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2017年6月12日(月)

IS戦闘員の“帰還問題”

シリアやイラクで勢力を誇ってきた過激派組織IS=イスラミックステート。
今、イラクやアメリカなどが主導する有志連合の攻撃を受け、徐々にその支配地域を失っています。
これにより、外国人戦闘員の中にはISを離れて母国に帰還する動きがあるものの、その母国では、受け入れに強く反発するデモが起きています。
一方、帰国者らによるとみられるテロ事件が各国で頻発、地元との緊張を高めています。
過激な思想に加え、爆弾の製造方法や戦闘能力を身につけた同胞を、各国はどのように迎え入れればよいのか?
特集・ワールドEYES(アイズ)、けさはIS戦闘員らの母国帰還問題を考えます。

塩﨑
「シリアやイラクなどの過激派組織ISの支配地域には、ISの思想に共鳴した外国人が数多く渡ったとされており、その数は推計で3万人に上るとも言われています。」

藤田
「アメリカの研究機関によりますと、人数の多い国上位10か国がこちらの国々で、最も多いのが、チュニジアのおよそ6,000人です。
サウジアラビアの2,500人、ロシア2,400人、トルコ2,100人などが続きます。」

塩﨑
「IS支配地域に最も多くの渡航者を出したチュニジアは今、帰国した戦闘員らをどう受け入れるのかが大きな社会問題となっているようです。
その現状について、アメリカPBSのリポートをご覧ください。」

IS戦闘員の帰国に揺れるチュニジア

今年(2017年)初め、にチュニジアで抗議デモが起きたことは、民主主義が根づいていることを示すと同時に、政治的な危機が長引いていることを表しています。
抗議の矛先は、外国でISなどの戦闘に加わったあと、国に戻ろうとするチュニジア人に向けられています。

「もはや、チュニジア人じゃない。
怪物だわ。」

デモの計画に協力した彼女は、裕福な地区に住む神経科医。
帰還した人々の影響を心配しています。

2011年、チュニジアで独裁者を退陣させたデモが、アラブの春として、他国にも広がりました。
その後の政権には、世俗派、イスラム主義派、両派が含まれました。
チュニジアはアラブ地域の成功例と言われますが、経済の停滞や数多くいるテロリストなど、深刻な問題があります。
当局は、帰国したチュニジア人・戦闘員800人が収監中で、さらに数百人がひそかに戻ってきているとしています。

帰還者 支援団体 ムハンマド・イクバルさん
「チュニジア人は皆、シリアに渡った人、または行こうとしている人を誰かしら知っていますよ。」

イクバルさんは、チュニジアを出国した人たちを追跡し、彼らの帰国を助ける組織を設立しました。

「幼いですね。」

帰還者 支援団体 ムハンマド・イクバルさん
「まだ16歳くらいですよ。」

「16歳でリビアへ?」

帰還者 支援団体 ムハンマド・イクバルさん
「ええ、リビアとシリアへ行きました。」

イクバルさんは、多くの貧しいチュニジア人が、強硬なイスラム主義者の巧みなリクルート活動に取り込まれていくのを見てきました。

帰還者 支援団体 ムハンマド・イクバルさん
「彼らにはノウハウがあり、組織的に若者を取り込むんです。」

アラブの春は、イスラム主義者などさまざまな団体を復活させました。
当時の金曜礼拝で、後に大臣となる宗教指導者の様子が映っています。

宗教指導者
「シリアで戦う我々の同胞を助けることは、すべてのイスラム教徒の義務です。」

イクバルさんの弟を含め、多くの人が、その呼びかけに応じました。
弟の名前と顔は明かせません。

「イスラム教徒同志の殺し合いはもうたくさんだと、世界に訴えようと思った。
また、シリアでは仕事がもらえ、家がもらえて、結婚もできると言われたんだ。」

弟は、車椅子にもかかわらず、2013年に何とかシリア国境にたどり着きました。
現在は定期的に警察の訪問を受け、監視されています。
イクバルさんは、狂信的なテロリストとは線引きをして、帰国者をできるだけ多く社会復帰させるよう努力しています。

帰還者 支援団体 ムハンマド・イクバルさん
「チュニジアの法律ではシリアの戦闘員の帰国は防げません。
彼らは祖国で逮捕して更生させるべきです。
戦闘地域で野放しになっているより、ずっとましです。
私たちは彼らに社会復帰して普通に生活してもらいたいんです。」

政府に何か計画はあるのでしょうか?
元軍人で、現在シンクタンクを運営するナスル氏は、政府は帰国者を収監して監視すると言います。

元チュニジア軍大佐 ムフタル・ベン・ナスル氏
「ISの戦闘員として闘った者が帰国する際、難しいのは彼らを特定することです。
正式な証明書を持っているわけじゃありませんからね。」

帰国するIS戦闘員 刑務所収監に課題も

塩﨑
「ここからは、中東情勢や過激派組織に詳しい、日本エネルギー経済研究所・研究理事の保坂修司(ほさか・しゅうじ)さんとともにお伝えします。
リポートでは、すでに800人が収監され、さらに数百人がひそかに戻ってきていると言うことでしたけれども、政府の計画では帰国者を収監して監視するとしていましたが、対応をどうご覧になりますか?」

日本エネルギー経済研究所 保坂修司さん
「危険な思想と、それから闘うための技術を持った人たちが戻ってきているわけですから、こういった極めて強硬な手段というのは時には必要なんだと思います。
ただ、これにはやはりいろんな弊害がありまして、1つはやはり、せっかくチュニジアは革命によって自由を得たわけですので、自由、あるいは民主主義と治安とのバランスの問題ですね。
これは1つの大きな問題になると思います。
それからもう1つは刑務所に入れるという問題点なんですけれども、確かにそれは時には重要なんですが、しかし最近の研究だと、刑務所がそもそも過激派を増殖させる温床になっているのではないかというふうに言われておりまして、やはり注意が必要なんだと思います。
それはある意味、逆説的ではあるんですけれども、刑務所の中でネットワークを作ったりとか、あるいは犯罪のネットワークが出所後にそのまま生かされたりとかですね。
実際、パリで起きた同時多発テロ、あるいはシャルリエブド事件とか、こういった事件において刑務所におけるネットワークが利用された実例があるわけです。」

塩﨑
「リポートでは、アラブの春以降に復活したイスラム原理主義団体の宗教指導者がIS支持を訴え、多くの若者がこれに応じて、シリアに渡ったとしていました。
本来の穏健な宗教指導者は、どのような役割を果たすべきなのでしょうか?」

保坂修司さん
「チュニジアは、もともとは世俗的な国際国家なわけで、政治的なイスラム指導者の多くは皆、逮捕されてたわけです。
しかし彼らが革命後、外に出ることによって、残念ながらどちらかというとポピュリスト的、あるいは無責任な発言を繰り返していたわけですね。
それに若者たちが呼応してしまったという現状があったわけです。
したがいまして、彼らの発言を正当派、あるいは穏健派のイスラムの方から、きちんとした形で反ばくするような流れが必要なんだと思います。」

塩﨑
「それでうまくいくのでしょうか?」

保坂修司さん
「ただ問題なのは、やはりISに加わっている若者たちの多くは、残念ながら宗教的な知識に乏しいケースがありまして、したがって彼らの過激思想を改めさせるためのリハビリのプログラムというものが重要になってくるんだと思います。
いわゆる『脱洗脳』ですね。
それにプラスして、プログラムを終えたあとの社会復帰、そのためのプログラムも重要になってくると思います。」

“過激派の帰国” 国際的な共通問題

塩﨑
「ただ、過激派組織によるテロが世界に広がる中で、中東だけの問題ではなくなっていますよね。
国際社会は、どういう対応をすべきでしょうか?」

保坂修司さん
「2015年にシンガポールでかなり大規模なシンポジウムがありまして、私自身も参加してきたんですけども。
2015年の時点でISの軍事的な脅威というものに注目が集まっていて、社会復帰、あるいはリハビリということに多くの国が注目をし始めていたわけですね。

これはシンガポールのモスクなんですが、こういったところを拠点にして、情報収集だったり家族のケアであったり、あるいは脱洗脳とか、こういったプログラムが行われていて、すでにもう帰還者、シリアあるいはイラクから帰国してきた人たちのケアを開始していたという点は重要なんだと思います。
もちろん軍事的なアプローチ、あるいは警察によるアプローチ、われわれが『ハードアプローチ』というふうに言っていますけれども、こういったもの以外に、ソフトなアプローチ。
例えば宗教学者であるとか、あるいはソーシャルワーカー、心理学者、こういった人たちが協力して作り上げるソフトアプローチの重要性というものが、やっぱり近年強調されているんだと思います。
これにはやはり国際社会の協力と、あるいは連携というものが重要になってくるんじゃないでしょうか。」

塩﨑
「日本はそれに参加しているんですか?」

保坂修司さん
「日本は残念ながら、まだそこまではいっていないという状況だと思います。
ようやく関心が向いてきたという段階ではないでしょうか。」

塩﨑
「最後に、帰国した戦闘員へのケアと同時に、過激派によるテロ撲滅に向けての課題というのは、どう考えていますか?」

保坂修司さん
「これはものすごく難しい問題なんですけれども。
しばしば日本のメディアでもそうなんですが、貧困とか失業が過激派を生む原因だというふうにいわれてますけれども、実際には貧困からテロリストになるケースというのはあんまり多くないんですよね。
ただ大半のテロリスト、あるいはテロリスト予備軍といわれる人たちがなんらかの不満、あるいは閉塞感というんですか、それを持っていることは間違いありませんので。
ISなどの過激派組織は、まさにそこにつけ込んでいるわけです。
したがってそのISやなんかが提示する、大義とか、そういったものが実際には全く無意味である、役に立たないものであるということを、この不満を持った若者たちに知らしめる必要があるわけですね。
それに変わる、より重要な大義、あるいは生きがいとか、そういったものを各国政府が彼らに提供する必要があるんだと思います。」

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