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特集

2020年11月16日(月)掲載

風刺画めぐる波紋の行方

先月(10月)、フランスに大きな衝撃が走りました。中学校の教員が男に首を切りつけられ殺害されたのです。授業でイスラム教の預言者ムハンマドの風刺画を生徒に見せたことが原因とみられています。


フランス マクロン大統領
「あなたが教えた自由を守り政教分離を貫く。風刺画を見せる自由も諦めない。」


マクロン大統領のこの発言に、中東やアジアのイスラム教徒は反発。抗議デモが拡大し、不買運動も起きています。風刺画をめぐる波紋の行方について、専門家と読み解きます。

風刺画めぐり 仏で相次ぐテロ

西海奈穂子(「キャッチ!世界のトップニュース」キャスター)
「フランスでは9月からの1か月あまりでテロ事件が3件、相次いで起きています。」

中川栞(「キャッチ!世界のトップニュース」キャスター)
「最初の事件が起きたのは、5年前、イスラム過激派によるテロがあった新聞社『シャルリ・エブド』の旧本社前。男女2人が刃物で切りつけられました。そして10月16日、風刺画を見せた教員が、男に刃物で首を切られて死亡。さらに南部ニースでは教会関係者など3人が襲われ、亡くなりました。
きっかけとなったのは、『シャルリ・エブド』がことし(2020年)9月、イスラム教の預言者ムハンマドを描いた風刺画を再び掲載したことです。」

西海
「この風刺画について、イスラム教徒は強く反発しています。イスラム教は偶像崇拝を禁じていて、預言者の姿を描くことは教えに反するからです。
一方、フランスでは『表現の自由』が重んじられ、長い歴史の中で王制やカトリック教会などあらゆる権力が風刺や批判の対象となってきました。
しかし、フランス国内に多くのイスラム教徒が暮らすいま、その伝統的な価値観が議論を呼んでいます。
フランス社会に詳しい同志社大学教授の森千香子さんに話を聞きました。」



フランスに根づく風刺画文化

森千香子 同志社大学教授
「フランスでは19世紀ごろから大衆新聞で、さまざまな風刺画が描かれるようになり、『風刺の文化』がとても重んじられるようになりました。強い立場の権力者に対し、普段は圧倒的に地位の差があるが、風刺を通して権力を批判してきました。
ところがいま、現在のフランスにおいて、イスラム教徒に対し、イスラムの預言者の絵をあのように見せる、風刺するというのはどういう意味を持つのか。マジョリティーのフランス人が、少数者であるイスラム教徒の宗教をからかうというのが、果たして風刺なのか。それとも弱いもの、あるいはマイノリティーに対してばかにするということなのか。
このように異なった力関係の中での風刺が、まるで『表現の自由』の問題だけであるかのように語られてしまう。このようなところに1つ問題があると思います。」



政教分離とは

「表現の自由」とともに議論になっているのが、フランス独特の原則「政教分離(ライシテ)」です。いかなる宗教も、学校など公共の場に持ち込ませない代わりに、個人の信仰の自由を保障するというものです。

森教授
「元々フランスはカトリックの国ですが、プロテスタントの人やユダヤ教徒など、宗教的マイノリティーもいました。そのなかで、カトリックの権力が非常に強大になりすぎると、そのマイノリティーの人たちの信仰の自由が奪われてしまう。そこで、『政治と宗教を分けましょう』ということから作られたルールです。
しかし、少数者の信仰の自由を守るための原則だったものが、1980年代ごろから、少数者であるイスラム教徒に対して、『あなたたちがイスラムのスカーフを着用して学校に来ることは、学校という空間の中立性を乱している。だからスカーフをとりなさい』というように、いつの間にか、少数者の信仰の自由を抑圧してしまうような原則に変わってきてしまいました。」



生きづらさ感じる イスラム教徒

フランスに暮らすイスラム教徒は、500万人から600万人とされます。森教授は、多くの人がフランスの伝統的な価値観を受け入れている一方、生きづらさを感じる人もいるといいます。

森教授
「フランス生まれのイスラム教徒といっても多くはフランス語を話すことができ、言語の同化が進んでいます。文化的には非常にフランス社会の価値観を受け入れて同化が進んでいる一方で、経済・社会的格差が縮まっていません。
例えば、同じ大学の文学部卒業であっても、企業に応募すると採用に関する差別があり、イスラム教徒の場合には面接に呼ばれる確率が5分の1以下になるといった格差がみられます。『自分はフランス人』と思いたいのに、どうしても思えない環境というのがあります。
特にこういう事件が続くと、ますますそういった気持ちが強まることで、疎外感が強まってしまう。ある意味、板挟みの状況を生み出しています。」



求められる政府の対応は

さらに、イスラム教徒が不安に感じているのが、フランス政府の対応です。政府は来月(12月)、新たな法案を提出し、イスラム過激派対策として宗教施設の運営団体への監視を強めようとしています。

森教授
「いまの政府の政策というのは、テロ事件を起こすといったごくわずかな人たちを前提にしていて、『もっとフランスのルールを守りなさい』、『あなたたちもフランスに従いなさい』。そのような動きを強める方向に進んでいます。理念は重要ですが、実際には実用主義的といいますか、あまり理念を掲げ過ぎるとマイノリティーであるイスラム教徒の排除というのが意図しない形で生まれてしまう。すごく複雑で多様な現実に対応するには理念よりも実質を優先するような対応が重要になってくると思います。」



仏政府の措置に懸念の声も

西海
「フランス政府は来月、イスラム過激派対策を強化する新たな法案を提出する方針ですが、こうした措置はイスラム教徒を締めつけるだけでテロの防止につながらないという声もあり、フランス社会にとって大きな課題となっています。」

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