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「冷戦」でも気になる中国経済の回復

「新冷戦」と評されることが定着してきた感のある、アメリカと中国の厳しい対立。ただ、アメリカとソ連との「元祖」冷戦と比べると、決定的な違いがある。
冷戦時、日本を含めた西側陣営は、ソ連を中心とした東側陣営の国々と経済的にさして結びつきはなく、また、積極的にビジネスのルートを開拓しなくても西側は困らなかった。世界は、政治的にも、経済的にも、東西に深く分断されていた。
それが、「新冷戦」では、貿易不均衡、知的財産権、領土・領海、人権など、米中の摩擦は多岐にわたるわけだが、特に経済面では、双方は密接に結びついた状態が出来上がってから関係が悪化した。言うまでもなく、それはアメリカだけの話ではなく日本をはじめ世界の多くの国が中国で商品を製造し、あるいは、巨大な中国市場でビジネスを広げた。
かつての冷戦のように、経済も切り離す「デカップリング」という考え方がトランプ政権からは示されているが、本当にそうなるにしても、だいぶ時間がかかる。現状では、中国が新型コロナウイルスの打撃から早く立ち直って経済が回復すれば、それはアメリカにとっても日本にとっても朗報となる。故に、中国が発表する四半期ごとのGDP(国内総生産)は、世界的なニュースだ。
(国際報道2020 池畑修平キャスター)

厳しい“V字回復” 米中貿易戦争の打撃も

中国GDP

2020年7月16日に発表された中国の4月から6月までのGDPは、前年同期比で+3.2%となった。1月から3月までの前期の伸び率が、データが公表されている1992年以降では初めてのマイナス(-6.8%)を記録したので、今回は2期ぶりのプラス。ただ、新型コロナウイルスが拡大する前の水準には及んでいない。
中国国家統計局の劉愛華報道官も「今は安定した回復基調にあり、発展の力強さが鮮明になった」と説明しつつも、「一部の指標はまだマイナス水準にあり、感染拡大による損失を補いきれていない」と認めた。

東京財団政策研究所 柯隆主席研究員

東京財団政策研究所 柯隆主席研究員

東京財団政策研究所の柯隆(か・りゅう)主席研究員は、私とのインタビューで、今回の+3.2%という結果を冷静に評価した。

柯隆さん
「私は想定内の数字だと思っています。この第2四半期に入ってから、中国政府が労働者の職場復帰などを懸命にサポートしてきた結果、プラス成長に転じるだろうなというふうに見ていました」

池畑
「今回、GDPが再びプラスに転じたことで、中国経済はこれから順調に回復していきそうですか?」

柯隆さん
「問題はそこです。第2四半期はリバウンドしてきましたので、このまま、いわゆるV字型回復になるかどうかがポイントになってきます。
結論から言うと、V字型回復は実現しにくいのです。理由を申し上げますと、今の中国の経済や中国社会を見ると、実は雇用が非常に難しくなってきています。5月の全国人民代表大会の政府活動報告の中で、李克強首相は39回も「雇用の安定維持」に言及し、雇用改善の必要性を強調しました。しかし、雇用はそれほど改善されていません。
いくつか理由があり、まず、アメリカへの輸出が米中貿易戦争によって阻まれています。アメリカ以外への輸出も、とりわけヨーロッパへ、新型コロナウイルスの影響で注文がそれほど取れていません。また、国内要因について一つ言えるのは、中小企業の経営が、今、非常に資金難に直面しているのです」

貸し渋りで深刻化する中小企業経営

中国のGDPの半分はサービス業。そのサービス業の中でも、とりわけ、中小企業が少なくない観光業の状況は深刻だ。

ペンション経営者 滕婧さん

ペンション経営者 滕婧さん

北京の中心部から北におよそ80キロ、万里の長城が残る響水湖景観区で5年前からペンションを経営する、滕婧(とう・せい)さんは、表情が冴えない。以前はゆったりとした庭の雰囲気や、屋上から望む長城の美しさなどで毎週末、予約で満室になる人気だったが、1月末に春節の連休を前に中国で新型コロナの感染拡大が明らかになり、宿泊業は営業を禁じられ、春節の予約は全てキャンセルに。5月中旬には営業再開にこぎつけたのだが、6月中旬に北京最大の食品卸売市場を中心に集団感染が発生したために観光地は入場が規制され、滕さんのペンションも再び休業となってしまった。今の最大の悩みは、やはり資金難だという。「大半の宿泊施設は従業員を抱えています。刻一刻と資金が流出していくので、大変な緊張を強いられています」(ペンション経営者 滕婧さん)

柯隆さん
「中国の銀行は、ほぼ全て、国有銀行なのですが、国有銀行が、こういう中小の民営企業にお金を貸していかない、いわゆる貸し渋りが起きています。日本の場合は、貸し渋りがあったときに、中小企業信用保証制度というのがあって、信用保証協会が保証してあげる代わりに信用金庫が融資をします。中国には、そういった制度がないために、中小企業が、今、非常に資金難に直面しています。そして、中小企業というのは、最も雇用をつくる存在なわけですから、そこ(資金難)が改善されないと雇用が改善されません」

「新型インフラ」にかける経済再興 中国の誤算も

一方、中国政府は、経済立て直しのために対策も打っている。
キーワードは「新型インフラ」だ。
AI(人工知能)や、新たな通信規格5G、ビッグデータの処理センターなど7つの分野を、産業を発展させる基盤=「新型インフラ」と位置づけ、整備を加速しようとしている。中国政府系のシンクタンクによると投資額は2025年までに日本円にして150兆円と見込まれている。中でも重視しているのが5G。

通信機器大手「ファーウェイ」

通信機器大手「ファーウェイ」

5G戦略の中心にいるのが、通信機器大手「ファーウェイ(華為)」で、同社は、5Gの通信網を中国全土に広げる一環で、エベレストの標高6500メートルを超える場所にも基地局を設置してみせた。中国国内の5G基地局は、現在の25万から、年内には60万を超える見込みだという。「中国は、AIやクラウド、ファーウェイの5Gの価値を認識し、多くの資金を投入しています。我々は良い結果を出すでしょう」(ファーウェイ通信事業者部門 ポール・スキャンラン氏)

柯隆さん
「中国のGDPを押し上げる上では、デジタル経済というのは、とても重要なわけです。すなわち、これから中国経済、さらには世界経済を牽引するエンジンになってくるだろうと期待されています。ただ、足元の雇用をつくるには、実は、あまり力はありません。というのは、デジタル経済の一つの特徴というのは、省力化なのですね。全部、AIなどで管理されるわけですから。従って、短期的には、AIを中心とするデジタル経済をいくら促進しても、雇用は創出されません。中国の失業者を見ていただくと、ほとんどが出稼ぎ労働者や、いわゆる低付加価値の産業に従事している労働者たちです。この人たちの生活が非常に困窮してしまったので、足元の社会不安というのが、最も心配されています」

右:東京財団政策研究所 柯隆主席研究員

右:東京財団政策研究所 柯隆主席研究員

ファーウェイを頼りにした5G戦略にも、国際政治が暗い影を落としていると柯隆さんは指摘する。

柯隆さん
「北京(中国政府)の読み違いがありました。ファーウェイの強さが何かというと、安さなんです。例えばエリクソンなど、諸外国の同じようなメーカーがファーウェイと同じ製品や部品を作っても、ファーウェイよりはるかに高いのです。だから、ファーウェイの部品は買わざるを得ないだろうと北京は見ていました。
それが、まさかのまさかで、アメリカがまず排除した。それから、イギリスが、最初は排除しないと宣言したのですが、香港の問題が起きて、いきなりファーウェイを排除すると宣言した。私は、今、ファーウェイは相当危ないと見ています。安さだけではダメなのです。
なぜなら、5Gの技術や設備というのは、いわゆる国家戦略なのです。国家の安全保障に関わるものであって、『安ければ必ず買う』とはいかないわけです。私は、中国政府がもう少し国際社会と協調する、協力的な姿勢を示したほうが、中国のためだと思います」

「一国二制度」形骸化による中国経済へのダメージ

中国政府と国際社会との協調。それは、まさに習近平政権において最もないがしろにされてきた行動のように思える。香港の「一国二制度」の形骸化をはじめ、南シナ海での東南アジアとの摩擦、さらに最近はインドとまで軍同士の衝突が起きている。

中国 習近平国家主席

中国 習近平国家主席

池畑
「香港国家安全維持法に対して国際社会は非常に懸念を示し、アメリカは香港に対する優遇措置を撤廃する決定をしました。香港情勢は、中国経済にどう影響していますか?」

柯隆さん
「なぜ中国が香港の国家安全法を急いで施行しなければならなかったのか。理由はただ一つ。9月6日の立法会議員選挙でもし親中派の議員が負けた場合、香港が民主化の拠点に変わってしまいます。これは北京が見たくない風景で、そのためにこの法律を施行して、民主派の立候補者を封じ込めるという狙いが、もう明々白々なわけです。ただ、あまりにも強烈にやり過ぎたために、中国が被るロスも非常に大きいわけです。アメリカ政府が、さまざまな優遇措置をもう中止する、停止するとなると、その結果、まず、香港は国際金融センターのステータスを失います。

2番目は、香港の特に富裕層の人たちが、怖いので、諸外国へ移民として行きます。行くと同時に、当然、自分の金融資産も持ち出すわけです。香港ドルを持って行っても仕方ないので、ドルに換える、ポンドに換える、ユーロに換える、場合によって円に換える。そうすると、今の「ドルペッグ(ドルとの連動)」が外れる可能性が非常に高いわけです。これは国際金融市場にものすごく大きな影響を与えます。
そして、最後に、今まで中国は、直接、輸出しにくい貿易財を香港経由で輸出していたのですが、優遇措置を失うわけですから、これは、香港が国際海運センターのステータスを失うことを意味します。
国際社会へのアクセス、ゲートウェイを失うことによって、中国の経済、社会は大きなダメージを受けると私は思いますね」

日中関係に陰りも 日本企業への影響は

池畑
「日本の企業は中国経済のどのあたりを注視すべきですか?」

柯隆さん
「日本経済にとって、中国は、当然、重要なパートナーなわけです。経済的には、ものすごく中国に依存している。これは否定のできない事実なわけです。同時に、日本は国家の安全保障においては、アメリカに依存している。これは誰でも分かることです。ただ、日中関係は雲行きがかなり怪しくなってきたわけですね。もともと、春に予定されていた習近平国家主席の国賓としての訪日が秋にずれ込むだろうと。でも、ここに来て、日本の世論も与党の自民党も、『招待するのは難しいでしょう』となっています。また、香港でいうと、香港には日本企業が1600社くらいも現地法人をつくって情報を収集したり、中国でのビジネスのリスクマネジメントをしたりしているわけです。香港が国際金融センターでなくなり、情報も手に入らないとなると、これらの企業の一部は、たぶん、香港を離れることになります。すなわち、中国ビジネスの分散が、これから時間がたつにつれて加速度的に進んでいく可能性が高いと見ていいと思います」

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