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特集

2020年7月13日(月)掲載

中国で普及が進む燃料電池車

次世代のエコカーとして注目される燃料電池車。水素を燃料に、空気中の酸素と化学反応させることで電気を発生させ、その電気で走る。走行中は二酸化炭素を排出せず、水しか出さないため、“究極のエコカー”とも呼ばれる。日本では、2014年にトヨタ自動車が燃料電池車「MIRAI」を世界で初めて一般向けに販売し、乗用車を中心に普及が進み始めているが、燃料を補給する水素ステーションの数など課題も多い。こうした中、いま中国では、燃料電池車の普及が加速している。世界最大の自動車市場・中国で、政府の後押しを受けて産業育成が進む燃料電池車の現状を取材した。

バスやトラック 商用車で導入

中国 広東省仏山市

中国南部・広東省の中央に位置する仏山市南海区の街なかを走る路線バス。実はすでに燃料電池車が導入されている。バスの運転手に話を聞いてみると、燃料電池車のメリットについてこう話す。「電気自動車は1日2回充電するが、燃料電池車だと1回の水素の充てんで済む」。燃料電池車は、電気自動車と比べて燃料の補給にかかる時間が短い。その上、走行距離も長いという特長があるため、現場では燃料電池車の導入を歓迎していた。

バス運営会社幹部 曹志峰さん

バス会社を運営する幹部も、燃料電池車の今後に期待している。「燃料電池車の先行きは明るい。国が、資源を投入しているからだ」(バス運営会社幹部 曹志峰さん)。バス会社は、現在11台ある燃料電池バスを、年内に400台近くまで増やす計画だという。

燃料電池車

実は中国では、乗用車ではなく、バスやトラックなど商用車で燃料電池車が増えている。中国でも燃料を補給するための水素ステーションの数に限りがあるが(去年末で全国52か所)、商用車はルートが決まっているため、燃料電池車を導入しやすいのだ。中国の燃料電池車の台数は、今年5月末時点で約6500台。日本の1.7倍となっている。



普及の背景 政府が後押し

急速な普及の背景には政府の支援がある。燃料電池車は、車両や水素ステーションのコストが高いのが課題だが、政府が手厚い補助金で後押しをしていて、現在、仏山のほか上海や武漢など全国20余りの地区で水素産業の整備の計画が進んでいる。
さらに政府は、関連産業の供給網・サプライチェーンの構築を通じて産業として成長させることに力を入れていて、仏山市には既に30以上の関連企業が進出した。「我々政府は多くの労力と財力をかけて水素産業の発展を推し進めてきた。今後、さらにこの産業を発展させ規模を拡大していく」(仏山市南海区発展改革局 蔡徳権副局長)。



課題の技術力は日本と連携

燃料電池メーカー「広東愛徳曼水素エネルギー装備」

一方、今後の課題となっているのが「技術力」だ。仏山市にある燃料電池メーカー「広東愛徳曼水素エネルギー装備」では、自社の技術力強化の取り組みを進めているが、依然として海外メーカーには追いつけていないのが実情だという。「世界の一流製品と比較するとまだ差がある。世界最先端の製品との差を縮めて、3~5年で追いつきたい」(燃料電池メーカー「広東愛徳曼水素エネルギー装備」 楊煥軍副社長)。

トヨタ自動車の燃料電池車などを視察する中国の李克強首相と安倍総理大臣(2018年5月11日 北海道 苫小牧市)

そこで中国が模索しているのが、高い技術力を持つ日本との連携だ。2018年に日本の北海道を訪れた李克強首相は、トヨタ自動車の燃料電池車を視察し、連携に期待を示した。日本との連携を通じて自国の技術向上につなげたい狙いがある。
2020年6月には、トヨタと中国の自動車メーカーなど5社が、商用の燃料電池システム研究開発会社を年内に北京に設立することを発表し、連携が動き出している。

水素産業の国際展示商談会を東レの出口雄吉副社長らが視察(2019年10月27日 中国 広東省仏山市)

自動車メーカー以外の日本企業も、中国側のニーズをとらえ、売り込みに動いている。2019年10月、仏山市で開催された水素産業の大規模な国際展示商談会には、日本の繊維・化学大手の東レの副社長らが視察に訪れた。東レは、水素を入れるタンクに欠かせない炭素繊維や、燃料電池の部材を作っている。

左:仏山市南海区 顧耀輝区長 右:東レ 出口雄吉副社長(2019年10月27日 中国 広東省仏山市)

この時、特別に、東レと地元政府の懇談の場が設けられ、両者は今後の連携について意見を交わした。

仏山市南海区 顧耀輝区長

「御社は水素産業で世界をリードしている。
この分野でぜひ連携を強化していきたい」

東レ 出口雄吉副社長

「去年に来た時よりも、中国の水素、燃料電池関連の産業が大きく伸びているという印象を強く持った。
非常に発展が速いのでチャンスは大いにあるのではないか」

急速な市場の広がりを強みに、技術の向上に挑む中国。今後は乗用車の開発も進め、燃料電池車を2025年に5万台、2030年には100万台に増やす目標だ。燃料電池車で世界をリードする存在となるのか各国が注目している。

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