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特集

2020年7月14日(火)掲載

ポーランド 注目の大統領選挙

2015年に難民の受け入れ反対を主張して政権をとった与党「法と正義」の強権的な政治が続く東欧のポーランドで、今月12日、国の今後を占う大統領選挙の決選投票が行われた。決選投票に臨んだのは与党「法と正義」出身で現職のドゥダ大統領と、首都ワルシャワ市長で中道の野党「市民プラットフォーム」チャスコフスキ氏。結果は、ドゥダ大統領の勝利となったが、接戦となった今回の選挙で大きな争点となったのが、LGBTなど性的マイノリティーの人たちの権利だった。国を二分した大統領選、投票直前のポーランドを取材した。

与党出身ドゥダ氏の戦術“LGBTを争点に”

与党「法と正義」出身 ドゥダ氏の集会(ポーランド プウトゥスク2020年7月12日)

今回の選挙で再選をめざした現職のドゥダ氏。接戦が伝えられる中、保守層の取り込みをはかるため、LGBTについて、「共産主義よりも破壊的なイデオロギーだ」などと敵視する主張を繰り返していた。

与党「法と正義」出身 ドゥダ氏
ポーランドには伝統がある。1050年を超える歴史に支えられた文化がある。
いかなるイデオロギーも我々からポーランドを奪い去ることは許されない。

ポーランドは、地方を中心にキリスト教に基づく伝統的な価値観を重んじる人が多く、EUの中でも、最もLGBTに不寛容な国と言われている。同性婚は認められず、LGBTに対するヘイトスピーチを明確に罰する法律もない。

その上、「結婚は男女によるものだ」などと宣言する自治体も多く、LGBTの人たちが排除されることを意味する「LGBTフリーゾーン」と呼ばれる地域は、国土の3分の1に及んでいる。

2020年7月2日

その、いわゆる「LGBTフリーゾーン」の1つ、東部のプワヴィ市は「LGBTによるイデオロギーを食い止める」と宣言している。街行く人にLGBTについて聞くと「男性2人などの同性婚は普通の家庭ではないと思います。家庭には父親と母親がいた方がいい」など、異性婚のみを認める声も聞かれた。

プワヴィ市の市議会議員アンジェイ・クシックさん

プワヴィ市の市議会議員を務めるアンジェイ・クシックさんはドゥダ氏を支持する1人だ。LGBTは、キリスト教の教えに反し、到底受け入れられないと主張している。「国を愛すること、伝統や祖先を大切にすること、キリスト教を重んじることがとても大事です。私たちは伝統に根ざしています。同性婚は私たちの価値観への攻撃なのです」(市議会議員アンジェイ・クシックさん)。



現職ドゥダ氏の主張に反発するLGBT当事者

一方、再選を目指すドゥダ氏が、LGBTの権利を争点に据えようとしていることに当事者たちは強く反発している。同性カップルのガル・アロラさんとプラナイ・パブリツキさんに話を聞いた。

左:プラナイ・パブリツキさん 右:ガル・アロラさん(ワルシャワ2020年6月21日)

記者

「与党のもと、LGBTへの言動はどう変わりましたか?」

プラナイ・パブリツキさんさん

「急激に変わりました。年々状況は悪くなっています。
(ドゥダ大統領の出身政党である)与党のカチンスキ党首の政治は巧みです。
同性愛者への政治的なバッシングが始まるのは時間の問題でした。
それが今、激しさを増しています」

LGBTのデモに参加しているアロラさんとパブリツキさん(ワルシャワ2020年6月21日)

LGBTの権利が争点になることで「自分たちのような性的マイノリティーを敵視する風潮が強まるのではないか」という懸念を抱く2人は、LGBTの権利向上を求めるデモに参加し抗議の声をあげた。「誰もが自分らしく暮らせる社会であってほしい」と当たり前の権利を主張する二人は次のように思いを語った。

左:アロラさん 右:パブリツキさん

「ヘイトにさらされず、自由に手をつなぎたいのです」(ガル・アロラさん)。「隠れるのではなく、自分たちの姿を見せるべきですし、普通の暮らしをすべきだと思います。野党候補のチャスコフスキ氏が大統領になるチャンスは大いにあります」(プラナイ・パブリツキさん)。



“LGBTの権利を擁護”野党チャスコフスキ氏

野党「市民プラットフォーム」チャスコフスキ氏の集会(ワルシャワ7月12日)

野党「市民プラットフォーム」のチャスコフスキ氏は、LGBTの権利を擁護する姿勢を示し、ドゥダ氏の戦略を批判している。

野党「市民プラットフォーム」チャスコフスキ氏
私は違う考えや外見が異なる人への攻撃を決して許さない。
国の将来について違う意見の人を攻撃してはならない。

ワルシャワ大学 レナータ・ミンコスカノルキアナ准教授(2020年7月6日)

政治学が専門家のワルシャワ大学 レナータ・ミンコスカノルキアナ准教授は、与党出身のドゥダ氏の選挙戦術は、社会の分断を深めるだけだと警鐘を鳴らす。「ドゥダ氏はLGBTの問題を宗教や家族を守ることなど他の問題と結びつけようとしています。LGBTのテーマを最悪の形で利用し、社会をさらに深く分断しようとしているのです」(ワルシャワ大学 レナータ・ミンコスカノルキアナ准教授)。



ポーランド、EUの今後は

左:ドゥダ氏 右:チャスコフスキ候補

ポーランドで政治の主導権は首相が握るのだが、大統領は法案の拒否権を持つ。そのため、リベラル派のチャスコフスキ氏が当選すれば、与党が進める強権的な政治にー定の歯止めがかかることになり、一方でドゥダ氏が再選されれば、強権的な政治がますます強固になることも予想される。そもそも、現職のドゥダ大統領のもとで、これまで、司法改革の一環として政権に批判的な裁判官を政府が罷免できるようにする法律が成立したり、政権がメディアに介入する事態も起きたりと、民主主義に逆行するような動きが顕著になっていた。

ワルシャワ大学 レナータ・ミンコスカノルキアナ准教授(2020年7月6日)

こうした状況下、法の支配や民主主義を基本的な価値として掲げるEU=ヨーロッパ連合との対立が先鋭化。前出のミンコスカノルキアナ准教授はEUも選挙の行方を注視していると指摘している。「与党は権力を維持するために間違いなく、裁判システムなど憲法を守るあらゆるものを破壊するでしょう。ヨーロッパの統合を支えてきた国としてのポーランドがいま、危うくなっているのです。EUは大統領選を静観しつつもチャスコフスキ氏が勝利して、ボーランドに"正常さ"が戻ることを願っているはずです」(ワルシャワ大学 ミンコスカノルキアナ准教授)。

ドゥダ氏

今回の大統領選で、接戦を制して勝利したドゥダ氏。伝統的な価値観を重視する保守層からの支持を固めた結果で、手厚い社会保障政策やアメリカとの強固な関係をアピールしたことも後押しした。ドゥダ氏の再選によって、強権的な政治は継続するものと見られ、EUとの関係が今後どうなっていくのか、ポーランドの行方が注目される。

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