BS1 ワールドウオッチング - WORLD WATCHING -

特集

2020年10月28日(水)掲載

香港 「国安法」に揺れる2つの“民主派” 再び団結できるのかが今後の民主化運動の鍵に

香港では「国安法=香港国家安全維持法」が施行されて以来、民主化を求めて反政府的な立場をとる「民主派」の人たちに対する取り締まりが厳しさを増しています。
その「民主派」ですが、実は一枚岩ではありません。1つは、31年前の天安門事件をきっかけに運動を続けてきた「母国である中国を民主化することが、香港の民主化につながる」という「従来の民主派」。
もう1つは、若者たちを中心に存在感を高める「香港と中国は別であり“香港人としての民主化”を求める」人たちで、中国と切り離し、自分たちの「本土」は香港だとして、みずからを「本土派」や「抗争派」などと呼んでいます。
2つのグループはこれまで考え方に多少の違いはあっても、同じ「民主化」という目的に向かい、協調して大規模なデモなどを行ってきました。しかし国安法によってそれも難しくなった今、双方の隔たりが表面化する場面が増えています。

(香港支局長 若槻真知)

国慶節 民主派による2つのデモ

10月1日、中国の建国記念日にあたる国慶節を迎えた香港。街なかでは、それぞれ違う場所で2つの抗議活動が行われていました。
ときに強硬な姿勢も辞さない立場で警察と対峙してきた「本土派」。多くの若者たちが民主化を訴えていましたが「違法な集会に参加した」などとして90人ほどが逮捕されました。

一方、平和的なデモなどを通じて訴えを続けて来た「従来の民主派」。毎年恒例のデモを行って中国の民主活動家や人権派弁護士らへの弾圧をやめるよう中国政府に訴えました。
しかし、新型コロナウイルスの感染防止を理由とした「5人以上の集会禁止」に違反しているとされ、罰金の切符が切られました。



「従来の民主派」メンバー“天安門事件を伝え続ける”

「従来の民主派」の中心メンバー、李卓人さん(63)が中国の民主化にこだわるようになったきっかけは31年前の天安門事件。民主化を求めて立ち上がった学生たちに共鳴し、北京に支援に駆けつけたものの、香港に戻ろうとしたところを逮捕されたのです。

李さんは2014年、事件の風化をくい止めたいと香港で天安門事件の記念館を開設。国安法の施行後は展示資料のデジタル化を進め、当局から閉館を命じられる事態に備えています。

館内には、香港の若者たちが主導した2019年のデモに関する展示もあります。それは李さんが天安門広場の若者たちと香港の若者たちは、同じ目的を共有していることを伝えたかったからだといいます。

従来の「民主派」李卓人さん
「私たちは天安門事件をずっと伝えてきました。2つの運動は非常に似通っています。当時の中国の市民と現在の香港の市民は同じ目標を持っています。私たちは中国人ではないと思っても運命共同体から切り離すことはできません」



「本土派」の若者“一国二制度は終わった”

しかし、そんな李さんとは異なる立場で民主化を主張するのが「本土派」の人たちです。

「本土派」として2019年の区議会議員選挙で初当選を果たした梁晃維さん(23)は「従来の民主派」とは運動の方針が根本的に異なると感じています。

「本土派」梁晃維さん
「多くの若者たちは過去1年の経験で一国二制度は終わったと考えています。『従来の民主派』が、なぜ腐った制度を生き返らせようとするのか理解できません」

梁さんが“香港人としての民主化”にこだわるようになったきっかけは2012年。繁華街にあった高級ブランド店で、中国本土からの旅行者には許可された写真撮影を、香港の市民がしようとしたところ店員に制止されたのです。店に抗議しようと市民が殺到しました。

「本土派」梁晃維さん
「ふざけた話です。どうして“香港人”が劣った存在になってしまったのか。あのときから“香港人”と“中国人”の関係について考えるようになりました」

梁さんは中国の影響力を排除することが、香港の民主化を実現する最善策だと考えます。

こうした「本土派」への支持は2019年の抗議活動以降、急激に拡大。10代、20代の若者では、この1年で「従来の民主派」への支持をしのぎ、半数近くまで増えています。



香港の民主化のため“違いを認め連携を”

二派により開催された討論会(2020年9月12日)

「従来の民主派」と「本土派」の意見の違いは、香港政府が立法会の議員選挙を1年延期すると決めた際にも鮮明になりました。二派により開催された討論会で、親中派が多数派を占める議会をボイコットすることで抗議の意思を示そうと梁さんたち「本土派」は、すべての民主派議員が辞職すべきだと主張。これに対し「従来の民主派」からは、議会に残って主張すべきだという声が上がったのです。
結局、多くの議員が留任の道を選び、梁さんたちの訴えは届きませんでした。

香港の民主化という同じ目標を掲げながらも違いが際立つ2つの民主派。
国安法による締め付けが強まる中、互いの違いを認め手を携えることができるのか、課題がつきつけられています。

「本土派」梁晃維さん
「異なる政治戦略を持ち、判断が違うのは普通のことです。どうなっても協力しあう機会を捨てるべきではありません」

従来の「民主派」李卓人さん
「みんなで策略を考えなくてはいけません。政府に大きな圧力を加えるため、平和的な抗議デモを行い国際社会に訴える一方で、同じやり方ではいつまでも通用しない。多様なやり方が必要です」



急速に台頭した「本土派」背景は

これまで主流とはいえなかった本土派の人たちが急速に台頭したのはなぜか?2019年6月以降、100万人、200万人という市民が平和的なデモで訴えても政府が市民の要求に応えなかったことなどもあり、若者を中心に、より対決姿勢を鮮明にする「本土派」の若者たちの方に支持が移っていったという面があります。
象徴的なのはデモが続く中で「光復香港(香港を取り戻せ)」というスローガンが急速に広がったことでした。
これは、もともとは香港の独立を主張していた「本土派」のリーダーが選挙で使った言葉で当初、このスローガンを叫ぶ人はほとんどいなかったんです。「本土派」のスローガンがここまで行き渡ったのは、それだけ、これまでのやり方では前に進まないと感じた人たちが多くいたからだと思います。



必要なのは“2派の団結”と“声を上げ続けること”

「香港を取り戻せ」のスローガンに支持が高まった一方で「従来の民主派」も「本土派」も国安法の導入で、確実に身動きがとれなくなりつつあります。
これまでは大規模なデモを一緒に行うことや、親中派を相手にともに選挙を戦うことで両者は団結を見せてきました。しかし、そうした手段はことごとく抑え込まれいま活動はバラバラになりがちです。
こうした状況について、長年、香港の社会を分析してきたジャーナリストは、いま民主派に必要なのは「最終的にどうなりたいのか」を改めて問うことだと指摘します。

ジャーナリスト 李怡李怡さん
「香港の独立を求めることは不可能です、そして中国に民主主義を求めることも無理なことでしょう。
権力の奴隷になりたくなければ、要求の声を上げ続けることしかないのです」

2019年6月から一連の抗議活動を取材し感じたことは、一言で「民主派」といっても考え方の幅はとても大きいということです。しかし、その誰もが、これからどうすれば運動を続けていけるのか苦悩しています。
民主派にとって、再び一致団結できるきっかけを作れるどうかが、今後の運動の行方を左右する鍵となるでしょう。

ページの先頭へ