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特集

2020年9月23日(水)掲載

アメリカ コロナ禍で揺れる教育現場

アメリカの教育現場が新型コロナウイルスの影響に揺れています。
アメリカでは、感染が拡大した春以降、ほぼすべての学校が休校となったり、オンラインの授業に切り替えられたりしました。
大統領選挙が迫るなか、社会や経済が平常に戻りつつあるとアピールしたい思惑があるトランプ大統領は、8月から9月にかけて始まる新学期には、対面の授業を再開させると宣言しましたが、その方針を巡って、大きな混乱が起きています。

(アメリカ総局記者 添徹太郎)

学校再開に抗議デモ

8月、対面授業を再開したアメリカ南部ジョージア州の高校では狭い廊下に大勢の生徒がひしめき合う様子がテレビや新聞で取り上げられ、感染を懸念する保護者から対策の不備を批判する声が上がりました。

対面授業の再開に反対する教職員や保護者らによる抗議活動も起きています。9月11日から一部で対面授業を再開する予定だったニューヨーク市では、教職員がストライキを行う構えを見せたため、再開は延期されました。

感染が収まっていない中で対面授業を再開すれば、さらなる感染の拡大を招くというのが教職員たちの主張です。デモに参加した教師は「子どもや教職員を守るための十分な対策がまだ整っていません。消毒液など安全のために必要なものすら用意してもらえないでしょう」と話し、参加した保護者も「感染は減っていますが収まっていません。学校は対策が不十分で安全とは思えないのです」など不安な声が多く聞かれました。



新型コロナの影響で教職員大量解雇

新型コロナの影響は思わぬ形でもあらわれました。一部の地域で教職員が大量解雇されているのです。自治体の収入が落ち込んで財政難に陥り、教育予算をカットせざるを得なくなったのです。マサチューセッツ州ブルックラインでは6月、全体の30%にあたる360人あまりの教職員が突然解雇を言い渡されました。

高校で物理を教えるグラシエラ・モハメディさんも、解雇を言い渡された1人です。

解雇が言い渡された教職員 グラシエラ・モハメディさん
「私の周りだけでも3人が解雇され、学校全体では20人から30人にのぼります」

抗議の結果、モハメディさんなど一部の解雇は撤回されましたが、前の学期よりはるかに少ない教職員で新学期を迎えることになりました。モハメディさんは学校で感染対策を徹底したり、授業の遅れを取り戻したりすることがさらに難しくなると感じています。

解雇が言い渡された教職員 グラシエラ・モハメディさん
「本当に子どもたちを学校に戻したいのであれば“この国の優先順位が何なのか”を考え直すべきです。政府は公教育のインフラにもっと投資する必要があります」



「POD」で拡大する教育格差

こうした中、民間による新たな教育サービスが登場しています。
「POD」と呼ばれるいわゆる学習塾です。人数を限定した学習グループをつくり、学校と同様の対面授業を行います。子どもの学びを補うものとして注目されています。

ニューヨークにあるこちらの「POD」では、生徒の数を6人から10人程度に抑え、机も離して授業を行っています。料金は、1グループで、1教科1コマあたり5万円ほどと高額ですが、学校と同じような雰囲気の中で学べることから、子どもの安全や、対面での教育を重視する保護者が相次いで利用し始めています。

PODに通う生徒は「新しい友達とも会えるから楽しい」と喜び、その母親は「初等教育の段階では子どもたちの社会的交流は心の成長に非常に重要ですし、親としては本当に助かります」と話していました。

PODの経営者ミーガン・スミスさんは「PODは公立学校より安全です。少人数の同じグループで会うからです。多くの家族が3月以降の休校期間はベストの教育ではなかったと話しています。彼らは直接会って教えてもらうことを求めているんです」とPODの意義を主張。

しかし課題も指摘されています。学校の安全や教育格差を専門に研究する、ジョンズ・ホプキンス大学 のアネット・アンダーソン博士は「POD」のような高額の民間サービスは、利用できる子とできない子との間で教育格差をさらに広げるおそれがあると指摘します。

ジョンズ・ホプキンス大学 アネット・アンダーソン博士
「パンデミックの影響による格差の拡大を懸念しています。裕福な親の子どもは教育への機会を選べるからです。どうすれば多くの子どもたちが同質の学習経験を得られるようになるのか、その方法はまだわかっていません」



独自の対策が求められる教育現場 NY市は

トランプ大統領は、対面での授業を再開しない州には政府からの教育予算を削減する可能性があるとツイートするなど、対面での学校再開にこだわっています。CDC=疾病対策センターは今月(9月)、対面授業の再開について、一定の基準を示しましたが、判断そのものはそれぞれの学校区ごとに独自に行っているいのが現状です。
例えば、9月29日から再開されるニューヨーク市の公立小学校からは次のような対策を行うと説明がありました。▼1クラス10人の小規模授業▼マスクは常時着用▼廊下は2メートルあけて歩く▼トイレは一度に1人だけ、といった対策を徹底するとしています。
ただ、大勢の子どもたちにこのルールを守らせることができるのか、疑問を感じる点もあります。

そうした感染の不安から授業再開に抗議するデモも起きていますが、一方で教育への懸念だけでなく、子どもが自宅にいるために仕事に戻れない保護者も多く、感染の懸念さえなければ、学校の再開は多くの人の望みです。しかし再開前に感染者が見つかり、再開が延期された学校もあり、まわりの保護者からは心配の声も聞こえます。
再開後に学校で感染者が確認された場合、どう対応するかは自治体の判断となっていますが、ニューヨーク市では▼クラスにひとりでも感染者が出れば学級閉鎖▼感染者が複数のクラスで出れば学校全体を閉鎖▼ニューヨーク市全体の検査数に対し、陽性率が過去7日間の平均で3%を上回れば全ての学校が閉鎖されます。

感染対策と教育のバランスは本当に難しい課題です。現状ですと先ほど紹介された学習塾「POD」のように、裕福な家庭の子どもたちはどんどん学校外で学ぶことができますが、そうした余裕のない家庭の子どもたちは、二転三転する公立学校のスケジュールに振り回されて、教育を受ける機会を失いかねません。

アメリカではこれまでも教育格差の問題が指摘されてきましたが、この状況が続くと格差がさらに広がり、大学への進学や就職といった将来の機会に長期的な影響が出てくる恐れがあります。
安全に学校に通えるようにするには感染を抑制することが必須ですが、その道筋は見えていないというのがアメリカの現状です。

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