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特集

2020年8月7日(金)掲載

米大統領選まで3か月 トランプ大統領に“逆風”選挙の行方は

11月のアメリカ大統領選挙まで約3か月。新型コロナウイルスや人種問題などで、再選をねらうトランプ大統領に逆風が吹いている。アメリカの政治情報サイト「リアルクリアポリティクス」によると、今月(8月)2日時点での全米の支持率は、野党・民主党のバイデン前副大統領が49.4%、与党・共和党のトランプ大統領が42%と、バイデン氏が7ポイントあまりリードしている。



激戦州を見ても、ミシガンやウィスコンシン、ペンシルベニアなどで、バイデン氏の支持率がトランプ大統領を上回っている。

前回の選挙で、トランプ大統領の誕生を後押しした「ラストベルト=さびついた工業地帯」で、今、どんな変化が起きているのか、取材した。

「ラストベルト」元トランプ支持者の不満

トランプ支持グループ事務所(2020年7月29日ミシガン州 デトロイト)

ラストベルトの一角・ミシガン州にあるトランプ大統領を支持するグループの事務所では、大勢の人たちが支援活動を行っている。ミシガン州は前回の選挙で、トランプ大統領がわずかな差で勝利した州で、今も熱心な支持者の間で人気は健在だ。

しかし8月1日時点の世論調査で、ミシガン州の支持率は、バイデン氏が8ポイント近くリード。トランプ大統領の支持に、ほころびが見え始めている。

クビーン夫妻(2020年7月29日ミシガン州 カールトン)

ミシガン州南部に住むクビーンさん夫妻。製造業が盛んな地域で暮らしてきた夫妻は、前回の大統領選挙で、経済や雇用政策に期待をし、トランプ氏に投票した。

左:キャロル・クビーンさん 右:夫ガイ・クビーンさん

妻キャロル・クビーンさん
「ビジネスマンだし、経済をよくしてくれると期待しました」
夫ガイ・クビーンさん
「鉄鋼業界は、それまで振るわなかったので、
大統領の経済再生の約束に期待していました」

就任から3年半、今、クビーンさん夫妻はトランプ大統領に投票したことを後悔している。

トランプ大統領の就任後、ミシガン州の失業率は徐々に改善したが、今、新型ウイルスの感染拡大で、全米平均を上回る史上最悪の水準となっている。

ガイさんが働いていた製鉄所(ミシガン州 ディアボーン)

夫のガイさんが働く製鉄所は事業の縮小を余儀なくされ、ガイさんも職を失うなど、夫妻のトランプ政権への期待は不信へと変わった。

夫ガイ・クビーンさん
「大統領の約束は守られていません。まわりも皆、そう感じています」
妻キャロル・クビーンさん
「パンデミックが起きているのに大統領は何もしません。
株価の方を気にしているんです」

トランプ政権を見限ったクビーンさん。その不満を民主党系の団体が運営するウェブサイトで発信することにした。

キャロル・クビーンさんの動画

クビーンさんだけではない。トランプ大統領に失望した元支持者たちは今、相次いでネットで怒りの声を上げ始めている。

ウィスコンシン州元支持者の動画
ウェブサイトの運営団体 ヒューストン・キングさん(2020年7月20日ニューヨーク)

サイトを運営する民主党系の団体は、こうした不満の声を集めて、動画を制作。全米に届けることで反トランプのうねりを起こそうとしている。「私たちは、激戦州で前回はトランプ氏に投票したが、今回は投票しないという有権者を掘り起こしています」(ウェブサイトの運営団体 ヒューストン・キングさん)。



「高齢者も“トランプ離れ”?」

さらにもう一つトランプ陣営には懸念材料がある。高齢者層の支持離れだ。前回の大統領選挙でアメリカのメディア、ニューヨークタイムズが行った出口調査で、65歳以上の有権者の支持率はトランプ氏が民主党のクリントン氏を8ポイントリードしたのだが、今回はこの高齢者層の支持にも変化が起きているのだ。

ジェイ・コパンさん

4年前トランプ氏が制した激戦州・ノースカロライナ州に住むジェイ・コパンさん(68)。前回はトランプ氏のビジネス経験に期待をして投票。その後も減税などの政策は評価をしてきたが、トランプ大統領が新型コロナウイルスの感染拡大に対して、国のために国民を団結させて、ウイルスと闘う政策を行っていないと強い不満を抱いている。

トランプ大統領(2020年2月27日)
ウイルスは、そのうち消滅する

トランプ大統領(2020年4月23日ワシントン)

トランプ大統領
消毒液は1分でウイルスを殺すらしい。
注射で体内に入れればいいんじゃないか

アメリカでは新型コロナウイルスによる死者の8割が65歳以上の高齢者だ。最近まで公の場でマスクを着けることもなく、科学を軽視するともとれる姿勢を示してきたトランプ大統領を、コパンさんは再選させてはならないと強く感じるようになった。「大統領は医師や科学者のアドバイスも無視してきました。彼は病的な虚言者で、発言はすべてウソなので、危機的状況下では何も受け入れられません」(ジェイ・コパンさん)。

先月(7月)の世論調査は高齢者の危機感をにじませるものとなっている。65歳以上の有権者の間で、バイデン氏の支持率がトランプ大統領を14ポイントもリードする結果となった。こうした状況に、バイデン陣営は攻勢を強めている。

バイデン氏のデジタル広告

バイデン氏のデジタル広告
今、最も打撃を受けているのは高齢者。
まずは高齢の親や愛する人のケアを始めたい。
より安全に、自立して暮らせるよう安心感を与えたい。
誰もが尊厳をもって扱われる権利がある。

バイデン陣営はノースカロライナ州など勝敗の鍵を握る7つの州に、日本円で15億円余りを投じ高齢者向けの広告を展開することを決めた。

右:前回トランプ大統領に投票したジェイ・コパンさん

コパンさんもバイデン氏に投票するつもりだ。「バイデン氏は、上品で立派な人物。この国を1つにまとめることができると思います」(前回トランプ氏に投票したジェイ・コパンさん)。

キーストーン大学政治学 ジェフ・ブラウアー教授

高齢者の投票行動を研究するペンシルベニア州、キーストーン大学のジェフ・ブラウアー教授は、ウイルスの感染拡大が高齢者の意識を変えたと指摘する。「高齢の有権者は、他の誰よりもパンデミックの影響を受けています。そのためバイデン氏に熱狂するというより、トランプ氏が自分たちの大統領としてふさわしくないと思い始めたのです」(キーストーン大学政治学部 ジェフ・ブラウアー教授)。



トランプ陣営 巻き返しのカギは?

トランプ大統領(2020年6月ホワイトハウス)

巻き返しを図るトランプ大統領は、「アメリカの高齢者のための闘い」と題した会議を開催。高齢者の医療費の負担軽減を進めると強調。

トランプ大統領
私たちはアメリカの高齢者のために闘う。高齢者を常に守る

また、新型コロナウイルスの影響で落ち込んだ経済や雇用を回復させられるかどうかも有権者の判断に直結する。7月30日に発表された四半期のGDPは、史上最悪のマイナス32.9%だった。さらに、失業率も歴史的な高さが続いている。新型ウイルスの感染拡大が世界最悪の状況になっていることへの批判も多く、今、選挙を行えばバイデン氏が当選するだろうと専門家も口をそろえている。しかし、その一方で、熱心な支持者たちは相変わらずという状況で、実際にバイデン氏がどの程度優勢なのか、見極めるのは難しい。
トランプ陣営がこうした状況を逆転するためには新型ウイルス対策、特にワクチンの開発も大きなカギとなりそうだ。トランプ政権は年内のワクチン開発、実用化を目指す「ワープスピード作戦」を発表し、日本円で1兆円という巨額の資金をあてて官民あげてワクチン開発を急いでいる。ワクチン開発に関する発表ひとつで株価が急上昇する現状もあり、仮に11月の選挙までに開発が進めば、景気、雇用も改善に向かい、情勢が一気に変わる可能性はある。まだ、選挙までは3か月あるため、今後の情勢を注視していく必要がありそうだ。

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