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特集

2020年10月28日(水)掲載

アメリカ大統領選挙の放送準備 着々と進めています! 前編

アメリカ大統領選挙まで1週間。連日、国際報道の中でも、トランプ大統領とバイデン候補の動きや、選挙戦の争点をお伝えしています。
実は、放送以外でも、日々、大統領選挙に向けた準備を、キャスターとして進めています。

何か起きても対応できるように選挙の争点ごとにこれまでの原稿をまとめたり、基礎知識(政党の歴史や主張など)をノートにまとめたり、デスクのそばには、ソーシャルディスタンスでできたスペースを生かして、アメリカの地図を貼って集会が開催された場所や事件などが起きた場所をすぐに確認できるようにしています。

そして今回、特に力を入れたことが、大統領選挙の放送にかかわる各番組のアナウンス室のメンバーと協力しながら開催した「勉強会」です。新型コロナウイルスの影響で今年(2020年)はアメリカでの現場取材も簡単には行けません。そこで、アメリカの選挙事情に詳しい外部の専門家の方に、選挙戦をどう分析しているか、アメリカでいま何が起きているかをリモートで伺うことにしたのです。
2回の勉強会を開催しました。
前嶋和弘さん(上智大学 総合グローバル学部教授)に「両陣営の選挙戦略と、選挙当日の動き」について、そして、中山俊宏さん(慶應義塾大学 総合政策学部教授)に「アメリカの分断・分極化の行方」について、伺いました。
参考になるお話ばかりでとても面白く、勉強会だけにとどめておくのはもったいない!
そこで、2回にわたって、開催した勉強会のエッセンスとともに、大統領選の現状と行方をお伝えしていきます。

(国際報道2020 今井翔馬キャスター)

南北戦争、第二次世界大戦につぐ、新型コロナの衝撃

上智大学 総合グローバル学部 前嶋和弘教授

こんなに不安な大統領選挙はないなと思います
1988年の大統領選挙以降、ずっとアメリカ政治を見続けてきた前嶋先生の勉強会は、この言葉から始まりました。その背景にあるのは、“アメリカの分断”です。前嶋先生は「トランプ大統領の直近(10月20日)の支持率は45%ほど。しかし、あるデータでは、共和党支持者に関していえば、そのうち94%ほどがトランプ大統領を支持。一方、民主党支持者の中では7%ほどしか支持していない。ここから言えることは、アメリカはもはや1つの国ではなくなっており、2つの国と見た方がいい。レッドステーツ、ブルーステーツの考え方が定着している」と現状を見ています。

赤がイメージカラーの共和党の支持者、青がイメージカラーの民主党の支持者に、国民は分かれてしまっており、特に前回の2016年の大統領選挙以降、交じり合うことが難しくなってしまっているのです。

バイデン氏

こうした状況の中での今回の選挙戦。率直に、選挙戦の現状を聞いてみると、このような答えが。「ふつうはバイデンが勝つと思える。トランプ大統領は満塁ホームランを打つしかない」。バイデン候補がリードしている大きな要因は、新型コロナウイルスです。「無党派だったが民主党寄りだった人たちが覚醒している」と言います。アメリカで、新型コロナウイルスで亡くなった人の数は、22万人を超えました。この数は、アメリカの歴史上で見ても、とてつもない数です。「南北戦争で亡くなった人の数は80万人近く。そして第二次世界大戦では30~40万人が亡くなった。新型コロナウイルスで亡くなった人の数はそれに次ぐ死者数となっている。アメリカ社会にとって相当なインパクトになっており、経済的に見ても統計開始以来最悪の景気後退」となっています。こうしたウイルスの猛威の影響で危機感が高まり、誰もが検査、予防、治療を無料で受けられる態勢の整備などを提言するバイデン候補を支持する人が増えているといいます。実際、バイデン候補の集会を見ていても、集まった有権者は車の中から出ず、クラクションを鳴らして応援するほどの力の入れようです。

トランプ大統領

一方のトランプ大統領。これだけ感染が拡大し、自身も感染したにも関わらず、新型コロナを過小評価し続けています。一体なぜなのか。実はこの、バイデン候補とトランプ大統領のコロナ対応の違いは、選挙戦略からくるものだというのです。



なぜトランプ大統領はコロナを恐れないのか

前嶋先生は、トランプ大統領がコロナを恐れない理由について、「アメリカではコロナに感染している人がとても多いが、それでもトランプ大統領がマスクをしないのはなぜなのか。アメリカでコロナ感染が始まった場所は、西海岸カリフォルニア、東海岸ニューヨーク、そして都市部で始まっていった。この3つの共通点は、民主党の支持基盤であることだ。政権側の中には、『民主党がいうコロナ対策をすると民主党を助けることになる』と話す人もいた」と説明します。民主党は都市部で強いと言われています。しかし、都市部は人口が多い分、密が増え、コロナのリスクは高まります。実際、6月のある調査では、『マスクを常に、もしくはほとんどの場合で着用すべきだ』、と答えた人は、民主党支持層で86%だったのに対して、共和党支持層で52%にとどまっていました。支持政党の違いが、国民の生活に影響を及ぼしていた、端的な例です。そして、トランプ大統領がカメラの前で初めてマスクを付けて現れたのは7月11日。この頃は、「感染が徐々に広がっていき、6月から7月頃に中西部や南部にも広がっていったちょうどその頃」で、共和党の支持者が多い地域にまで感染が広がっていった頃と重なります。共和党の支持者は郊外で暮らしていたり、広い農場などで働いていたりする人が多く、都市部などに比べるとコロナへの危機意識が薄いのです。そんなトランプ大統領の支持者にとっては、コロナ対策よりも経済再開こそが正義なのだと言います。

さらに前嶋先生は、「同じように、人種差別反対デモが起きたのも都市部。一部では過激な行動が起きたが、それをトランプ大統領は『法と秩序』で抑え込むという主張を繰り返した」ことで、都市部に住んでいない人へのメッセージを送ったと分析しています。これまで、トランプ陣営の選挙戦略の狙いはどこにあるのか、掴みかねていたのですが、分断が起きているいま、自らの支持者(だけ)にしっかりと届くようなメッセージを、さまざまな争点の中で戦略的に作り出してきていたのです。



選挙は11月3日では終わらない 延長戦の可能性

こうした選挙戦も残りわずか。しかし国際報道スタッフやアナウンス室でよく話に上がることが、『11月3日に選挙は終わらないのでは』という予測です。今回は、大規模な郵便投票が行われるからです。前嶋先生の想定では、「延長戦があると考えた方がいい。3日の投開票当日では、バイデン候補の票数は少なく、トランプ大統領が圧勝の可能性がある。しかし、郵便投票はバイデン候補が圧倒的に強いため、郵便投票分が開票されていくにつれてバイデンさんが追い上げていく」という流れが考えられるそうです。さらに、「トランプ大統領が選挙結果を法廷闘争に持ち込む可能性や、ゴタゴタと結果がでないまま来年(2021年)を迎え、下院によって大統領を決めるというシナリオまでを考えて今回の選挙戦を戦っている可能性もある」とのこと…。

選挙当日、日本時間でいうと11月4日が中心ですが、どんな展開になるのでしょうか。前嶋先生は「最後まで何が起きるかわからない」とも話していました。日々の両候補の動きも見逃すことはできません。ドキドキしながら、準備を進めています。

…アメリカ大統領選挙の放送準備 着々と進めています! 後編 に続く

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