BS1 ワールドウオッチング - WORLD WATCHING -

特集

2020年9月2日(水)掲載

アフガニスタン ISが“新たな脅威”勢力拡大か

アフガニスタンで今、長年にわたって軍事作戦を展開してきたアメリカ軍の撤退が進んでいます。
ことし(2020年)2月、アメリカと反政府武装勢力タリバンの間で交わされた和平合意により、現地に1万3千人いたアメリカ軍の部隊は、この半年で3割以上削減され、8,600人規模になっています。
しかし、アフガニスタン政府とタリバンとの間で、和平に向けた動きはほとんど進んでなく、戦闘やテロが依然、続いています。そしてその隙をつくかのように勢力を拡大し、新たな脅威となっているのが、 過激派組織IS=イスラミックステートです。

こちらは、アフガニスタン国内の勢力図です。まず緑のタリバンを見ます。1994年に結成されたタリバンは、国内に4万人から6万人いるとみられます。失業者や貧困層を取り込み、住民からも一定の支持を得ているとみられ、この緑の部分、国土の広い範囲を支配下に治めてます。
一方、ISは、5年前から、この赤い部分、パキスタンとの国境に近い東部ナンガルハル州の山岳地帯を主な拠点に活動しています。ISはシリアなどで壊滅に追い込まれましたが、このアフガニスタンでどのように巻き返しを図っているのか。その実態を追いました。

(イスラマバード支局長 山香道隆 ワシントン 支局記者 太田佑介)

米軍撤退と悪化する治安

アフガニスタン東部、ジャララバード。8月2日、市内の刑務所が武装集団に襲撃されました。犯行声明を出したのは、ISの一派を名乗るグループでした。爆発物を積んだ車を入り口付近で爆発させたあと、敷地内に侵入。混乱に乗じ、刑務所から逃走した受刑者のなかにはISの戦闘員も含まれていました。
治安部隊と武装集団との間で銃撃戦となり、市民など29人が死亡しました。

市民
「ISが再び脅威となっていることが心配です。彼らの攻撃と存在感が増しています」

アフガニスタンにISの活動拠点ができたのは、5年前といわれています。隣国パキスタンの過激派が、国境を越えてアフガニスタン東部で勢力を拡大してきました。
これに対し、ガニ大統領は去年11月、一大拠点のあった東部ナンガルハル州で掃討作戦を展開。「国内のISを壊滅した」と宣言しました。

しかし、専門家は、ことし2月の和平合意を受けて、アメリカ軍が撤退を始めたことをきっかけに、再び勢力を盛り返していると指摘。その数は、最大で4000人にのぼるとみています。

アフガニスタン情勢に詳しいラシード・アフメド・カーン氏
「ISはアメリカ軍の撤退によって空白となった地域を狙っています。アフガニスタン政府とタリバンの戦闘がもたらす混乱にも乗じて勢力を拡張しようとしています」

実際、現地では、2月以降、犯人不明のテロが相次いでいます。
5月には首都カブールで国際的なNGOが支援する病院が襲撃され、新生児を含む少なくとも14人が亡くなりました。このテロについて、犯行声明は出ていませんが、ガニ大統領はタリバンの関与を主張。一方のタリバンは、声明で関与を否定し、双方の見解は分かれました。

こうした中、“ISによる犯行”との見方を示したのが、アメリカのハリルザド特別代表です。
こうしたテロは、アフガニスタン政府とタリバンの対立をあおるものだと指摘。懸念を示しました。



どう拡大?IS元戦闘員に聞く

ISは今、アフガニスタン国内でどう勢力の拡大をはかろうとしているのか。今年6月までISの戦闘員だったという男性に話を聞くことができました。
ISは、新型コロナウイルスの感染拡大で広がる社会不安に乗じて、勧誘活動を活発化させているといいます。

IS元戦闘員
「ISは、パンデミックをきっかけに新たな戦闘員の勧誘を行っています。多くの若者が失業し、家にいることを利用しているのです」

勧誘は、主にSNSを通じて行われています。感染拡大は、イスラム法による国づくりを怠ったことへの天罰と訴え、感染が広がる地域でテロの実行を呼びかけているのです。戦闘員になれば、アフガニスタンの平均月収の2倍以上にあたる、毎月2万円から3万円ほどの給料が支払われるといいます。

さらに、ISは戦力増強のため、タリバンを支持しているとみられる隣国パキスタンのイスラム過激派組織と連携を深めているといいます。

IS元戦闘員
「ISと(パキスタンの)タリバン支持勢力は刑務所を攻撃するなどのテロを実行するため密接に連携しています」



ISに対抗するために

ISに対抗するため、アフガニスタン政府は、アメリカ軍と連携し、軍事作戦を強化。専門の特殊部隊を編成して対応を急いでいます。

またISを脱退した戦闘員を民兵として雇用。IS内部の状況の分析にも力をいれています。

去年ISを脱け、政府側の民兵となったシェル・モハマド(24)さんは2年ほど前、イスラム教による理想国家の実現を目指し、ISに加わりましたが、理想とかけ離れた組織の実態を目にし、離脱を決意したといいます。

IS元戦闘員シェル・モハマドさん
「ISの戦闘員はお年寄りや子供、女性の命を奪い、残忍な行為を行っています。だからISを抜けだし、今の政府に加わりました」

モハマドさんは、いま毎日、検問所に立っています。警備が手薄な早朝や夜間を狙うISの行動パターンなどこれまで知り得た情報を仲間と共有し、治安の回復に貢献したいといいます。

IS元戦闘員シェル・モハマドさん
「いまISは急速に拡大していて、都市を攻撃し始めています。私の夢はアフガニスタン人全員が幸せにそして自由に暮らすため永続的な平和と安全を確保することです」



一枚岩ではないタリバン

アフガニスタンでISの一派が勢力を広げているだけでなく、タリバンとも連携を深めている事例で、前出の元戦闘員があげたグループは、イスラム過激派組織「パキスタン・タリバン運動」と呼ばれ、パキスタン北西部を拠点に反政府活動やテロを行っている武装勢力です。
さらに、アフガニスタン国内のタリバンのなかにも、ISとの結びつきを指摘されているグループもあります。一口にタリバンと言っても、複数のグループから形成されており、政府関係者は、タリバンのなかでも保守強硬派の一部が、アメリカとの和平合意などで主導権を握る穏健派に反発してISと共闘している可能性があると指摘しています。



和平難航も進む米軍の撤退

一方、アメリカのトランプ大統領は、和平合意といわば引き換えに大統領選挙の公約でもある軍の撤退を進めてきましが、ISがアフガニスタンで勢力を広げている状況は、トランプ大統領にとっては誤算で、軍の撤退は見切り発車だったと言わざるを得ません。しかし、トランプ大統領は、大統領選挙に向けた実績作りとして、選挙までに駐留するアメリカ軍の兵士をさらに半減させ、4,000人台にすることを目指しています。
治安の改善が進まない中での大統領の前のめりの姿勢に、身内の共和党内からも「アフガニスタンが再び国際テロ組織の温床になりかねない」と懸念の声も出ています。

そもそも、アメリカ軍の撤退は、「タリバンがテロ組織との関係を断つ」との和平合意での約束を前提に進められてきました。しかし、いま、その前提となるタリバンへの信頼そのものが揺らいでいます。
タリバンとのつながりが指摘されているのは、ISだけではありません。ほかにも関係を指摘されている国や組織があります。まずは、ロシアです。アメリカのメディアは、情報機関の話しとして、ロシアがアメリカ軍の兵士やNATO軍の兵士を殺害するためにタリバンとつながりのある武装組織に報奨金を支払っていたと伝えています。

さらに問題なのがアルカイダとの関係です。国防総省は7月発表した報告書で、アルカイダがタリバンと緊密な関係を維持していると指摘しています。治安が回復する見込みもないまま、アメリカ軍の撤退だけが進むという、もっとも恐れていた事態に向かいつつあるのが現状です。



和平実現の足かせ

アメリカ軍の撤退が進む一方でアフガニスタンでは和平の実現が進んでいない要因は何なのでしょうか。
足かせの1つとなっているのが、アフガニスタン政府とタリバン双方の人質の解放をめぐる対立です。タリバンの幹部は、ボールは政府側にあるとして、人質全員が解放されれば、速やかに停戦協議に応じる考えを明らかにしています。

タリバン報道官 スハイル・シャヒーン氏
「政府は和平協議を求めています。われわれは1週間以内に協議を始めると伝えています。しかしその前提はすべての人質が解放されることです」

これに対し、アフガニスタン政府は、タリバンに政府軍の兵士など20人余りの人質の解放を求めています。複数の政府高官は、タリバン側と詰めの交渉が行われていることを明らかにしておりその行方が注目されています。

もう1つの足かせは、国内で勢力を盛り返すISへの対応です。政府は、専門の特殊部隊を編成し、ISの活動が活発な東部を中心に掃討作戦を展開しています。
にもかかわらず、最近も、首都カブールなど都市部でISによる攻撃やテロが相次ぐなど、一進一退が続いています。

「タリバンとの停戦協議」と「ISとの戦い」という、まさに二正面作戦に追われるアフガニスタン政府は、真の和平にむけて具体的な成果が問われています。

ページの先頭へ