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特集

2020年11月30日(月)掲載

ミャンマー スー・チー政権 2期目の課題

今月(11月)、総選挙が行われたミャンマー。アウン・サン・スー・チー国家顧問が率いる与党が前回を上回る議席を獲得し、圧勝しました。しかし、民族間の融和や、政治に影響力を持つ軍との関係など、問題は山積しています。スー・チー政権が直面する2期目の課題について、専門家へのインタビューで読み解きます。

西海奈穂子(「キャッチ!世界のトップニュース」キャスター)
「特集ワールドEYES、けさは、ミャンマーについてお伝えします。」

中川栞(「キャッチ!世界のトップニュース」キャスター)
「東南アジアに位置し、中国やインドなど大国とも国境を接するミャンマーは、多数派のビルマ人と多くの少数民族が暮らす多民族国家です。長年にわたって軍事政権が続きましたが、2011年に民政に移管。そして5年前の選挙でアウン・サン・スー・チー氏が率いる政党が勝利し、歴史的な政権交代を果たしました。」

西海
「国の事実上のトップを務めるスー・チー氏が抱える2期目の課題は何か。ミャンマー情勢に詳しいJETROアジア経済研究所研究員の長田紀之さんに話を聞きました。」

スー・チー政権の課題 民族間の融和

スー・チー政権の課題の1つ目は、異なる民族間の融和です。

ミャンマーには、少数民族の武装勢力が主なものでおよそ20存在し、今も一部では内戦が続いています。スー・チー氏は、停戦に向けた和平交渉を主導。しかし、停戦協定に署名したのは、10の武装勢力にとどまったままです。
長田さんは背景に、ミャンマーが抱える特殊な事情があると言います。

JETROアジア経済研究所 長田紀之さん
「少数民族の武装勢力が程度の度合いに差はありますが、軍と行政組織を持っていて、普通の国家が行うようなことを、武装勢力が領域内で担っています。

なかでも、ミャンマー東部シャン州の中国国境側に位置するワ自治地区では、『ワ州連合軍』という軍事組織が強力な軍隊をもって統治しています。他にも、独自にビジネスを行う武装勢力があり、例えばカジノを設けて中国人の観光客を誘致するなどしています。ほとんど国家の中に別の国家があるような形です。」

武装勢力と政府軍の内戦が始まったのは1948年、イギリスから独立した直後にさかのぼります。一部の少数民族が自治を求めて政府と対立。武装勢力となり、70年以上にわたって戦闘を続けてきました。

長田さん
「独立後、世界は冷戦のさなかで、ミャンマーに対してもアメリカや中国の介入があり、内戦が長引く要因となったと思います。

今では、少数民族や武装勢力がそれぞれ自立性を持った『疑似国家』のような領域を築いていて、そういった場所ではこう着状態が続いています。1つの国家にまとめる、普通の国家にするのは非常に大きな課題だと思います。」



スー・チー政権の課題 軍との関係

スー・チー政権の抱える2つ目の課題は、大きな権限を持つ軍との関係です。国防や警察などを担当する3つの重要閣僚ポストは軍の意向で任命されるほか、有事の際は軍トップの最高司令官が、大統領の職務を代行できます。軍にこうした強い権限を与えているのが、軍事政権時代の2008年に制定された憲法です。

この憲法を改正するには、議会の4分の3を超える議員の賛成が必要ですが、議席の4分の1は軍人に割り当てられていて、軍の賛成がなければ憲法改正は実現できません。スー・チー政権はこうした規定が政権運営の足かせになっているとして、軍人の議席を減らすことなどを盛り込んだ憲法の改正案を提出。しかし、軍人議員の反対で否決され、軍との対立が浮き彫りになりました。

長田さん
「ミャンマーは50年間にわたって、軍=国家のような国でした。そこから軍が自作自演で最大の譲歩をして、2008年の憲法を作ったわけです。見た目では民主化に見えるようなかたちで。憲法には軍が譲れない線というのが全部書き込まれていて、軍の権益が担保されていました。つまりシビリアンコントロール(文民統制)がないということです。政府が軍を管理できないので、軍は独自に軍のことを決定できます。この憲法があるかぎり、普通の意味での民主化は達成しえないわけです。ただ、アウン・サン・スー・チー氏が今年(2020年)75歳。

現在の国軍最高司令官のミン・アウン・フライン氏は64歳ですが、60歳が定年の最高司令官の職を特例で5年延長して務めています。なので遅かれ早かれ国軍の人事が動くと思われ、最高司令官の交代も考えられます。こうしたイベントの前後で政府と軍との関係がどのように変化するのか、注目する必要があります。」



スー・チー政権の課題 中国との関係

スー・チー政権3つ目の課題は、外交です。ポイントになるのは、中国との関係です。

長田さん
「軍事政権時、欧米から経済制裁を受けていましたが、その際に中国に非常に傾倒し、政治的・経済的に中国に依存する状況が強まっていました。

その後、テイン・セイン政権やスー・チー政権ではバランス外交の姿勢を重視し、ヨーロッパ・アメリカ・日本・インド・ASEAN諸国とバランスよく付き合いながら、中国ともつかず離れず緊密に経済協力をしていく方針をとってきました。このバランス外交に大きなくさびを打ち込んだのがイスラム教徒の少数派ロヒンギャ難民への対応です。これにより、欧米からのスー・チー氏個人への評価や国家自体への評価を失墜させてしまいました。国連などの国際的な舞台でミャンマーは針のむしろに立たされるわけですが、そこでミャンマーを守るのは誰かというと、中国になるわけです。結果としては中国の政治的・経済的な力をうまく使いながら、かつ、中国に依存しない外交を心がけていく必要があると思います。」

西海
「スーチー政権の誕生から、およそ4年。当初、民主化が進むことに大きな期待が寄せられましたが、1期目は思うような成果は得られませんでした。それどころかロヒンギャの問題や新型コロナウイルスの感染拡大という難題が加わり、スー・チー氏の前途は多難と言えます。しかし、選挙で与党が前回を上回る議席を獲得したことは国民にとって、スー・チー氏を信じる以外に選択肢がないという現実の裏返しでもあります。2度目となる国民の負託に応えることができるのか、正念場を迎えることになります。」

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