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特集

2020年11月11日(水)掲載

中国 “温室効果ガス 実質ゼロ”の思惑

「中国の温室効果ガス排出量は2030年までにピークを迎え、2060年までに実質ゼロを実現できるよう努力する。」



ことし(2020年)9月、習近平国家主席が宣言した温室効果ガスの削減目標。世界最大の排出国が初めて表明した「実質ゼロ」の目標は国際社会を驚かせました。急速な経済成長の影で深刻な大気汚染に苦しんできた中国。
なぜいま、温室効果ガスの排出ゼロを目指すと宣言したのか。そして、それを実現することができるのか。大きな一歩を踏み出した中国の環境政策の実態に迫ります。

小林
「特集ワールドアイズです。けさは、中国の環境政策についてお伝えします。」

高橋
「地球温暖化対策の国際的な枠組み『パリ協定』では、世界の平均気温の上昇を産業革命前に比べて1.5度までに抑えるよう努力するとしています。そのためには、2050年に、世界全体で二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量を実質ゼロにしなければならないと言われています。『実質ゼロ』とは、排出量から、森林や海洋に吸収される量や人為的に回収する量を差し引いた値をゼロにしようというものです。」

小林
「現在、世界で最も多くの二酸化炭素を排出しているのは中国です。その中国が掲げた2060年実質ゼロへの宣言。その背景には何があるのか。東北大学・東北アジア研究センター教授の明日香壽川さんに話を聞きました。」

中国 “温室効果ガス 実質ゼロ” 専門家の印象は?

小林
「世界が驚いた宣言でしたが、先生はどのように受け止めましたか?」

東北大学 教授 明日香壽川さん
「私も驚きました。中身とタイミングのどちらも驚きでした。
温室効果ガスの削減目標について、これまでは、途上国は先進国よりも後に実質ゼロを目指し、先進国はもっと早く実質ゼロを達成するというのがパラダイムでしたが、今回、中国が他の途上国に先だって早期の目標を宣言しました。ある意味、国際社会にアピールする思惑があったのだと思います。」



方針転換の背景は?

貧困からの脱却を目指し、経済成長を優先させてきた中国。

電力の60%以上を、国内で豊富にとれる石炭での火力発電に頼ってきました。大量の温室効果ガスを排出することも、発展のためにはやむを得ないという立場をとってきました。
しかし、温暖化とは別の弊害が市民生活を脅かすようになります。それが中国政府の方針転換の背景にあったと、明日香さんはいいます。

明日香さん
「2013年ごろ、PM2.5による大気汚染が非常に深刻になって、国際問題にもなったことがあります。そのときから中国は、石炭の規制を非常に厳しくしました。
例えば大都市での石炭使用を禁止したんです。

そのため、石炭の消費量は2013年まで上昇傾向でしたが、その後は、少し横ばいになっていて、10年から20年前の研究者たちが予想していたような増え方とは全く違う様相を呈しています。これは非常に驚きで、中国がいままでと同じようなエネルギーをたくさん使う産業でやっていくような国ではもはやなくなったとも言えると思います。」

石炭などを大量に燃やしてエネルギーを生み出す経済に限界を感じた中国政府は、大胆なエネルギー転換を進めます。近年、再生可能エネルギー産業が着実に拡大し、いくつもの企業が世界で活躍するまでになっています。

明日香さん
「例えば、太陽光パネル産業は中国で非常に大きく育っていて、世界のマーケットを席巻しつつあります。いま、だいたい世界シェアの7割から8割ぐらいを占めています。風力も、中国企業が、世界のナンバー3かナンバー4ぐらいになっていますが、10年後はナンバー1になっていてもおかしくないと思います。将来的には、中国企業が世界を席巻できるかもしれないという思惑も当然あると思います。」

小林
「産業構造の大転換を図ろうとしているということでしょうか?」

明日香さん
「そうですね。
少なくとも太陽光ではうまくいっているので、経済的にもプラスにできる自信がある程度あって、次は風力、電気自動車、というかたちで中国の指導者は、考えていると思います。」



懸念される雇用問題

一方で、急激な変化には痛みも伴います。なかでも反発が大きいのが、石炭の採掘などに従事してきた労働者が仕事を失うことだと明日香さんは指摘します。

明日香さん
「例えば化石燃料を減らすと、化石燃料産業に従事している人たちが抵抗します。中国の場合は、炭鉱労働者が100万単位でいますので、そういった人たちの今後の仕事をどうするかという課題があります。

一方で、再生可能エネルギーや省エネルギー関連の雇用は非常に増えていて、化石燃料を使った発電や原発に従事する人数より、およそ3倍から4倍ぐらい多くなると言われています。そういう意味では国全体としてエネルギー転換をしたほうが雇用の面でプラスになりますが、その結果、職を失うことになる人々は、当然反発します。エネルギー転換をしようとしたときに、一番難しいのは、そういった失業者たちをどううまく説得するかというところです。」

社会に激しい摩擦を起こしかねない「温室効果ガスの排出量実質ゼロ宣言」。
しかし、中国ならではの政治の仕組みが、人々を目標の実現へと駆り立てていくだろうと明日香さんは予測します。

明日香さん
「中国の場合、地方の幹部には昇進する上でさまざまな条件があります。その中にエネルギー効率の環境基準をきちんと守り達成するというのも入っています。そこで一項目でもバツがついてしまうと、なかなか昇進できないようなシステムになっています。まさに官僚的なところではありますが、温暖化対策の目標を守らないと出世できないというようなところがあります。そういう意味でも、ほかの国のトップが言った重みと、中国のトップが言った重みは少し違うのかなと思います。」



中国の本気度は

世界最大の人口を抱える中国が挑むエネルギー転換。温暖化対策としてだけではなく、この先の経済発展の新たなフロンティアにしようとするねらいがあります。中国の“本気度”は、日本を含むほかの国々の環境政策にも大きなインパクトを与えると明日香さんはいいます。

明日香さん
「中国が示す数字に関しては、『本気ではないのでは』とか『適当なのでは』とか言う人がいます。

そこで例えば、中国はいつも口だけだから日本は何もやらなくていいと、座して待っていれば、まさに差は絶対に出てくると思いますし、日本企業も、日本社会全体もがんばらないと結局、国際競争に負けてしまうのではないかと思います。」

高橋
「中国はかなり本気でエネルギーの転換を図ろうとしているようですね。」

小林
「大気汚染などの公害問題をきっかけに変化を余儀なくされたということでしたが、ここで思い切った大転換に乗り出した方が経済的にも得だという見立てがあることが、本気度を高めているように思います。」

高橋
「日本政府も先月(10月)、2050年までの『排出量実質ゼロ』宣言をしました。難しい課題ですが、積極的に取り組んでいかないといけないですよね。」

小林
「明日香教授は、日本は石炭や石油などはほとんど産出していないので、中国と違って鉱山労働者の反発などの問題はあまり起きない分、エネルギー転換を進める上では有利なんだと話していました。温暖化という地球規模の課題には大きなビジネスチャンスもあるという発想で、さまざまなイノベーションが生まれることを期待したいです。」

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