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特集

2020年9月15日(火)掲載

米同時多発テロから19年 “あの日”と向き合い続けて

2001年9月11日、日本時間の午後10時1分過ぎ、NHKで速報が伝えられました。

キャスター
「たった今こういうニュースが入ってきました。CNNテレビによりますと、ニューヨークの世界貿易センタービルに11日、航空機が突っ込みました」


アメリカの中枢を突如襲った同時多発テロ。3000人近くの命を奪いました。

あの日から19年後の2020年9月11日、ニューヨークでは追悼式典が行われました。
追悼式典は、同時多発テロで崩壊した世界貿易センタービルの跡地に建てられたワン・ワールド・トレードセンターの下にある犠牲者の名前が刻まれた「追悼の碑」の周りで行われ、旅客機がビルに激突した時間に合わせて黙とうがささげられました。

ただ、今年はいつもと様子が違います。新型コロナウイルスの感染防止対策として、犠牲者の名前の読み上げは会場では行わず、事前に録音された音声が流されました。
ペンス副大統領や民主党の大統領候補・バイデン前副大統領も会場を訪問しました。

同時多発テロから19年、“あの日”の悲しみを乗り越え、前に進もうとする遺族を取材しました。

(アメリカ総局記者 及川利文)

父の死を乗り越えて

エミリー・チェンさん(38)の日本人の父親、青山世磨さんは、あの日、ボストン発ロサンゼルス行きのアメリカン航空11便に搭乗していました。

午前8時46分、世界貿易センタービルに激突しました。

エミリー・チェンさん
「ひたすら父の携帯に電話をかけて、その後、返ってくるのはボイスメールだけで。“早く電話に出て”と待っていました」

当時48歳で宗教団体の職員として働いていた父親。娘思いで、人を笑わせることが何よりも好きだったと言います。

エミリー・チェンさん
「笑顔が良かったんですよね。笑わせてくれたというか親父ギャグいっぱい言って・・・。亡くなったということを確信したときに、最初に思い浮かんだのが将来の家族を父に見せてあげられないということ・・・」

父親を突然失い、想像以上の苦しみにさいなまれたエミリーさん。
家族旅行のビデオを何度も見返し気持ちを落ち着かせたと言います。

そんなエミリーさんを変えたのが新たに築いた家族です。2人の娘を育てる中で教育への関心がより強くなったといいます。
これまでに教育分野の修士号を取得していて、いま夢に向かい歩み始めています。子供たちに異文化を理解してもらえる教育を実践したいと考えています。

エミリーさん
「皆さんそれぞれいいところがある、どの文化もどの人種も強みがあります。子供たちにはそこを知ってもらいたいですし、今のコロナとか人種差別の問題をみて、憎しみに焦点をあてるというよりかは、目の前の1人をどれだけ大事にできるかということに焦点をあてていきたい」



“寛容な社会”を訴える遺族

遺族の中には愛する人を突然奪われ、いまだ憎しみを抱えている人もいます。同時多発テロの後、アメリカでは事件と関係ないイスラム教徒を標的した憎悪犯罪=ヘイトクライムが相次ぎました。そして、コロナ禍の今も、人種間の対立が表面化し、社会問題となっています。
こうした中、今こそ憎しみを乗り越えて寛容な社会を取り戻そうと訴える遺族がいます。

ロビン・ドナティさん(56)の母親のロベルタ・ハーバーさんは、当時、世界貿易センタービルにあった保険会社で働いていました。

あの日、突然奪われた3000人近い命。社会全体に怒りが広がりました。

ブッシュ大統領(2001年9月14日当時)
「犯人をすぐに捕まえ、我々の声を聞かせてやる!」
群衆
「USA!USA!」

こうした中、アメリカ各地で相次いだのがイスラム教徒を排斥しようという動きでした。当時、ロビンさんもイスラム教徒に対し不信感を抱いていたといいます。

転機となったのは、テロ事件からしばらくして友人の誘いで参加したイスラム教の勉強会でした。そこにいたのは屈託ない笑顔で心を開いてくれる自分と何ら変わらない人たちでした。

ロビン・ドナティさん
「世界に多くのイスラム教徒がいますが過激な人はごくわずかです。大多数のイスラム教徒とわずかな悪意を持つ人を一緒にするのはフェアでない」

ロビンさんは全米各地で、宗教や人種に対する偏見や差別をなくそうと訴える取り組みを始めました。

ロビン・ドナティさん
「私は怒りのエネルギーを人々の橋渡しをする力に変えたいと思いました。意見の異なる人々や文化的に誤解されている人々への偏見をなくすために」



新型コロナで深まる分断

今年に入り、人種差別への抗議活動をめぐる対立が激化するアメリカ。ロビンさんは、今こそ、差別や偏見を乗り越え、互いを認め合うべきだという思いを強くしています。

ロビン・ドナティさん
「アメリカで分断が深まっているように感じます。ヘイトクライムや憎悪を表に出すことがますます許容されるようになっています。私は銃暴力やヘイトクライム、不寛容な行動を減らすために活動を続けていきます」

ロビンさん以外にもテロ事件の現場で活動した警察官や救急隊員の中にも差別や偏見をなくそうと訴えて活動する人がいる一方で、社会全体に差別や偏見を生みかねない分断が起きていることも事実です。
今年8月、ピュー・リサーチセンターが発表した世論調査の結果によりますと、「新型コロナウイルスの感染拡大以降、国内の分断が深まった」と回答したアメリカ人は77%に上っています。

同時多発テロ事件の別の式典が行われる東部ペンシルベニア州には、トランプ大統領とバイデン候補が訪れ、犠牲者を追悼しました。ペンシルベニア州は激戦州で、選挙を見越した動きともみられています。

未曽有のテロ事件から19年、アメリカ社会は分断が続く現実にどう向き合っていくのか、重い課題がつきつけられています。

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