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特集

2020年7月27日(月)掲載

「差別」か「歴史」か。「南部連合」シンボル巡り高まる議論

5月に黒人男性ジョージ・フロイドさんが白人警察官に首を押さえつけられ死亡した事件をきっかけに、人種差別への抗議が続いているアメリカ。いま、各地で「南部連合」のシンボルを撤去する動きが起きている。「南部連合」は、1861年、アメリカ南部の州が合衆国からの独立を宣言して作った国家で、南北戦争当時、奴隷制の存続を主張していた。この「南部連合」の軍人の銅像や、記念碑、旗などがいまも各地に残されていて、奴隷制や人種差別を思い起こさせると批判が広がっているのだ。撤去をめぐり国民の間では賛否が分かれ、大統領選挙にも影響を与え始めている。

全米で消える「南部連合」のシンボル

セルウィン・ジョーンズさん

アメリカ社会の変化を求めて抗議デモに参加するセルウィン・ジョーンズさん(54歳)。
ジョージ・フロイドさんの叔父にあたる。「おいの死を無駄にするわけにはいかない。われわれの手で世界を変えなければいけない」(セルウィン・ジョーンズさん)

警察のロゴ  右:南部連合の旗

ジョーンズさんは地元に残る南部連合の旗の撤去に動き出す。「私はディープサウスと呼ばれる最南部で生まれたが、そこでは南部連合の旗が白人至上主義団体、KKK=クー・クラックス・クランによって掲げられていた。この旗は差別と憎しみの象徴だ」(セルウィン・ジョーンズさん)
6月、仲間とともに、地元、サウスダコタ州の警察のロゴの変更を求める活動を始めた。ロゴには、南部連合の旗がデザインされているからだ。およそ5000人の署名を集め、要望書を市に提出。地元警察は、ジョーンズさんたちの訴えを受け入れて、7月、ロゴを変更することにした。
南部連合の旗を撤去する動きは全米各地で広がり、南部ミシシッピ州の議会でも、6月末、全米で唯一残っていた州の旗にデザインされている南部連合のシンボルを取り除く法案をめぐって議論が交わされた。撤去に反対する声も上がったが、法案は、賛成多数で可決。知事の署名をへて成立し、全米のすべての州の旗から南部連合のシンボルが消えた。



国民の間でも割れる意見

撤去される南部連合の銅像(2020年7月8日バージニア州リッチモンド)

奴隷制を守るために武器を取った軍人の銅像にも、厳しい目が向けられている。かつて、南部連合の首都だったバージニア州の州都リッチモンドでも、市内に数多く存在する南部連合の銅像を撤去する動きが進んでいる。

ボブ・バルスターさん

南部連合の将軍の像の近くに住むボブ・バルスターさん(75歳)。これまで自分が住む歴史地区の代表として、歴史的価値のある建物の保護活動などを行ってきたが、今回の抗議デモを目にして初めて、南部連合の像が黒人にとっては人種差別の象徴であることを認識したという。「アフリカ系アメリカ人の子供たちは、学校の玄関を出ると南部連合の将軍の記念碑を目にする。その視点に早く気づくべきだった」(ボブ・バルスターさん)
そして、「過去の戦争の歴史をすべて排除することには抵抗があるが、南部連合の将軍たちは記憶されるべきものではない」と考えたバルスターさんは、6月に周辺住民と対応を協議して全会一致で像の撤去を決め、市に撤去を要望した。

ランディー・ウィテカーさん

一方で、フロリダ州に住むランディー・ウィテカーさん(59歳)は、南部連合のあらゆるシンボルを取り除こうとする動きに懸念を強めている。“人種差別や奴隷制度があったことは歴史として忘れてはならない” と考えるウィテカーさんは、あえて南部連合のシンボルを残すべきだと考えるグループの代表をつとめている。「良いか悪いかは別にしてそれは歴史だ。残さなければならないしそこから学ばなければならない。歴史がないと人は間違った教えに屈してしまう。それが心配だ」(ランディー・ウィテカーさん)



トランプ大統領と野党 攻防を激化

南部連合のシンボルを残すべきか否かという議論は、連邦議会でも高まっている。議会内にある10体あまりの像について野党・民主党は撤去を主張した。

民主党 ウォーレン上院議員(2020年6月29日ワシントン)

さらに民主党の副大統領の有力候補者の1人とされるウォーレン上院議員は、アメリカ軍の基地や軍用機から南部連合に由来する名前を一切取り除くことを義務づけた法案を提出した。ウォーレン上院議員は、議会で「合衆国を裏切り奴隷制度を守るために武器をとった人々に敬意を表するのをやめる時が来た。人種差別を終わらせ経済と社会のあらゆる面で白人至上主義を解体する時だ」と訴えた。

トランプ大統領(2020年7月3日 サウスダコタ州キーストーン)

一方、南部連合のシンボルを撤去する動きに批判的なトランプ大統領は、7月3日に4人の歴代大統領の巨大な顔が彫られたサウスダコタ州のラシュモア山を訪問した。民主党が目指しているのは、過去の偉人たちが築いたアメリカの歴史を転覆させることだとして、民主党への対決姿勢を強調した。「左派の文化革命がアメリカをひっくり返そうとしている。彼らは、私たちの国家の遺産であるすべての像、シンボル、記憶を破壊するつもりだ。私はそうはさせない」(アメリカ トランプ大統領)



米大統領選挙にも影響

これまでもアメリカ国内でたびたび議論になってきた南部連合のシンボルの撤去。ただ、これまでは、黒人と白人層の一部を中心に行われていた。しかし、今回、メディアやSNSなどで大きく扱われ、あらゆる人種や年齢層の人々にとって避けては通れないほどになっている。

左:トランプ大統領 右:バイデン氏

大統領選挙でもこの歴史をめぐる議論が争点になりつつあり、民主党のバイデン氏は、「南部連合のシンボルはアメリカの分断の象徴であり、トランプ大統領はそれを守ることで分断をあおっている」と批判を強めている。7月9日にペンシルベニア州で行われた演説で国民に対し「トランプ大統領は、アメリカに反逆した南部連合の旗と将軍の像を擁護することで、“アメリカ人の遺産を守っている”と主張している。私の思うアメリカはトランプ大統領が思うものとは違う」と主張した。バイデン氏は南部連合の旗を自らの集会場などに持ち込むことをすでに禁止しているほか、ウォーレン氏が提出した法案にも強い支持を表明している。
新型コロナウイルスや、抗議デモへの対応で批判を浴び、世論調査の支持率でバイデン氏に苦戦を強いられているトランプ大統領としては、共和党支持者と保守的な無党派層のこれ以上の支持離れを防ぐ上で、徹底してこの問題を利用したい考えだ。南部連合の旗を禁止する動きが広がっていることについても、「人種差別ではなく、南部を象徴しているだけだ」と強く反発。すでに像を破壊する行為に厳罰を科す大統領令や、偉人の像を集めた国立庭園を造る大統領令に署名している。
11月に迫った大統領選挙も見据え、当面、この問題から目が離せない状況が続きそうだ。

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