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特集

2020年7月10日(金)掲載

再入国拒否 日本に戻れない外国人

日本は新型コロナウイルスの水際対策として現在、129の国と地域から外国人の入国を拒否している。政府は今後、感染状況が落ち着いている一部の国や地域からの出張者や駐在員、それに技能実習生といった「ビジネス上、必要な人材」とする人たちについては往来を認める方針で、まず先月(6月)、日本からベトナムへの臨時便の運航が始まった。その一方で、日本を生きる場所に選んだ留学生や、長年働いてきた外国人たちの再入国は認めていない。出入国在留管理庁によると去年(2019年)末、日本に住む外国人は293万人と過去最高を更新したが、事情があって一度出国した人は、日本に戻れないまま先行きが見えない状況に陥っている。

母国で募る不安とついえた夢

お茶の水女子大学 2019年3月

スロバキア出身のアンナマーリア・マツーリコヴァさん(27)は6年前、日本政府が授業料などを負担する「国費留学生」として来日し、国立大学を卒業後、大学院生として環境政策を研究していた。

アンナマーリア・マツーリコヴァさん(2020年6月24日)

しかし今、マツーリコヴァさんは一時帰国したスロバキアから日本に再入国できない状態が4か月間続いている。「自分の中ではこの状況を夢にも思わなかったですね。なかなか終わりも見えず、厳しいです」(アンナマーリア・マツーリコヴァさん)。

マツーリコヴァさんと両親(スロバキア2014年)

マツーリコヴァさんは入院する父親の世話をするため、再入国に必要な手続きをした上で、ことし(2020年)3月スロバキアに帰国した。

ところが、その1か月後の4月3日、日本政府は新型コロナウイルスの水際対策として、外国人の入国を拒否する対象国を大幅に拡大。親族の葬儀のために出国したなど、「人道上配慮すべき事情」がない限り、日本への再入国が原則認められなくなった。対象国にスロバキアも含まれていたため、マツーリコヴァさんも日本への再入国ができなくなったのだ。
マツーリコヴァさんは、日本の法務省に何度も事情を訴えたが「父親は生きていて『人道上配慮すべき事情』には該当しないだろう」という回答だった。再入国を認めるに足りる事情があるかは、日本に到着後、空港で入管の担当者が判断する。そこで再入国が認められなければ、自費でスロバキアに帰らなければならないのだ。

大学院のオンライン授業を受けるマツーリコヴァさん(スロバキア2020年7月2日)

日本に戻れない状況が続く5月、マツーリコヴァさんが通う大学院でオンラインによる授業が始まった。日本との時差は7時間で受講するのは簡単ではない。1限目が始まるのはスロバキアの午前2時で、受講をあきらめた科目もある。 

アンナマーリア・マツーリコヴァさん

さらに経済的な負担も大きくなっている。スロバキアにいても日本の家賃や携帯電話の料金など、月に6万円を支払い続けなければならないのだ。また、日本の国民健康保険に入っているため、二重保険を認めないスロバキアでは健康保険に加入できず、病気やケガをした場合、高額な医療費を請求されることになる。
アニメが好きで日本語を学び、念願だった留学を実現したマツーリコヴァさん。日本で研究者になりたいと考えていたが今回の経験でその夢を断念したという。

アンナマーリア・マツーリコヴァさん

「もう1度同じ状況になったら耐えられないので、卒業したらスロバキアに帰る予定です。留学生を軽く見ているというか・・・。『どうせ日本にずっと残らないだろうな、別に日本に戻らなくてもいいんじゃない』と思っているのかもしれないけれど、このような措置が続けば、日本の将来としても、働く人材が失われることもあるかと思います」(アンナマーリア・マツーリコヴァさん)。


第二の祖国日本に募る思い

日本で長年働き、暮らしてきた外国人にも再入国の壁は立ちはだかる。

水泳コーチ高野眞久さんと子どもたち(富山2020年7月1日)

今月(7月)から再開された富山市内の水泳教室では、コーチから残念な報告があった。「きょうからプールは始まったんだけど、いつもこの時間にいたダンコーチは、今はヨーロッパのセルビアにいて日本に帰ってこられなくなりました」(高野眞久さん)

スロボダン・パブコヴさん

“ダンコーチ”と呼ばれているのは、セルビア出身のスロボダン・パブコヴさん(48)で、この水泳教室で6年前(2014年)からコーチを務めている。ダンコーチの不在について、同僚の高野眞久さんは「ダンコーチはここのプールでは一番指導本数が多いので、ダンコーチの本数をカバーするのにとても困っています」と話す。

スロボダンさんと両親(セルビア2020年)

スロボダンさんは去年(2019年)12月、高齢の両親の介護のため一時的にセルビアに帰国したあと日本に戻れなくなった。今も水泳教室の子どもたちのことが気になって仕方ないという。

スロボダン・パブコヴさん(2020年6月29日)

「私はセルビア人ですけどハートの半分は日本人ですから。日本のことが好きなのに、日本に好きな仕事があるのに今は帰れません。すごく残念な気持ちです」(スロボダン・パブコヴさん)。

上:水球のプロ選手時代のスロボダンさん 下:来日後のスロボダンさん

水球の世界的な強豪セルビアでプロ選手として活躍していたスロボダンさんは17年前、富山県の誘いを受け、高校生を指導するため来日。特殊な分野での技能を持つ外国人に与えられる「技能」という在留資格を取得し、ビザを更新しながら日本で暮らしてきた。地元の水球クラブでも指導し、オリンビックの日本代表になった選手も育てあげた。

スロボダン・パブコヴさん(セルビア2020年6月29日)

税金も納め、日本を祖国のように愛していたスロボダンさん。家族同然の仲間もでき永住を考えていたという。「セルビアよりも日本の方が友だち、知り合い、好きな人もいますから日本がマイホームだと思っています。日本に帰りたいです」(スロボダン・パブコヴさん)


在留外国人 再入国の条件

出入国在留管理庁によると、マツーリコヴァさんやパブコヴさんのように、日本に生活基盤がありながら再入国できない外国人は推計で10万から20万にのぼるとみられる。では再入国を認められる在留外国人の条件とは何か。
日本で一定期間の滞在が認められる資格「在留資格」のうち、以下の4つの資格①永住者、②日本人の配偶者等、③永住者の配偶者等、④定住者がある人たちは、「日本で大きな生活基盤を築いている」として、渡航した国が入国拒否の対象に指定される前(1つの基準としては4月2日まで)に出国した場合、再入国が認められている。

左:アンナマーリア・マツーリコヴァさん 右:スロボダン・パブコヴさん

マツーリコヴァさんは「留学」、パブコヴさんは「技能」と、上記4つの在留資格以外なので、再入国には 「親族の葬儀に参加するために出国した」など、人道上の配慮が必要との判断がなされなければならない。一方、欧米諸国の多くは、入国制限を始める前から長期滞在が許可されていた外国人などの再入国を認めている。国内に生活基盤がある外国人に対しても再入国を禁じている日本の対応は、世界的に見ても特に厳しい。


求められる“再入国への道筋”

こうした中、日本に長期間暮らす外国人の入国を認めるよう政府に求める署名活動が5月下旬に始まった。インターネット上で1万人以上の署名が集まり、今月(7月)6日に政府に提出された。また、欧州ビジネス協会などの経済団体も「互恵関係とは言いがたい」として、往来の早期再開を求めている。
海外からの高度人材や労働力を求めてきた一方で、地域社会でともに暮らす外国人を、「国籍」を理由に画一的に排除することは、日本という国への信頼を損ない、ひいては人材の流出にもつながるおそれがある。新型コロナウイルス感染拡大の水際対策は重要だが、生活基盤が日本にある外国人について、再入国に向けた具体的な道筋を示す必要があるだろう。

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