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特集

2020年10月29日(木)掲載

アメリカ大統領選挙の放送準備 着々と進めています! 後編 アメリカの分断・分極化の行方について聞きました!

アメリカ大統領選挙がどんどんと迫っています。
前回の記事(…アメリカ大統領選挙の放送準備 着々と進めています! 前編)で選挙に向けた準備を進めていることをお伝えしましたが、選挙戦にかかわるアナウンサーたちで集まって、資料作りなども随時進めています。

今回、準備を進めていく中で今井が気になっていたのが、右派グループの過激な行動です。トランプ大統領を批判した州知事に対しての拉致未遂事件が発覚したり、極右団体「プラウドボーイズ」の集会にそれまで政治に関心がなかった市民が多く参加し始めていたりするなど、投票日が近付くほどそうしたニュースを伝えることが多くなりました。こうした背景にあると言われているのが、「アメリカの分断・分極化」です。保守的な考え方をする人たちと、リベラルな考え方をする人たちの隔たりは、この4年で特に進んだと言われています。

こうした「分断・分極化」は、いまアメリカ社会の中で一体どこまで進んでしまっているのか。そして、なぜ進んでしまったのか。
この疑問を解消するため、前回に続き、勉強会を開催しました!
アメリカ政治が専門の慶應義塾大学総合政策学部教授の中山俊宏先生に伺いました。

(国際報道2020 今井翔馬キャスター)

選挙戦でデッドセンター化するアメリカ

慶應義塾大学総合政策学部 中山俊宏教授

話を聞いてみると、上記の疑問を解消する鍵は、ずばり今回の選挙戦の戦い方にありました。
まず、政権発足時の2017年の時点で、およそ20年前に比べて、社会の価値観をめぐっての考え方が、共和党支持層はより保守的に、民主党支持層はよりリベラルになっていたという前提があります。それを踏まえた上で、いま両陣営がどう戦っているかというと、中山先生によると、「相手側の支持者を説得して自陣営に引き入れる戦略ではなく、徹底的に相手よりも自陣営を固める、いわば、Trench Warfare=塹壕戦をしかける。これを、選挙戦を通して何度も繰り返していくと、右側、左側の考え方が広がり、結局真ん中の活力が失われていく」。その結果、「センターの考え方が死んでいく。デッドセンターがますます進むようになる」、ということでした。確かに、今回の選挙戦は、新型コロナウイルスへの対応をめぐっても、両候補のウイルスへの捉え方、対応の仕方は真逆ですし、2回のテレビ討論会を見ても、それぞれの主張が折り合う様子は全くありませんでした。アメリカの未来を占う選挙を通して、アメリカ社会の分断・分極化が加速度的に進んでしまうというのは、なんとも皮肉なことだと感じました。



リーダーの選択ではなく、人格的な選択になってしまった大統領選

では、こうした分断はいつから始まっていったのでしょうか?
中山先生は「かつてからアメリカは、野球でもバスケットの試合でもなんでも、国歌を歌って、国旗を見上げるが、それは、その向こうにあるアメリカ的理念を共有し、再確認するためだった。アメリカが強いからではなく、一体性が弱く、分裂する要因があるから、絶えずアメリカの一体性を確認していかないといけなかった」と、もともとアメリカには分断・分極化の潜在的なタネはたくさんあったといいます。そして、冷戦終結後、アメリカ国外に脅威となる存在がいなくなったことで、国内的な諸問題が政治空間に入ってきたことが、アメリカの二極分化を本格化させたと見ています。その諸問題というのが、“人工妊娠中絶”や“同性婚”、“人種問題”、“銃保有”、“対テロ戦争”、“気候変動”などの争点です。「政治は本来、あらゆる問題を解決できるものではなく、希少資源を権威的に配分して妥協と合意を形成し、共同体を前に進めていこうとするくらいしかできないものなのに、その政治空間に、妥協点を探ることが非常に難しい争点が取り込まれた」ことで、人々の生活空間そのものが、党派対立に覆われてしまったと分析。

いまアメリカでは、日常の会話でも、なかなか政治の話ができないそうです。トランプ大統領を支持するのか、バイデン候補を支持するのか、という話は、リーダーを選択するという話だけにとどまらず、その人自身が人種についてどう考えるか、同性婚の権利をどう考えるか、コロナへの対応をどう考えるか、といった、その人個人の考え方を表明するものになってしまっているのです。話し合いができず、理解をしあえない状況は、分断を進めるのだろうと容易に想像がつきます。この現状について「今回の選挙戦は、リーダーを選択するのではなくて、人格的な選択になっている。非常に不幸なことだ」とお話していたのは、とても印象的でした。



分断・分極化の行方は

選挙戦が進むにつれてアメリカの分断がどんどんと可視化されていますが、では、選挙が終われば、この分断はなくなるのでしょうか?
中山先生は「選挙の結果がどうなろうと、当面は分極化がさらに先鋭化していくと考えざるをえない」と断言します。もし、トランプ大統領再選の場合、「共和党はこれまでの路線をより固め“トランプ党”を突き進む一方、穏健派(バイデン氏は民主党の中で中道の候補)で負けてしまった民主党はより左へ、社会主義的な側へと動く可能性」があります。またバイデン候補勝利の場合も、分断が進んだことで生まれた右寄りの団体や思想による、「バイデン政権への拒否運動が展開されてしまう」ことも考えられます。今回の選挙戦は、結果が出れば終わり、という話ではなく、一連の流れの中の分岐点でしかないと捉えた方がいいのかもしれません…。

ただ一方で、二極分化については「政治的なある程度の二極分化は悪いことではない。国民に明確な選択肢と対立軸があることで、政策論争を繰り広げることができる」ともお話されていました。民主主義の国を標榜してきたアメリカ。行き過ぎた分断・分極化を是正し、健全な政治の形をいま一度作り直すことができるのでしょうか。大統領選挙、そしてその後の社会情勢の変化、しっかりと国際報道でお伝えしていきます。

…アメリカ大統領選挙の放送準備 着々と進めています! 前編

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