BS1 ワールドウオッチング - WORLD WATCHING -

2017年6月26日(月)

岐路に立つドゥテルテ大統領

去年(2016年)6月、大統領に就任したドゥテルテ氏。
過激な言動から「フィリピンのトランプ」との異名も。

フィリピン ドゥテルテ大統領
「殺害したのは3,000人だが、麻薬撲滅のためなら、さらに殺すだろう。」

違法薬物の撲滅を最優先課題に掲げ、取り締まりの過程で警察による容疑者などの殺害も事実上容認。
国際社会からの非難も意に介しません。
外交では、これまでの政策を大転換。
中国との経済関係を優先し、南シナ海問題は事実上棚上げに。
長年、同盟関係にあるアメリカとの軍事的連携は縮小。
そうした中でも、日本とは武装勢力との和平支援など良好な関係を保っています。
しかし今、そんなドゥテルテ大統領が窮地に立たされています。
地元、ミンダナオ島で先月(5月)発生した、過激派組織IS=イスラミックステートに忠誠を誓う武装勢力との戦闘が拡大しているのです。

就任から1年を迎えるドゥテルテ大統領。
地域の安全保障への影響や今後の課題を展望します。

ドゥテルテ大統領 高い支持率の背景

塩﨑
「フィリピンのドゥテルテ大統領が今月(6月)30日に就任1年を迎えます。
その言動から物議を醸すことも多かったドゥテルテ大統領。
今日(26日)は、専門家とともに政権の現状と課題を見ていきます。
スタジオにはフィリピンの政治や社会に詳しいアジア経済研究所の川中豪さんをお招きしています。
強硬な麻薬対策で国際社会から懸念の声があがっていたドゥテルテ大統領ですが、国内では高い支持率を維持していますよね。
これはなぜなんでしょうか?」

アジア経済研究所 川中豪さん
「政権側からすれば、彼らが進めている麻薬対策に国民の支持があるということになるんだと思います。
実際のところ、犯罪率も下がっていると言われていますし、治安も良くなっているんだと思います。
ただ、フィリピンの場合は政権発足から1年間は今までの政権もかなり高い支持率を示していたので、むしろこれから何をしてくれるのか『期待』というところでの高い支持率ではないかと思います。」

塩﨑
「国際社会が驚いたのは、南シナ海問題における大統領の姿勢ですよね。」

川中豪さん
「前政権のアキノ政権がかなり強い形で中国と対じをして、国際的な司法の場にこの問題を持ち込んでいました。
これがドゥテルテ政権発足後、ほぼ180度転換でこの問題を棚上げにするということになっています。
背景には、フィリピンの場合、インフラ整備が非常に遅れていますのでこれに対して中国から何らかの支援を受けたいいう思惑があったと思われます。」

対米の厳しい姿勢 今後は転換も

塩﨑
「一方で同盟国・アメリカとの関係ですが、就任当初に距離を取る発言をするなど、今までとは違う方針を打ち出していますが、ここはどういう背景があるのでしょうか?」

川中豪さん
「フィリピンとアメリカの関係はかなり長い歴史があります。
植民地支配をアメリカに受けていたという歴史があって、特に左翼系の人たちはフィリピンのいろいろな問題はアメリカ植民地時代に起因しているんだという議論をする人たちがいます。
それと同じロジックで、ドゥテルテ大統領はアメリカに対してフィリピンと対等な国として認めてほしいと主張していました。
ただ、そういったロジックというかイデオロギー的なところもありますが、具体的にはドゥテルテ政権の政策の中心にあった麻薬撲滅に対して、アメリカのオバマ前政権から『これは人権問題だ』と強い批判がありました。
これに対しての反発だったと思います。
ドゥテルテ政権にとってみれば、彼らの政策のコアになるところにケチをつけられたことに対する反発だったのではないでしょうか。」

塩﨑
「ただアメリカへの信頼度は高いですよね。」

川中豪さん
「そうですね。
世論調査で見ますと、最も信頼する国としてアメリカが挙がっています。
アメリカ・日本と信頼度が高いですが、一方でドゥテルテ政権がアプローチしている中国に対しては、国民の間では不信感のほうが高いという結果が出ています。」

フィリピン経済 堅調の要因

塩﨑
「経済面を見てみると、GDPは昨年も6.8%と堅調ですが、これもドゥテルテ政権の成果なのでしょうか?」

川中豪さん
「経済成長率・GDPが上がってきたのはむしろアキノ前政権期だと考えたほうがよいと思います。
だいたい2012年ごろですけれども。
アキノ政権の前のアロヨ政権の時に、政治的に混乱したという形で経済的にはよくなかったのですが、これが解消されてアキノ政権期に安定してきたのがGDPの成長につながったのだと思います。
ドゥテルテ政権発足から1年ですけれども、これまでこの政権が優先的な政策として掲げてきている税制改革や労働法制の改革であるとか、こういったものがまだ立法化されていませんし、今の政権が使っている予算自体は前政権が準備したものでドゥテルテ政権の政策が今の経済成長に直接きいている形ではないと思います。」

南部ミンダナオ島 戦闘の図式

塩﨑
「ドゥテルテ大統領の高い支持率の前提となっている治安対策。
そこに今、課題となっているのがミンダナオ島での戦闘です。
まずは、これまでの状況を振り返ります。」

藤田
「戦闘が続いているのは、フィリピン南部のミンダナオ島にある、人口およそ20万のマラウィ。
先月23日に政府軍と過激派組織ISを支持する『マウテグループ』との間で戦闘が起きました。
ドゥテルテ大統領はミンダナオ島や周辺の島々を対象に戒厳令を出して、軍の統制下に置き、鎮圧を目指しています。
しかし、1か月以上たった現在も戦闘は収まらず、軍によりますと、これまでに市民26人を含む360人が死亡しています。」

塩﨑
「ミンダナオ島ではこれまでも武装勢力との戦闘が繰り返されてきましたけれども、その経緯の中で今回の戦闘をどう捉えるべきなのでしょうか?」

川中豪さん
「実際、何が起こっているのかは、なかなか把握するのは難しいかと思います。
ただ、1970年代からこの地域ではイスラム勢力と政府との間での対立、戦闘が続いてきましたけれども、今までの対立とはちょっと様相を異にしているところがあるかと思います。

1970年代からあった戦闘は、基本的にイスラム教徒の人たちの生活、土地の所有権や天然資源の利用、あるいは経済環境の問題というものを背景にして、比較的組織だった規模の大きいイスラム勢力とフィリピン政府との対立だったと思います。
逆に言うと、何を要求しているのかというのが分かりやすくて、基本的には社会経済的なところでの問題というところで、それが続いていって、その先には『自治』ということがあったんですけども、和平交渉をすることができて、かつ今まで2つのグループと和平協定を結ぶというところまでいっています。
ただ今回の場合は、こうした今までの勢力とは規模として比べると非常に小さいグループとの戦いであるということと、もう1つ、最も違うのが、国際的なテロネットワークとの関係が非常に強いというところだと思います。
ですから、これまでの戦闘がむしろ地域の住民の生活の問題から出てきている戦闘・対立ということだったとすれば、今回の場合はむしろ国際的なネットワークとの関係、このロジックが全面に出てきているというふうに考えていいんじゃないでしょうか。」

塩﨑
「主張に違いはあるんでしょうか?」

川中豪さん
「具体的な主張、今戦闘を行っているマウテグループが、例えば生活等について主張しているとは聞いていませんので、むしろジハードとか、イデオロギー的なところが全面に出ていると思います。
以前のグループは、より生活というところ、土地の問題が非常に大きかったわけですけれども、こういったところへの関心を強く示していました。」

塩﨑
「今回戦闘を起こしているマウテグループというのは、IS・イスラミックステートを支持しているとされているんですが、ISにとってミンダナオ島を新しい拠点にする利点というのはどこにあるんでしょうか?」

川中豪さん
「ISの側がどう考えているのかは私は知り得ないんですが、客観的な情勢としてはミンダナオ島に国際的なテロネットワークが入る素地というのはあるかなと思います。
1つには、この地域は長い間、紛争地域でありましたので、戦闘経験のある人がいたりとか、あるいは武器がコントロールされていないというところもありますし。
さらに言えば、ミンダナオ島での政府の統治、コントロールというのはかなり弱いということが言えるかと思います。
顕著にあらわれるのは国境の管理ということなんです。
ミンダナオ島は島ですから海に囲まれているわけですけど、これまで海を渡って隣国から入ってくる、行き来をする人たちはたくさんいました。
それはテロリストだけではないんですけど。
そういう意味では簡単に入って来ることができるということ。
それから、さらに言えばこの地域独特のエスニック集団がありまして、そこの血縁というネットワークを利用することができる、そこに入ってしまえば隠れて活動することができる、こういった利点があるんじゃないかと思います。」

親日国フィリピン 日本の役割は

塩﨑
「先ほど説明がありましたが、ミンダナオ島の和平、ここは日本も和平交渉の支援をしてきましたが、今回の戦闘の部分で言うと日本はどのような支援ができるのでしょうか?」

川中豪さん
「戦闘自体に介入することは非常に難しいと思います。
これについては日本が何か行うということはなかなか難しいんじゃないかと思います。
長期的な視点で見ると、この戦闘がある程度収束して支援をする機会が開けた場合には、やはり強いコミットメントを持って入って行くということは重要な意味を持っているのではないかと思います。

やはり紛争の基盤には社会経済的な問題というのがあります。
これに対して日本では、例えばJICAなどが強い支援をしていましたので、そういった支援をすることで社会経済的な問題を解決し、テロの芽を摘むということはできるのではないでしょうか。」

ドゥテルテ大統領 今後の政権運営

塩﨑
「フィリピンの大統領の任期は6年、ドゥテルテ大統領の任期はあと5年残っているわけですが、今後の政権運営をどうご覧になりますか?」

川中豪さん
「今、高い支持率を受けていますけど、これをどれだけ生かすことができるか。
6年の任期がありますが、フィリピンの場合は1期しか務められませんので、6年後には次の大統領に代わると。
だいたい前半の3年で大統領の力、影響力というのはなくなってきてしまいますので、この3年間の間に優先的な法案とされているものをどれだけ通せるのか。
さらに治安対策をどれだけ進められるのか、これは非常に重要じゃないかなと思います。」

塩﨑
「今のところ何か成果はあるんでしょうか?」

川中豪さん
「先ほども申し上げたように、犯罪率が下がっているというところはありますけど、それ以外についてはほとんど見るべきものがまだないと。
むしろ麻薬対策に非常に力を注いだが故に、例えばこのような国際的なテロネットワークに対する対策といったものも遅れてきたと指摘されています。
ですからこれまで見逃されてきたもの、ここに対して改めてどれだけ大統領自身がコミットしていくことができるのか、これは注目されるところじゃないかなという気がします。」

ページの先頭へ