密に管理されれば、オピオイド鎮痛剤は安全かつ有効な薬であるということです。
多くの患者さんの痛みがオピオイド鎮痛剤によって救われるはずだと思っています。」

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